第143話 敗者の処遇

 薄暗い部屋の中、オウガ達を取り囲むようにUの字に配置された机。

 そこにいたのはヴィラン組織『ウバウンデス』の幹部達だった。中心の席は空いており、首領であるロブオブヴァーミリオンの姿は無い。

 机の間に立つオウガ達を見る幹部達の目は非常に冷酷だった。



「それでおめおめと逃げ帰ってきたわけか」

「聞けば生き残ったのはお前たちだけだと言うではないか」

「部下を捕らえられ、しかも自分達も新米の魔法少女らに負けるとは。『血鬼壊戦』の名が泣くのではないか?」


 戦いの後、戻ったオウガ達を迎えたのはオウガ達を雇った組織『ウバウンデス』の幹部による罵詈雑言の嵐だった。


「くっ……」


 容赦の無い言葉の数々にライオネルは悔しさのあまり歯を噛みしめる。

 確かにオウガ達は結果を残したわけではない。むしろ幹部達の言うとおり結果だけ見れば無様極まりないものだ。

 だからこそ何も言い返せない。『ウバウンデス』に正式に加入しているわけではない、ただの雇われであるオウガ達に求められるのは結果だけ。

 その結果を残せなかった以上、何を言われても受け入れるしかない。

 ライオネルの前に立つオウガはただ黙って幹部達の罵詈雑言を受け止めていた。その胸中はライオネルにも計り知れない。

 ラブリィレッドとの勝負。オウガが敗れたという事実をライオネルは未だに信じることができずにいた。

 何か卑怯な手を使われたのではないかと本気で思っているほどだ。ただもしそうだとしてもオウガもライオネルも敗れたのは事実だ。

 組織に求められた結果を提示できなかった以上、たとえこの場で殺されたとしても文句を言うことはできない。それが怪人達の世界における傭兵の暗黙の了解だ。

 一体どんな裁定が下されるのか。それはライオネルにもわからない。

 そしていよいよ幹部達の間でオウガ達の処遇が決定した。


「与太話はここまでとしよう。貴様らは我らの望む結果を残さなかった。それどころか今回の結果は魔法少女共を調子に乗らせる最悪の結果になったと言えるだろう。我ら怪人の名に傷をつけたのだ。その罪は非常に重いと言える」


 いつから貴様らが怪人の代弁者となったのだ、とライオネルは心中で吐き捨てる。

 そして同時にライオネルが想像していた通りの展開を迎えようとしていた。


「その罪は貴様らの命を持って贖ってもらうと――」

「待つがいい」


 幹部達の言葉が遮られる。

 瞬間、部屋全体をとんでもないプレッシャーが覆う。

 誰が現れたのかなど、口にするまでも無かった。数瞬前までは空いていた中央の席。

 そこに座るべき主が現れたのだ。


「ヴァ、ヴァーミリオン様!? なぜここに。今日は来られないはずでは?」

「思ったよりも早く所用が終わったのでな。ずいぶんと面白そうな話をしているではないか」

「っぅ……」


 幹部達の顔色が変わる。その反応を見てライオネルは悟った。

 この幹部達はヴァーミリオンが戻ってくる前にオウガ達のことを処刑したかったのだと。

 ヴァーミリオンはオウガのことを気に入っている。幹部達はそれが気に入らなかったのだろう。

 ヴァーミリオンは幹部達には目もくれず、正面に立つオウガに目を向けた。


「オウガよ。負けたそうだな」

「あぁ」

「その魔法少女はそれほど強かったのか?」

「強い……というのは少し違うな。確かに強さもある。だがそれ以上に……芯があった。己を己たらしめるための芯が。まだまだ未熟ではあったがな」

「ほう、ずいぶんと気に入ってるみたいじゃないか」

「否定はしない」


 ライオネルですら威圧されていうこの状況。普通に話すことができているのはオウガだけだった。

 ヴァーミリオンは周囲にいる幹部に言い聞かせるように言う。


「オウガ達は確かに失敗した。だがオウガ達は我が組織が雇っただけの存在に過ぎない。これが我が部下であれば即刻処刑だが……今回は特別だ。見逃してやろう」

「な、なんですと?!」

「ヴァーミリオン様、それはあまりにも!」

「我が、見逃すと言ったのだ」


 その一言だけで幹部達は一斉に押し黙る。もし次に余計なことを言えば、殺されるのは自分になるとわかったからだ。


「どういう風の吹き回しだ」


 このヴァーミリオンの対応はオウガにとっても予想外だった。

 腕の一本を持って行かれるくらいのことは覚悟していたが、それすらも無しというのはさすがに不可解だったのだ。


「特別だと言っただろう。今日は機嫌が良いからな」

「……そうか」


 ヴァーミリオンの機嫌を良くさせる何かがあった。そう理解したオウガだったが、それについて追求することはしなかった。

 判断が下された以上この場にいる必要は無いと判断したオウガはくるりと身を翻す。

 その背に向けてヴァーミリオンは声をかける。


「オウガ、次は無いと思え。いくらお前であろうともな」

「……あぁ、わかっている。行くぞライオネル」

「は、はいっ」


 そのまま振り返ることなくオウガ達は部屋を出て行った。

 それを見届けた後、ヴァーミリオンは今度は幹部達に向けて話始めた。


「レプトデス。スタビーがとうとうアレを完成させた」

「っ、本当ですかヴァーミリオン様!」

「あぁ。これでようやく動き始めることができる」


 ヴァーミリオンの言葉に幹部達が色めき立つ。

 そしてヴァーミリオンは宣言した。


「これより我らは、本格的に地球への侵攻を開始する。我らの恐怖を、人間共に刻みこむのだ」


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