第56話 怪人への強制変化

「おや、クラカッティまでやられましたか」


 遠く離れた地、その地下にある研究室にその怪人の姿はあった。蜂のような風貌をしていながら二本足で直立歩行している。白衣を着て眼鏡をかけているその姿は、まるで研究者を思わせるような風体だった。


「これはまた……クラカッティは私の作品の中でもかなり優秀な方だったのですが。それで、捕まったのですか?」

「いえ、死亡したものと思われます。よろしいのですか、スタビー様」

「ふむ。ならいいでしょう。まぁもし捕まっていたとしても何の問題もありませんでしたが。記憶も痕跡も完全に消していましたからね」


 部下である怪人からの報告に一瞬眉をひそめたスタビーだが、すぐに問題ないと結論を出す。


「人から怪人への強制変化……まだ成功率はそう高くないですが、最近はそれも改善されてきていますしねぇ。そのうち成功率は五十%……いえ、七十%も夢ではないでしょう。もちろんゆくゆくは百%を目標にしていますが。その意味でいえば、クラカッティはすでに十分に役目をはたしてくれたと言えるでしょう。捕まろうが殺されようが、我々の組織の一員でない以上は関係のない話です」

「それはそうなのですが……」

「まだ何か? これでも忙しい身の上なのは理解しているあなたも理解しているはずですが」


 言外に研究の邪魔だと告げるスタビーに、部下の怪人はビクリと体を竦ませる。

 彼は知っていた。スタビーの機嫌を損ねるのは非常に危険であるということを。

 スタビーは常に研究材料に飢えている。彼もスタビーの研究材料を手に入れるために東奔西走する日々だ。

 そしてその研究欲は仲間であるはずの怪人にも向くことがあるのだ。

 スタビーの機嫌を損ねた結果、研究材料にされてしまった怪人を少なくはない。

 

「……まぁいいでしょう。それで、何ですか?」

「はい。スタビー様が作られた怪人はクラカッティも含め、七体ほどおりますが……全てとある二人の魔法少女に倒されているようでして」

「あぁ、なるほど。それで」


 スタビーは人を怪人へと変化させた後、スタビーは記憶処理を施し、あくまで自然に生まれた野良怪人となるようにしていた。そしてその怪人がどれだけの力を持ち、どれだけの被害を出せるかを調べていた。

 しかしどの怪人も目ぼしい結果を出す前に倒されてしまっていたのだ。


「その二人の魔法少女とやらが私の研究成果である怪人を倒してしまっていたと」

「はい。魔法少女の名は『ラブリィレッド』そして『ブレイブブルー』です」

「ラブリィレッド? その名前どこかで……あぁ、この間会議でそんな名前が出ていましたねぇ。要注意人物だとかで。あまり興味もなかったので聞き流していましたが……なるほどなるほど……」


 部下から聞いたその名に、スタビーは何事かを思案し始める。


「要対処案件でしたね。あまり興味はありませんでしたが……一度魔法少女のことを研究したいとも思ってましたし、ちょうどいいかもしれませんね」

「スタビー様?」

「いいでしょう。その二人の魔法少女、私の研究成果を持って捕らえてみせましょう」


 そう言って笑みを浮かべるスタビーの前には、捕らえられた人々の姿があった。

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