第47話 本気の一撃

「ウオォオオオオオオッッ!!」


 クラカッティがクレーターの中心で咆哮を上げる。鼓膜が破れんじゃないかってくらい巨大な咆哮だ。まるで空間そのものが揺れてるみたいな……くそ、なんだこいつ。

 これがマジモードってやつかよ。

 全身が茹で上がった蟹みたいに真っ赤になって、体からまるで陽炎みたいに湯気が立ち上ってる。


「はぁ、やっぱりそう簡単には終わらないってことかぁ。わかってはいたつもりだけど。あれで決めれると思ったのになぁ」

「ちょっとちょっと、何ボーっとしてるわけ。あれ結構ヤバイ状態よ」


 どう対処したもんかと頭を悩ませてたら、どっかに離れてたフュンフがオレの隣に飛んできた。その声は珍しく焦っている。

 

「ヤバイ?」

「えぇ。見ての通り暴走モードになってるわけだけど。とんでもないエネルギーをため込んでるわよあれ」

「そんなのは見たらわかるけど」

「その様子だとあの状態の危険性全然わかってないじゃない。いい? 暴走した怪人のエネルギー量ってのはとんでもないのよ。あの調子でエネルギーが膨れ上がっていったら自分で自分のエネルギーに耐え切れなくなって爆発するわよ」

「ば、爆発?!」

「えぇ。少なくとも、この周辺一帯は吹き飛ぶでしょうね」

「そんな、どうしたら……」


 現状オレの持ってる力に力を封じるようなもんはない。捕らえるか、破壊するか、そのどっちかくらいだ。

 ってことは、あいつがエネルギーを耐え切れないくらい溜め込む前に倒すしかないってわけか。


「って待って! それじゃああの怪人のこと捕まえられないよ!?」

「それも致し方なし、なんじゃない? このまま放っておいて爆発なんてさせようもんなら、魔法少女統括協会からとんでもない額の修理費とか請求されるわよ」

「それはヤダッ!!」


 そもそも魔法少女活動を続けることを決めた理由の一つは金策だ。普通にバイトするよりも実入りがいい。だからってのもあるんだからな。それが魔法少女の活動続けてるせいで逆に借金とか、笑い話にもならねぇぞ!

 

「こうなったら、速攻で倒す!」


 もう捕まえるだとかなんだとか考えるのは止めだ。今持てる全力を尽くしてクラカッティを倒す!


「フーッ、フーッ!」


 血走った目でオレの方を睨むクラカッティ。

 今にも飛び掛かってきそうな感じだな。いいぜ、だったらやってやるよ。

 正面から勝負だ!


「いくよっ!」

「来い、小娘がぁああああっっ!!」


 クラカッティが巨大な鋏を振りあげながら突進してくる。

 その動きはさっきまでとは比べ物にならないくらい速くなってる。だが、それもさっきまでのこいつと比べての話だ。前に捕まえた鳥型怪人の方がまだ早い。動きも単調。馬鹿みたいなエネルギーを振りかざして突っ込んできてるだけ。正直隙だらけだ。

ギリギリまで引き付けて——。


「ここっ!」

「ぐぶぉあっ?!」


 鋏が直撃する直前、身を低く屈めてカウンターの一発を叩き込む。拳に炎を纏わせ、クラカッティのこっちに飛んでくる勢いも利用してのカウンターだ。

 オレのカウンターをもろにくらったクラカッティは再びクレーターの中心へと叩き戻された。

 だが、


「っぅ……いったぁ……」


 やっぱりというか、あいつの体超硬い。めちゃくちゃ硬い。でもさっきまでよりは多少マシになってる。さっきはマジで殴っても鉄の塊殴ってんじゃないかってレベルだったが、それよりはマシになってる。

 たぶんあいつが内に抱えてるエネルギー、熱量が原因だろうな。そのせいで若干だが体が柔らかくなってる。まぁそれでも十分硬ぇけど。それでもダメージが通せるのと通せないのじゃ大違いだ。


「く、くそぉっ! なぜだ、なぜ避けられる!」

「さぁ、なんでなのかな? その硬い頭で考えてみたら?」

「バカにするなぁっ!」


 頭に血が昇った奴の相手は簡単だ。動きの単調さに加えて視野も狭くなる。これは怪人でもそこらの不良でも同じだな。挑発して怒らせる。これも喧嘩の上等手段だ。

 熱くなった方が負ける。いや、正確には熱くなり過ぎた方が負けるってわけだ。


「とりゃぁっ!!」

「ぐぅっ、まだ……まだだぁっ!」

「甘いっ」


 膝の関節に蹴りを入れてクラカッティの体勢を無理やり崩す。そして、顔面が下がってきた所に全力の膝蹴り。

 よっしゃっ、今の一撃はいいダメージになったはずだ!

