第60話 弟妹を迎えに

 朝の一件以降、亮平はうるさいし、空花はなんかニヤニヤしてやがるし、クラスの連中は騒がしかったが、それ以外は特に問題もなく無事に一日の授業を終えた。

 青嵐寺の奴も朝にかき乱すだけかき乱して、その後は知らぬ存ぜぬだ。オレの方には来なかったクラスの連中も青嵐寺にはオレとの関係について色々聞いてたみたいだが、適当にあしらったみたいだ。

 完全に否定したわけじゃなく、肝心な所はぼかす形だったみたいだが……そのせいでまた妙な誤解が生まれてそうだが。まぁ今さら気にしてもしょうがねぇことだ。

 そうして迎えた放課後。今日は依頼も受けてねぇし、さっさとチビ共を迎えに行くとするか。

 いつもはチビ共……千夏と冬也の迎えは秋穂に任せっきりだったんだが、たまにはな。それくらいしねぇと兄として情けないってもんだ。今が立派かって言われると怪しいけどな。

 

「よし」

「ん? もう帰んのか? 今日はバイトもねぇんだろ?」

「あぁ、バイトはねぇけどな。その代わり別の用事が入ってんだ」

「……もしかして青嵐寺さんとデーtぼげぁっ?! な、なんだよ! まだ全部言ってねぇだろ!」

「もう言おうとしてることわかり切ってんだよ。チビ共を迎えに行くんだよ」

「チビ共って……あぁ、千夏ちゃんと冬也君か。可愛いよなぁあの二人。俺も一緒に行っていいか?」

「ダメだ。お前はあいつらに悪影響だからな」

「ひっでぇっ!」

「ふふ、でも珍しいな。いつもはアキが二人の迎えに行ってたんじゃないのか?」

「まぁそうなんだけどな。今日はバイトもねぇし、だったらたまにはオレが行こうと思ったんだ」

「ふぅん、ホントにハルは家族にだけは甘いっていうか」

「うるせぇ。そういうわけだからオレはもう行く。じゃあな」

「おう! また明日なー」

「兄としてしっかり面倒見るんだな」

「わかってるよ」


 亮平と空花に見送られて教室を出たオレはそのままの下駄箱へと向かう。


「……ん? そういやなんか忘れてるような気がすんな」


 喉の奥に小骨が刺さったみたいな違和感を覚えながら、その違和感の正体を探る。だが結局、下駄箱に着くまでの間にそれが何なのかを思い出すことはできなかった。


「まぁいいか。忘れてるってことは大した用事じゃねぇだろ」

「大した用事じゃねぇだろ、じゃないわよ」

「あ? ……あっ」


 背後から声を掛けられて振り返る。そこに立っていたのは不愉快そうに顔を顰めた青嵐寺の姿。

 そこで思い出した。そういや朝に話した時、青嵐寺の奴がなんか言ってたな。放課後に話があるだかなんだか……チビ共のことがあったからすっかり忘れてた。


「話があるって伝えておいたはずだけど」

「オレも用事があるっていっただろうが。それに了承した覚えはねぇぞ」


 こいつが一方的に約束を取り付けてくるってなら、こっちだってオレの用事を優先するだけだ。

 チビ共を待たせるわけにはいかねぇってもの本当のことだからな。


「そういうわけだ。じゃあな」

「あ、待ちなさい」


 呼び止める青嵐寺のことを無視して歩き出す。するとすぐに靴を履き替えた青嵐寺が後を追ってきた。


「あなた、そんなに無愛想だと友人ができないわよ?」

「うっせぇ、余計なお世話だ。つーかついてくんな」

「あなたが私の話を聞こうとしないからでしょう。すぐに終わるって言ってるのに」

「だからってお前に時間を割く理由にはならねぇよ」

「ふぅん……ならいいわ」


 ようやく諦めたかと思ったが、青嵐寺の奴は全く気にすることもなくオレの横に並んで歩き始める。


「おいテメェ」

「なにか? 私は勝手に歩いてるだけで、たまたまその方向が紅咲君と一緒ってだけなんだけど」

「ちっ……」


 こいつ、是が否でもついてくる気かよ。

 オレが歩く速度を上げても青嵐寺は涼しい顔をしてぴったりとついて来る。

 たまたまなんてもんじゃねぇのは明らかだった。


「お前なぁ。ずっとついて来るつもりかよ」

「さぁどうかしらね。あなたが話を聞く気になったら私の行き先も変わるかもしれないけど」

「テメェなぁ……」


 呆れるオレのことなど意にも介さず、青嵐寺は言葉通りにずっとオレについてくるのだった。

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