第33話 ヴィラン組織『ウバウンデス』
「えっと……」
「……何かしら? ジッと見つめられるとさすがに気になるんだけど」
亮平を解放し、魔法少女統括協会に連絡を済ませた後。オレとブレイブブルーは回収班がやって来るのをその場で待ち続けていた。
でも、正直かなり気まずい。前回みたいに襲いかかって来る様子はねぇみたいだけど。
コイツと二人で居ても話すことなんてねぇしな。いや、まぁ気になることはいくらでもあるけどな。
その疑問にこいつが答えてくれるとも思えねぇし。
ここで喧嘩吹っ掛けて前回のリベンジしてもいいが……さすがに人目が多すぎるしな。
それに今回はどういう腹積もりか知らねぇが助けてくれたわけだからな。それを無視して喧嘩吹っ掛けるほど馬鹿じゃねぇ。
「別に何ってわけじゃないけど」
「言いたいことがあるならはっきり言ったらどう?」
「言いたいことっていうか……どうして助けてくれたの?」
「あなたを助けたわけじゃないわ。助けたのは捕まってた人質。そもそもあなたがあんな風に油断したりしなければ私が出てくる必要もなかったのだけど。詰めが甘いのよあなたは。怪人はあらゆる手段で私達の裏をかこうとしてくる。そのことを肝に銘じておくことね。これからも魔法少女として活動するなら」
「え?」
「私はあなたのことを魔法少女として認めない。それは今も変わらない。でも、あなたが勝手に活動する分には好きにすればいい。どうせ何も言っても聞きはしないだろうし」
そりゃそうだ。別にこいつに認められようが、認められなかろうが。こいつが何を言ったとしてもオレの行動を制限されるいわれはねぇ。
ここまで派手に目立った以上あのトイフェルシュバルツとかいう魔法少女に目を付けられる可能性はあるだろうしな。
あのクソ妖精の思惑に乗るのは癪だがな。まぁ実入りは悪くねぇし。こんなちんちくりんな姿になっちまうことを除けば……いや、まぁそれが一番の問題でもあるんだが。
ともかく、いくつかの腹立つことに目をつむれば魔法少女として活動することも……ことも……ダメだ、まだ完全に受け入れることはできねぇ。
だが受け入れて行くしかねぇ。オレが、オレ自身の意思で魔法少女に変身した。その時点でオレのこれからの行動は決まってる。
「うん、そうだね。もう決めた。私はこれから本格的に魔法少女として活動する。不本意ではあるけどね」
「……ふん」
どういう心変わりか知らねぇが、邪魔をしてこねぇってならそれで十分だ。
それにしてもこれ以上話すこともねぇんだが……早く回収しにこねぇかな。ちんたらしやがって。
「ク……ククク、アハハ……」
「「っ!」」
「お前ら……終わりだぜ」
「フレザード……目を覚ましたのね」
「大人しく伸びてればよかったのに」
縛って地面に転がしてたフレザードが目を覚ました。しかもなんか笑ってやがるし。この捕まってる状況でどういうつもりだ?