 クラカッティはよろめきながらオレのことを睨む。


「き、貴様本当に魔法少女か! なんだその戦い方は!」

「はい? 戦い方?」

「あぁそうだ。魔法少女には魔法少女らしい戦い方というものがあるはずだろう! なんのための魔法だ!」

「いやいやそんなこと言われても……」

「くぅ、どいつもこいつも俺のことを馬鹿にしてぇ」

「いや、別に馬鹿にしてるわけじゃないんだけど」

「いや、どうせ貴様も心の奥底では俺のことを馬鹿にしてるんだ! どうせ……どうせっ! あの女やサーファーみたいになぁ!」

「えぇ……」


 感情が昂ってるせいか、さっきまでよりもさらに体が赤く、放出する熱量が多くなる。

 あの女とかサーファーとか……なんとなく話は見えてきたなぁ。ってことはこいつあれか。生まれた時から怪人ってわけじゃなくて、怪人堕ちしたタイプの奴か。


「なんとなくあなたの事情は読めたけど。私の戦い方とあなたのトラウマをごっちゃにしないで」

「うるさい! うるさいうるさいうるさい!!! 俺は俺を裏切った奴を許さない! あんなに愛し合ってたのに、俺を裏切って、サーファーの男なんかに……許せるか、許せるもんかぁあああっっ!!」


 ダメだなこりゃ。怒り過ぎて色んなことがごっちゃになってる。

 憶測にはなるが、こいつは自分の彼女をサーファーに奪われたってところか。どんな経緯があったかは知らねぇが。

 その怒りと絶望が溜まりに溜まって怪人になっちまったってわけだ。はた迷惑な話だな。

 怒る気持ちがわからないとまでは言わねぇが、それで関係ない奴まで巻き込んでたら意味がねぇ。


「なんで俺ばっかり不幸な目に合わないといけないんだ! いつもそうだ! 俺ばっかり、僕ばっかり酷い目にあって、くそぉおおおおおおっっ!」

「あぁもう、ややこしいなぁ」


 感情ぐちゃぐちゃだなコイツ。

 目の前にいるオレのことすらちゃんと見えてないんじゃねぇか? 溜まりまくってるエネルギーのせいか、感情の制御もできなくなって暴れまくってるだけ。あれが素の性格か?

 さっきまでの口調は怪人になって心機一転しようとしたって感じか。

 暴れまくるクラカッティ。だがなまじ力があるせいで不用意に近づくこともできねぇ。

 このままじゃ時間もねぇしな……やるか。


「あなたの境遇は知らない、なんとなくはわかったけど、だからって人に迷惑をかけていいわけじゃない。その感情は自分の中で、自分自身と向き合わなきゃいけないものだと思うから。でもあなたはどうしようもなく間違っちゃった。だから私があなたを止める」


 コイツの事情をなんとなく知って、同じ男として、若干同情しないでもない。だがそれとこれとは話は別だ。容赦はなしでいく。


「いくよ——燃やし尽くして『炎想の愛ラブオブファイア』!!」


 今持てる全力。頭上に手を掲げ、そこに魔法の火球を生み出す。

 さっきこいつに撃った時は全くダメージはなかった。だから今度はより魔力を込める。

 バレーボール程度の大きさだった火球が、さらに大きく、一メートルを超える大きさになる。そこからさらに大きく、大きく。

 今のオレが出せる全身全霊の威力を。


「『——紅焔球プロミネンス』!!」

「っ、こ、これは?!」

「くっらえぇええええええっっ!!」 


 『炎想の愛ラブオブファイア——紅焔球プロミネンス』。

 太陽の如き熱量を持った火球が、クラカッティへと直撃した。

 

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