第50話 魔法少女同士の戦い

「…………」

「…………」


 ブレイブブルーが手に持った剣をオレに突きつける。その構えに隙はいっさいない。

 なるほど、言うだけのことはあるってわけか。そんじょそこらの不良なんかとか比べ物にならねぇな。

 って、魔法少女と不良なんか比べてもしょうがねぇか。次元が違うってもんだからな。だが今はオレも魔法少女だ。こいつの実力がどんなもんかは知らねぇが、やってやれないことはねぇ。

 あいつの構えに隙はねぇ、だが仕掛けてくる気配もねぇ。だったら——。


「先手必勝!!」


 思いっきり地を蹴ってブレイブブルーに肉薄する。あいつの持ってる剣は長剣。近距離でも普通に戦えるだろうが、それでも取り回しの問題上ギリギリまで近づいたらオレの方が有利なはずだ。

 というか、そもそも近距離以外じゃ戦えねぇしな。魔法をぶっ放すときには必ず隙が生まれる。その隙をつかれたらおしまいだ。あれだけの速さだったらそれもできそうだしな。


「そりゃぁっ!」

「なるほど。中々の速さね」

「っ!」


 オレの放った蹴りはあっさりと、最小限の動きで避けられた。到底見切れるような速さの蹴りじゃなかったはずなんだが、それでもこんな簡単に避けられるか。

 今のは咄嗟に避けたって感じじゃねぇ。完全にオレの動きを見切られてた。


「でも、まだまだ甘い!」

「わっ!?」


 振り下ろされるブレイブブルーの剣を紙一重で避ける。こっちはブレイブブルーみたいに見切れてるわけじゃない。完全に反射と勘頼りだ。

 ってか、早すぎるだろ!


「くっ」

「どうしたの? 啖呵を切ってきたわりにはずいぶんと無様だけど」

「なっ、このぉ!」

「そうやってすぐに頭に血を昇らせて突っ込んでくるところも。まだまだ青い」

「ぐぅっ、剣が起こす風だけで!」


 ブレイブブルーが剣を一振りするだけで凄まじい風が巻き起こる。耐えようとしたが、耐え切れずに吹き飛ばされた。


「どんな威力してるの全く」

「『青閃撃(ブルースラッシュ)』」

「っ!」


 オレが体勢を立て直すよりも早くブレイブブルーは追撃を仕掛けてくる。足場の悪さも相まって、今度は避けることができずに直撃を喰らった。

 本当てこそ躱したものの、とっさに防御した左腕はまだビリビリ痺れてる。


「いったぁ……」

「咄嗟に左腕に魔力を纏わせて防御力を上げた……まぐれにしてはやるじゃない。もし間に合ってなかったら左腕は飛んでたでしょうね」

「まぐれじゃないから! っていうか怖いこと言わないで!」


 確かにあいつの剣はクラカッティの体を簡単に斬れるほど鋭かった。そう考えたらオレの左腕くらい飛ばすのは簡単だろうな。


「ま、死にさえしなければ大丈夫でしょ。腕が飛ぶくらいなら治せる魔法少女はいくらでもいる。もちろんお金はかかるけど」

「死にさえしなければ大丈夫とか、そうとうバイオレンスな考えしてるよね。少しは躊躇いとかないんだ」

「たとえ誰が相手でも戦うとなれば躊躇はしないわ。躊躇は隙を生み、隙は死を生む。だから私は躊躇わない。たとえそれが魔法少女が相手だったとしても。ましてや怪人相手には絶対に。情けなんてかけたりしない。話なんて聞かない。怪人は根絶やしにする」


 光を反射してきらめくブレイブブルーの剣は殺意に満ちていた。

 確かに怪人のことが好きな奴なんていねぇ。オレは魔法少女のことは嫌いだが、だからって怪人のことが好きなわけでもねぇ。クラカッティにしてもそうだ。確かにあいつの話を聞いて多少同情した部分があったにも否定はしねぇけど、だから許そうなんて気はさらさらなかった。

 だがこいつの怪人に対する殺意は明らかに異常だ。ここまでの殺意を怪人に対して抱いてる魔法少女ってのも相当珍しいんじゃねぇか?

 ってか、こんな奴を魔法少女に選んだ妖精ってどんな奴だよ。そうとう捻くれてるんじゃねぇのか?

 そう考えた時、一瞬脳裏を過ったのはとある妖精の姿。

 いや、まさかな……でもあいつならあり得るのか? くそ、こんな時に限って姿が見えねぇしよ。


「どうしたの? 戦闘中に考え事?」

「……そうだね。ごめん。今考えることじゃない。今考えるべきなのは、どうやってあなたに勝つかってことだもんね」

 

 挑発するようなオレの言葉にブレイブブルーはピクリと反応する。

 やっぱそうか。こいつ、冷静なように見えて挑発に乗りやすいタイプだ。


「……へぇ、まだ私に勝てると思ってるのね。最初で力の差は十分にわかったと思ったのだけど」

「力の差? そんなの全然感じてないけど。だって私、まだまだ本気出してないから」


 ゴウッと両拳に炎を纏わせる。

 確かに速いし、強い。それは認めてやる。だが、だからって負けるつもりはさらさらねぇ。

 これでもしぶとさとかには自信もあるしな。


「さぁ、今度はこっちの番だよ!」


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