第141話 若葉の提案

 部屋の中に入ってきた黄嶋と空花の姿を見て頭が軽くパニックになる。

 さっき青嵐寺はここが『グリモワール』だって言ってた。魔法少女の関係者しか入れねぇはずのここになんで二人が居やがるんだ。


「やっぱり、そういうことだったのね」

「そういうこと? なんだよ、なにか知ってんのか?」

「知っているというわけじゃないけれど。まぁある程度予想をしていたのは確かよ。出てきたらどうなの、フュンフ」

「なーんだ、二人とも驚かせたかったのに。気づいてたのね」


 黄嶋と空花の間から残念そうな顔をしたフュンフが姿を現す。

 

「なんでお前が空花らと一緒にいるんだよ!」

「はぁ、察しが悪いわよ紅咲君。まだわからないの? そこにいる黄嶋さんがホープイエローなのよ」

「……はぁっ!?」


 なんでもないことのようにあっさりと告げられる事実。

 あいつが……黄嶋の奴がホープイエローだと?

 いや、でも確かにそう言われれば引っかかる部分もあった。もしかしたらって思ったことが無かったわけじゃねぇ。

 それでも最終的にはそんなのありえねぇと思ってその可能性は切り捨ててたんだが。何より相手の正体を探るなんざ男らしくねぇからな。

 

「お前が……」

「すみません」

「なんで謝る必要があんだよ。別に悪いことしてたわけじゃねぇだろうが」

「そう……なんですけど」

「……てめぇはいつオレのこと知ったんだよ。青嵐寺と一緒でフュンフから聞いたのか?」

「いえ、そういうわけじゃないんです。あの戦いの後、倒れたお二人の変身が解けて。それで知りました」

「変身が解けた?!」

「あ、でも大丈夫です。学校のみなさんにはバレてませんから。すぐに煙幕で隠しました」

「そ、そうか……って、それじゃあなんで空花の奴がいるんだ? まさかてめぇも――」

「あー、私は違うから。別に魔法少女ってわけじゃないよ」

「? じゃあなんで居るんだ?」

「この子は自分で気づいたみたいよ。あのラブリィレッドの正体があんただってことに」

「はぁっ!?」

「いや、驚くことないでしょ。あんな喋り方されたら誰だって一発で気づくって。気づかないのはそれこそ相当鈍いバカだけでしょ」

「喋り方……あ、そういや……」


 あのオウガとの戦いの最後、フュンフにかけられてた枷が解けたみたいな感覚あった。そしたら普通に喋れるようになって……まさかそれでバレたってのか?

 待て、あの場にいたのは空花だけじゃ無かったはずだ。亮平の奴も近くに居て。


「それじゃあまさか亮平の奴まで?!」

「いいや、リョウのバカは気づいてないから心配することない」

「そ、そうか。はぁ……」


 あいつがバカで助かった。もしこれであいつにまで気づかれてたらどうなってたか。

 いや、空花にバレた時点で今更かもしれねぇけど。


「オレらの正体について知った理由はわかったけどよ、それでなんでお前がここにいるんだよ」

「そこのぬいぐるみが声かけてきたの」

「だからぬいぐるみじゃなくてフュンフ! 何度言えばわかるの?」

「いやー。わかってはいるけどぬいぐるみにしか見えなくて。まぁいいでしょぬいぐるみで」

「よくないから! 晴輝からもなんとか言ってよ。彼女ずっとこうなのよ」

「お前がぬいぐるみ呼ばわりされようがされなかろうがどうでもいい。それよりも、なんでお前がこいつに声かけたんだよ。まさかこいつも魔法少女にしようってのか?」

「全然聞いてないし……はぁ。違うわよ。この子は魔法少女として声をかけたわけじゃない。協力者になってもらうために声をかけたの」

「協力者?」


 オレが亮平と空花に対して言い訳として使ってた……その協力者って奴に空花を?


「あなた達は全員学校の生徒で、これからも学校に通い続ける以上、事情を知っている人が一人くらい居た方がいいでしょう?」

「まぁそいつは確かにそうかもしれねぇが」

「冬影さんはそれを受け入れたの?」

「受け入れたというか。まぁ知っちゃった以上はね。見て見ぬふりをするってのも気が引けるし。何より面白そうだ」

「お前、最後のが本音だろ」

「ちなみに、亮平にこのことは?」

「伝えてない。伝えたら面倒なことになるでしょ。そういうのハルは居やがると思って」

「助かった。できればそのままあいつには黙っててくれ」

「わかった。これでハルの弱みを一つ握ったわけだ」

「お前なぁ」

「冗談冗談。言わないから安心して。委員長も、青嵐嬢もね」

「ありがとう。それでフュンフ、協力者って具体的には何をしてもらうのかしら」

「んー? まぁ、急に三人が出て行かなきゃいけなくなった時の対応とか? 学校自体は魔法少女統括協会の根回しでどうにでもできるけど、生徒達はそうはいかないから」

「確かにそうかもしれないが。それ一人でできるのか?」

「まぁそこはそれ。あたしも手伝うからなんとかなるでしょう。たぶん」

「たぶんってお前なぁ」

「あのっ!」


 そこで、ずっと黙っていた黄嶋が声を上げた。


「一つ、提案があるんですけど……」

「提案? なんだよ」

「ぶ、部活を……作りませんか? 私達四人で」

 

 黄嶋は緊張した面持ちで、オレ達に向かってそう言った。

 

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