第61話 お兄ちゃんは弟妹に弱い
千夏と冬也を預けてる保育園までは学校から十分程度の距離にある。
その間になんとかして青嵐寺のことをまこうとしたが、そんな短い距離じゃ青嵐寺のことをまけるわけもなく、結局青嵐寺の奴は保育園にまでついてきやがった。
「あら、あなたの用ってこの保育園だったの?」
「あぁそうだよ。弟と妹を迎えに来ただけだ。わかったらさっさと帰りやがれ」
「ふぅん、まぁせっかくだから私も挨拶させてもらおうかしら」
「おい!」
「待たせるわけにはいかないんでしょ。ほら、早く行きましょう」
「ちっ、あぁクソッ!」
俺が呼び止めるのも聞かず、青嵐寺は勝手に保育園に入って行く。
オレがその後を追って保育園の中に入ると、ちょうどそのタイミングで千夏と冬也を担当している保育士の人も外に出てきた。
そしてその人はオレの顔を見るなりパッと顔を輝かせてオレの方へと近づいて来た。
「晴輝君じゃない! 久しぶりねぇ」
「どもッス」
彼女の名前は藤木明香。おっとりとした喋り方が特徴的な女性で、いかにも保育士って感じの女性だ。子供好きで悪い人じゃないし、保護者からの人気も高い。それでもオレはあんまり得意な人じゃないんだよな。この人のこと。
「晴輝君に会うのは二ヶ月ぶりかなぁ、また背が伸びたんじゃない?」
「そんなことはないと思うんスけど……」
「えぇ、そうかなぁ」
この人……オレのことまで結構子供扱いしてくるんだよな。一応っつーか、千夏と冬也が世話になってるからあんまり無下にするわけにもいかねぇし。どうにもやりにくいっつーか。
「それでそっちの子は……もしかして晴輝君のこいび——」
「それは違うッスから!」
「そうなの? なんだ、綺麗な子だからそうなのかと思ったんだけど」
「それだけはあり得ないッスから。こいつはただのクラスメイトっスよ」
「そっかぁ。えっと、お名前は?」
「初めまして、青嵐寺零華と言います。今日は縁あって紅咲君と行動を共にしてまして」
「けっ、何が縁あってだ。勝手についてきただけのくせしやがって」
「紅咲君、なにか?」
「なんでもねぇよ。それより藤木さん、千夏と冬也は?」
「あぁちょっと待っててね。連れてくるから」
藤木さんはそう言うと建物の中に戻り、千夏と冬也を連れてきた。
千夏と冬也はオレの姿を見るなりタタタッと駆け寄ってきた。
「にーたんっ!!」
「にぃっ!」
「だから走って寄って来るなって言ってるだろ」
「えへへ」
「にぃも遊びに来たの?」
「遊びに来たんじゃなくて迎えに来たんだよ。ほら、帰るぞ」
「えー、まだあそびたい……」
「ボクもあそびたい」
「遊ぶなら家に帰ってから玩具で遊べ。早く帰らないと秋穂に怒られるぞ。それは嫌だろ?」
「やだ!」
「ボクもやだ!」
「よし、それじゃあいい子だから藤木先生にさよならの挨拶しな」
「せんせー、さようなら!」
「さようなら!」
「はい、千夏ちゃんに冬也ちゃんもまた明日ね」
「それじゃありがとうございました。また明日もよろしくお願いするッス」
「えぇもちろん。晴輝君もいつでも遊びにきてくれていいんだからね」
「いや流石にそれは……そんじゃ、失礼します」
千夏と冬也の手をしっかり握って歩き出す。ちゃんと手を繋いどかないとフラフラして危ないからな。
すると、そんなオレのことを意外そうな目で青嵐寺が見ていた。
「……なんだよ」
「いえ、あなた意外としっかりお兄ちゃんしてるのね」
「うるせぇ余計なお世話だ」
「「…………」」
「? どうした千夏、冬也」
「おねーたんだぁれ?」
「にぃのおともだち?」
「あー……」
そうか。まぁそうなるよな。
「えーと、こいつは別に友達ってわけじゃなくてだな」
「えぇ、お友達よ」
「おいお前」
「いいでしょう、別に」
「おねーたん、きれいなの!」
「ふふ、ありがとう。千夏……だっけ、あなたも可愛いわ」
「あね、ちーね、お姫さまになりたいの」
「千夏ちゃんくらい可愛いければきっとなれるわ」
「えへへ」
ちっ、こいつさっそく千夏に懐かれやがった。
千夏の奴、褒められるのは弱いからな。冬也の方はオレの後ろに隠れてるあたりまだちょっと警戒してるな。まぁ冬也も警戒するのは最初だけなんだが。
「ほら千夏、もう行くぞ。青嵐……お姉ちゃんにもちゃんとバイバイしな」
「えー、やだ!」
「やだってお前なぁ。早く帰らないと秋穂に怒られるって言っただろ」
「んー、んーっ!」
「ふくれっ面してもダメだ」
「やだ、おねーたんと遊びたい!」
「だからダメだ。あんまり我儘言ってると——」
「ふふ、まぁいいじゃない」
「よくねぇよ。寄り道するわけにはいかねぇんだからな」
「えぇだから私も一緒に行けばいいんでしょう?」
「は? いや、ふざけんな。無理に決まってんだろうが」
「ねぇ千夏ちゃん。私も千夏ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」
「いいよ!」
「おいお前なぁ、なにふざけたこと言ってんだ!」
「にーたん……ダメなの?」
「ぐっ……」
千夏が涙目になりながらオレのことを見上げる。そしてそんな千夏を見て冬也まで不安そうな目でオレのことを見てきた。
くそ、青嵐寺の奴……やってくれやがったな。
「はぁ、わかった。わかったよ。めちゃくちゃ不本意だが、お前も一緒に来い」
「ずいぶん雑な招待の仕方ね。女性の誘い方としては落第点かしら」
「ふざけんな、しばくぞ」
「ふふ、冗談よ。それじゃあお呼ばれしようかしら」
こうして、千夏と冬也を迎えに来るだけだったはずが、不本意なことに青嵐寺を家に呼ぶことになったのだった。
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