「この俺様がどこの組織に所属してるか……知らねぇわけじゃねぇだろう?」
「えっと……なんだっけ?」
「なっ!?」
「ラブリィレッド、こいつがさっき言ってたこともう忘れたの?」
「忘れたというか、ちゃんと聞いてなかったというか。あと、ラブリィレッドって呼ぶのは止めて。せめてレッドだけにして」
「あなただって私のことをブレイブブルーって呼ぶでしょう。それと同じよ」
「そうかもしれないけど、いやでもラブリィはなぁ……ちょっとなぁ」
「よく似合ってるじゃない。その姿に」
「全然嬉しくない」
「おいテメェら、俺様をほうって会話してんじゃねぇぞ!」
「あ、そうだった。それで結局なんだっけ。あなたの所属してる組織って」
「ちっ……まぁいいだろう。教えてやる。俺様がいる組織は——」
「ヴィラン組織『ウバウンデス』。最近名を挙げ始めているヴィラン組織ね。組織としての脅威度はBランク。新興のヴィラン組織としては破格の早さでの脅威度の上がり方ね。このままいけばAランク。組織の全貌が掴み切れていないこともあって、その先にいく可能性があるとすら言われているわ」
組織の脅威度とか言われてもいまいちよくわからないんだが……でも、このブレイブブルーの話してる感じ、結構ヤバめの組織っぽいな。
こいつ、そんな組織に所属してたのか。確かにやたら調子に乗ってるとは思ってたけどな。
そんな組織に所属してたら調子に乗るのも当たり前か。有名な不良集団に入って、まるで自分まで強くなったと勘違いするアホみたいなもんだろ。
「な、なんだよ。知ってんじゃねぇか」
「魔法少女として当然の情報収集よ」
「はっ、だったらわかるだろうが。この俺様を捕まえるってことは、この『ウバウンデス』に喧嘩売るってことだぞ。テメェらもう終わりだよ。これから一生安寧はねぇと思いやがれ」
「「そんなの関係ない」」
むっ、ブレイブブルーと声が被った。
いや、そんなこと気にしてる場合じゃねぇか。
「たとえあなたの組織に目をつけられたとしても、私は私として立ち向かうだけ」
「そもそもヴィラン組織を壊滅させるのが魔法少女の使命。そちらから狙って来るのなら、むしろ好都合というものよ」
別にそんな使命は知らねぇけど。
でも、言っちまえば不良共に目を付けられんのと一緒だろ。そんなの今さらだ。そこにヴィラン組織が加わるだけ。対して気にすることじゃねぇ。
「テメェら正気かよ。狂ってんじゃねぇのか」
「そこまで言われる筋合いはないんだけど。あなたが組織についてさっさと話してくれたら色々と楽になるんだけどね」
「はっ、死んだって話すわけねぇだろうが。俺様も命は惜しいからな」
さっきまで今の組織で一番になるとかほざいてくせに命は惜しいとか、なんなんだよこいつ。まぁいい。こいつに情報を吐かせるのはオレの仕事じゃねぇしな。
にしても、ヴィラン組織『ウバウンデス』か……この組織ならもしかしたら……いや、今は考える必要はねぇか。
魔法少女として活動してたらいつかわかるかもしれねぇしな。
「すみません、お待たせしました」
「あ、来た」
やって来たのは前回と同じ魔法少女……確かセンリとか言ったか? なんか前にもまして人相が悪いというか、やっぱ寝不足なのかこいつ。
「ラブリィレッドさんとブレイブブルーさんですね。お疲れ様でした。報酬についての詳細は後日決定することになりますが——」
「必要ないわ」
「え?」
「? どういうことですか?」
「私はたまたまこの場に居合わせただけ。この怪人を捕まえたのはラブリィレッドよ。今回の報酬は彼女一人で十分よ」
「いいのですか?」
「えぇ。あとの処理はお願いするわ。それじゃあ」
「あ、ちょっと!」
オレが呼び止めるのも聞かずにブレイブブルーはさっさと去っていく。
なんなんだあいつ。なんか最後まで恩売られた気がして気に喰わねぇ。やっぱり嫌いだあいつ。
「それでは彼女の意向に沿って処理をしておきます。報酬については後日連絡しますので。異議が無ければ承認の連絡をお願いします。では、私はこの怪人を回収していきますので」
ブレイブブルーに関して考えるのが面倒だったのか、センリは捕まえてたフレザードをさっさと乗ってきた箒に括りつけると空へと飛び立つ。
「ちっ、おい! もっと丁寧に運びやがれ!」
「黙れ」
「うがっ!」
センリが一発殴るとフレザードが白目をむいて気絶する。あれ大丈夫か? 死んでんじゃねぇだろうな。
「次の仕事がありますので。失礼します」
「あ、うん……」
そう言ってセンリは軽く頭を下げ、フレザードを連れて飛び去って行くのだった。
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