第49話 魔法少女に必要な資質

「ブレイブブルー……」


 クラカッティが自爆しようとしたまさにその瞬間、どこからともなく現れたブレイブブルーの奴がクラカッティに止めを差した。

 ブレイブブルーの剣で両断されたクラカッティは、末期の声を上げることもなく砂のように崩れ去って消えていった。

 

「…………」


 別にクラカッティの最期にどうこういうつもりはない。いくら事情があったとはいえ、あいつが倒されても仕方のないほどのことを行ってきたのは事実。オレも倒そうとはしたしな。まぁ耐え切られたわけだが。

 だがそれでも多少思うところがないわけじゃねぇ。僅かとはいえ、事情を聞いちまったわけだからな。同情するべきじゃないってのは頭でわかってるんだが。

 ちっ、どうにもダメだな。喧嘩相手の事情なんて知るもんじゃねぇ。ましてや命のやり取りをする相手の事情を知っても意味ねぇからな。やりづらくなるだけだ。

 だが相手がブレイブブルーってなると、どうにもって感じだな。


「えっと、一応助けてくれたってことになるのかな?」

「もし本気でそう思ってるならずいぶんおめでたい頭をしてるのね」

「むっ……」


 だろうと思ったよ。一応言ってみただけだ。

 いちいち癇に障る言い方する奴だなホントに。


「まぁ、助かったのは事実だからお礼は言っとくけど。それで、あなたは何の用があってここに来たの? クラカッティ……さっきの怪人を捕まえに来たって感じじゃなさそうだけど」

「えぇもちろん。私は怪人を捕縛するなんて温い依頼は受けない」

「温い?」

「当たり前でしょ。あなたはこの一週間、怪人を捕縛する依頼ばかり受けていたようだけど。私から言わせれば……甘すぎる」

「甘いって言われても。そういう依頼だったんだから仕方ないでしょ」

「いいえ違う。私が言っているのは依頼任務に関することじゃなくて、あなたの魔法少女としての在り方」

「魔法少女としての在り方?」

「えぇ。魔法少女の力……それは決して人や物を探すためにあるわけじゃない。怪人を捕まえるためにあるわけでもない。この力は……怪人を殺すためにあるものよ」

「っ……」


 怪人を殺す。そう言った瞬間にブレイブブルーの目に浮かんだのは、紛れもない憎しみと殺意。確かにさっきクラカッティに止めを差す瞬間、こいつの剣に迷いは一切見られなかった。それこそまるで怪人を殺すことになれてるみたいにな。

 

「で、でも前は怪人を捕まえるのに協力してくれたじゃない」


 前にフレザードと戦った時、今回同様、不覚にもピンチに陥ったオレの前に現れたこいつはフレザードを殺すことなく止めた。

 認めるのは癪だが、こいつほどの実力があればフレザードを殺すことだって簡単だったはずなのに、だ。


「別に捕まえるのに協力したわけじゃないけど。それに、あの怪人は組織に所属する怪人だった。もし捕まえて情報を引き出すことができたらより多くの怪人を殺すことができる。だから捕まえたの。でも今回の怪人は違う。ただの野良怪人。別のどの組織と繋がってるわけでもない。だったら捕まえるなんてことは言わずにさっさと殺すべき」

「……あなたの考えはわかったけど。それと私が甘いっていうのはどう繋がるの? 私は捕まえる依頼を受けたから捕まえようとしただけで——」

「そうやって逃げてるんでしょう」

「……どういう意味?」

「捕まえる依頼だから捕まえる。そう言えば聞こえはいいけど、あなたはあえて捕まえる依頼ばかりを選んでる。捕縛じゃなくて処理の依頼も多くあるのに」

「それは……」

「覚悟がないんでしょう? 怪人を殺す覚悟が。口ではなんと言っても、心のどこかであなたは怪人を殺すことを忌避している。さっきの一撃にしたってそう。本当なら怪人を殺すことができるほどの威力を出すことができるのに、あなたはそれをしなかった。いいえ、無意識に威力を抑えた」

「そんなことは……」

 

 ない、とは言い切れねぇか。薄々自覚してたことでもある。

 今まで喧嘩で相手を病院送りにしたことなんて何度もある。だがそれでも、誰かを殺したことなんて一度もねぇ。そんなの当たり前の話なんだがな。

 だが魔法少女として怪人と戦うってのはそういうことだ。怪人を殺す。その命を奪う可能性は十分ある。というか、それも魔法少女の仕事だ。たとえそれが、人から怪人になったような奴だとしても。

 そう言った意味で、オレがどこか一線引いてる所があるのは事実だ。こいつが言ってるのはそういう部分のことだろうな。


「そこで一線を引いてしまう時点で、あなたは魔法少女として相応しくない。殺せない魔法少女なんて必要ない。たとえどれだけの力を持っていたとしても、あなたは私には勝てない」

「……本当にそうかな」

「なにが言いたいの?」

「殺せないっていうのは事実だよ。情けないとは思うけどね。でも、だからってそれがそのまま魔法少女として相応しくないっていうことには繋がらないと私は思う」


 オレ自身としては別に魔法少女に相応しくなかろうが別にどうでもいい。むしろ相応しくない方がいい。だが、戦う力を持たない魔法少女だっている。

 いつも怪人の回収してる魔法少女センリとかいい例だ。前にチラッと聞いたが、あいつも戦う力はほとんどないみたいだからな。

 だがそれ以外の部分でかなり大きな役目を果たしてる魔法少女であるのは事実だ。

 だからこそ、怪人を殺せるか否かだけが魔法少女に相応しいかどうかの判断基準にはならねぇとオレは思ってる。


「もし私が魔法少女に相応しくないって言うなら……試してみる?」


 これはあくまでオレの主張。あいつの主張と交わることはねぇだろう。異なる二つの主張があって、その正しさを決める時。一番手っ取り早いのは……単純な力比べだ。

 オレとしては、今までムカついてた分もやり返せるから乗ってきて欲しいんだが……確かめたいこともあるしな


「っ、そう……結局、口で言ってもわからないってわけね。いいわ、だったら教えてあげる。あなたと私の間にある、明確な力の差を」


 そう言って、ブレイブブルーはオレに剣を向けた。

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