第63話 青嵐寺の話
「へぇ、思ったより綺麗な部屋なのね。男の子の部屋ってもっと乱雑というか、掃除されてなかったりするものだと思ってたんだけど」
「うっせぇ、勝手に部屋ん中ジロジロみるんじゃねぇよ」
オレの部屋の中に入るなりジロジロと周囲を物色する青嵐寺。普通人の部屋にきて見回したりするか?
空花も似たようなことしてきやがったが……なんでオレの周りの女ってこんな奴ばっかなんだ。亮平の奴がまだマシに思えてくる。まぁあいつはあいつで最悪だがな。
「ほらよ」
「ありがとう。って言っても、用意したのはあなたの妹さんだけど」
「一言余計だ」
机の上に秋穂が用意した紅茶とお菓子を置く。本音を言うならこいつに茶も菓子も出す必要なんかねぇと思ってるし、話を聞いたらさっさと追い返すつもりなんだけどな。
「いい紅茶を淹れるわね。本当に、とてもあなたの妹とは思えないわ」
「喧嘩売ってんのかおめぇ」
「褒め言葉なのだけど」
「それが褒め言葉になると本気で思ってんのかよ」
「?」
こいつマジか……素で言ってるとしたらこいつオレ以上に人間関係下手だぞ。ってかもしてかしてだからこいつ友達いないんじゃねぇか? 作らないんじゃなく作れない。こいつの無神経さからしたらあり得そうな話だ。
「なにか今、ものすごく憐れまれた気がしたんだけど」
「はっ、気のせいだろ」
「まぁいいけれど。それよりも、フュンフはいないの?」
「ん? そういや鞄から出てこねぇな。まだ寝てんのかあいつ」
「起きてるわよ。ふぁあああ……」
ちょうどそのタイミングで鞄の中から眠そうな顔をしたフュンフが出てくる。
起きてたっていうか、完全に寝起きだろこれ。
「ってあれ? 晴輝の部屋じゃない。もう帰ってきてたのね。それに零華まで一緒じゃない」
「気付いてなかったのかよ。どんだけ熟睡してたんだお前」
「学校に行ってる間は寝るしかすることがないのよ。あんたが鞄から出るなって言うせいでね。あれ、でももしかしてお邪魔だったかしら」
「何言ってんだてめぇは。頭腐ってんのかよ」
「はいはい。まったく、ちょっとした冗談も通じないんだから」
「お前の冗談に乗ってる暇はねぇんだよ。それで青嵐寺、結局何の用なんだよ」
「せっかちな男は嫌われるわよ? まぁいいけれど。それじゃあ今日の本題に入りましょうか」
紅茶を机の上に置いた青嵐寺は、急に真剣な眼差しでオレのことを見る。
「昨日も言った通り私があなたのことを魔法少女として認めることはない。そのスタンスは変わらないわ。あなたが魔法少女に相応しくないと思ったのも事実」
「はっ、わざわざそんなことを言いに来たのかよ」
「いいえ、まずは私のスタンスを明確にしておいただけよ。あなたのことを認めるわけじゃない。でも、昨日の夜にそうも言ってられない情報が回って来たのよ」
「あ?」
「これよ」
そう言って青嵐寺が見せてきたのは『魔法少女掲示板』の中にある依頼の所。
って、なんだこの依頼。見たことないもんばっかだぞ。
「あぁ、見たことない依頼が多いのはここに載ってるものが私に対する指名依頼だからでしょうね」
「指名依頼?」
「えぇ。魔法少女統括協会が、この魔法少女なら解決できるだろうと判断された場合に送られてくるのよ。まぁ受ける受けないは自由なのだけど。でも今回、どうしても見過ごせない依頼があったのよ」
「なんだそれ」
「この依頼よ。とある組織に所属する怪人の捕縛依頼」
「……よくある依頼じゃねぇのか?」
「まぁ似たようなものよ。ただこの怪人は今まですでに七人の魔法少女を返り討ちにしてる。だからこそ危険度が高くなって、指名依頼になったの。ただの野良怪人なら討伐するだけで終わりだけど、組織に所属しているとなれば話は変わる。情報を吐かせるために捕まえる必要があるの。昨日の怪人の捕縛とは違って失敗できない依頼よ」
「それで? その依頼がどうしたんだよ。受けりゃいいじゃねぇか」
「……よく見なさい」
「……二人以上指定?」
「そうよ。この依頼は一人じゃ受けれないの。だからあなたに声を掛けにきたのよ」
「おいおい、まさか協力しろってのか?」
「まぁ端的に言えばね。一人で受けれるなら一人で受けてるわ。あなたに頼んだりしない。でもこの依頼は二人じゃないと受けれないから仕方ないでしょう」
「なんでオレなんだよ。別に他の魔法少女に頼めばいいだろうが」
「それは……」
「ふふ、それは無理なのよね」
「あ? なんでだよ」
「この子、魔法少女の知り合いが他にはいないから、頼める相手が晴輝以外にいないのよ」
「……はぁ!?」
なんだそれ。こいつオレよりも魔法少女の経歴長いくせして知り合いいないのかよ。
「魔法少女は仲良しこよしをするためにあるわけじゃない。別に必要がなかっただけよ」
「いや必要がないって、今こうやって困ってんじゃねぇか」
「っ……」
スッと目を逸らす青嵐寺。さすがに多少の自覚はあるみたいだな。
「それで、協力してくれるのかしら? というより、協力してもらうわ」
「なに勝手に決めてんだよ!」
「五十万」
「あ?」
「今回の依頼の報酬金よ」
ご、五十万だと!?
い、いや。金の問題ってわけでもねぇが……でも、五十万か。こいつと分けても二十五万……相当な稼ぎになるぞ。
「まぁ返事は明日でいいわ。その様子だと答えはわかりきっていそうだけど」
「ふ、ふん。まぁ考えといてやるよ。金のためじゃねぇけどな。金のためじゃねぇけどなっっ!!」
「わかりやすい……それじゃあ話も済んだことだし、私はもう帰るわね」
「おう。さっさと帰れ帰れ」
オレが頭を悩ませてる間に紅茶を飲み終えた青嵐寺が部屋を出て行く。
一応見送りくらいはしとくか。というか、そういうのちゃんとしないと秋穂がうるさいからな。
そのまま玄関に行くと、それに気づいた秋穂とチビ共がやって来た。
「もう帰られるんですか?」
「えぇ、用事は終わったから」
「えー! れいかちゃんかえっちゃうのー! やだー! もっとあそぶのー!」
「ボクももっとお絵かきしたい!」
「千夏も冬也もあんまり我儘言っちゃダメ。青嵐寺さんにも予定ってものがあるんだから」
「「うー!!」」
「ふふ、ごめんね二人とも。また今度遊びに来るから」
「やくそくだよー」
「えぇもちろん」
「二度と来んな」
「なにか言ったかしら」
「はっ、別になんでもねぇよ」
「ならいいけど。それじゃあまたね。紅咲君とは明日会うことになるけど。返事はその時に聞かせてもらうわ」
「わーってるよ。さっさと帰りやがれ」
呆れたように肩を竦めて家を出て行く青嵐寺。これでようやく静かになる。
依頼のことについてはまた後で考えるか。
「ねぇお兄ちゃん、返事って何?」
「あ? あー……別に大したことじゃねぇよ。学校のことでな」
「ふーん…あ。そうだ。もうすぐご飯の用意できるからお皿の用意だけしてくれる?」
「わかった。ほら、千夏も冬也もお手伝いの時間だ」
「「はーい!」」
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