第48話 間違い

「はぁ、はぁ……」


 『炎想の愛ラブオブファイア——紅焔球プロミネンス』。

 いつも使ってた『炎想の愛ラブオブファイア』の炎を収束させ、破壊力も熱量も引き上げた一撃だ。さっき普通に撃って防がれたからな。もう一回撃っても防がれるのは目に見えてた。だからこそ収束させたんだ。色々手段は考えたが、結局火力特化が一番楽だしな。

 でもさすがに疲れる。いつも簡単に使ってる魔法よりも集中力を使うからな。

 だがこれで……。


「やった……かな?」

「そういうのフラグって言うらしいわよ」

「フラグとか余計なこと言ってんじゃねぇよ!」


 隣に来たフュンフが不吉なことを言って来る。そう言うフラグだのなんだのってのは気にするからそうなんだ。

 だが、フュンフが余計なことを言ったせいか煙が晴れた時、そこにいたのはまだ呻いてるクラカッティの姿だった。

 ちっ、今のは完全に仕留めるつもりでいったんだがな。まさか今のにも耐え切られるとは……いくらエネルギーが暴走してるとはいえ、どんな硬さだよ。

 だがまぁ、さすがにもう戦う力は残ってないみたいだな。今の一撃を耐え切るのに膨れ上がってたエネルギーの大半を使ったみたいだしな。


「これなら安全に捕まえられる……かな」

「まぁ上々じゃない? あの硬さはさすがに予想外過ぎたけど、そのおかげで殺さずに済んだみたいだし。暴走して爆発の心配もなくなったし、無事に任務達成できそうな感じじゃない」

「そうだね。でも、こうなってくるともっと強力な魔法も覚えないとっていうか……強くはないけど面倒なタイプの敵っているんだね」

「そうね。怪人にもいろいろいるもの。これ機にもっと魔法少女としての研鑽を積んだらどう? そっち方面ならいくらでも協力するわよ」

「あんまり魔法少女として強くなるのは……とか言ってられないか。このレベルで苦戦してたらいつか足元救われそうだし」


 フュンフに手伝ってもらうかどうかは別にして、魔法の練習ってのは必要そうだ。魔法少女としての練習なんかできればしたくなかったんだが、そんな無駄な意地で負けてちゃ元も子もないからな。


「は……はは……負けた……負けたのか」

「まだ喋れるんだ」

「頑丈さが……僕の売りだったからね」


 完全に素の状態って感じだな。最初は完全にキャラ作ってたわけだ。まぁ怪人になったし心機一転って感じだったんだろうな。気持ちはわからないでもない。怪人社会は完全に実力社会。舐められたら負けらしいしな。


「捕まえる前に聞いときたいんだけど、どうしてこんなことしたの? サーファーだけを狙って襲うなんて。まぁなんとなくの事情は察したけどさ。一応君の口からも話くらいは聞いておこうと思ってさ。別に話したくないなら話さなくてもいいけど」

「いや、話すよ。そうだね、たぶん察した通りだと思うよ。僕は……悔しかった。愛してた彼女を、大好きだった彼女をあっさり奪われてしまったことが。彼女とこの場所に遊びに来た時、僕の彼女はナンパされたんだ。柄の悪い不良みたいなやつらにね。その時に僕は……怖くて助けられなかった。足が竦んで、動けなくて。そんな彼女を助けたのがサーファーだった男だった。颯爽と現れて、不良から彼女を助けて……たぶんそれがきっかけだったんだと思う。それからほどなくてして僕は彼女に振られて、そいつと付き合ってることを知った。悔しかった。正直恨んだよ。彼女のことも、そのサーファーのことも。恨んで、妬んで、そうしてるうちに気付いたら僕は怪人になってたんだ」

「……なるほどね」


 明確にどいつが悪いとも言い切れない話だ。まぁ強いて言うならナンパしてきたやつらなんだろうがな。

 ろくに喧嘩もしたことない奴が不良にビビるのもわかるし、そのサーファーにしたってただ助けただけ。女の方は危ない所を助けられて惚れたってところか。全員悪いとも言えるし、全員悪くないとも言えるって感じだな。


「もちろん最初は戸惑ったよ。怪人になんかなったら魔法少女に狙われる。でも……すぐ気づいたんだ。この力があれば、僕から全てを奪った奴に復讐できるって。そう思ったら抑えきれなくなった。最初は彼女を奪ったサーファーを襲うだけのつもりだった。でも、そのうちサーファーの全てが憎くなって。だからこの浜辺に来るサーファーをかたっぱしから襲ったんだ。二度とサーフィンなんてできないようにしてやろうと思ってね」

「それが君の間違いだった」


 こいつが致命的に間違ったのはそこだ。奪われたのを誰かのせいにして、反省せずに、その心の闇がこいつを怪人にした。

 くだらないっつって切り捨てるのは簡単だが、何が大事かなんて人次第だからな。オレが口出しすることでもねぇ。

 ただ現実としてこいつは多くのサーファーを襲った。その時点でこいつは終わりだ。決定的に、致命的に間違った。


「あぁ、間違ったんだろうね。僕は。だから……間違った僕は最後まで間違うことにするよ」

「え? っ!?」


 急速に膨れ上がるクラカッティの力。この感覚、こいつまさか——。


「自爆しようとしてるの!?」

「どうせ君に捕まった時点で未来なんてないんだ! だったら僕は怪人としての意地を貫く! たとえそれが間違ったものでも!」

「あぁもう!」


 こいつ、話してるうちに残ったエネルギーを纏めてやがったのか。

 こいつに残ってるエネルギー量から考えて、爆発の威力自体はそこまで大きくならなねぇ。だが、近くにいるオレは確実に巻き込まれる。

 さすがにこの距離で爆発なんか喰らったらただじゃすまねぇぞ!


「くっ——『愛の——』」

「だからあなたは魔法少女に相応しくない」

「っ!」

「『蒼閃華』」

「がっ……」


 一閃。

 突如として降りてきた青い影が、クラカッティの体を両断する。

 硬いはずのクラカッティの肉体をものともせずに。


「これは……」

「やっぱり来たか」


 そこに立っていたのは、オレのことを鋭い目で睨む女——魔法少女のブレイブブルーだった。

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