第34話 利用し、利用される関係
フレザードを引き渡したオレは、人目につかない場所に移動してから変身を解いた。
「よし、ちゃんと戻ったな」
手をグーパーしながら、自分の体が元に戻ったことを確認する。手足の長さから身長から、全部変わっちまうからな。どうにも違和感が拭いきれねぇ。
これから変身してくうちに慣れるといいんだけどな。いや、でも考えようによっちゃこれに慣れるってことは何かを失うことになるんじゃ……そう考えたら、違和感抱えたままの方がいいのか?
「……まぁ、今から気にしててもしょうがねぇか。あいつらが待ってるかもしれねぇし。さっさと戻るか」
空花と亮平が合流してたのはさっき見たからな。後はオレが合流するだけなんだが……さて、どうしたもんか。
バレないように上手く合流する方法考えねぇとな。下手なことすると空花に疑われかねねぇしな。
いや、そもそもさっきラブリィレッドの姿の時に亮平に会っちまってる時点で今さらな気もするけどな。
協力者とか言っちまったしな。言ったのはオレじゃなくてあのブレイブブルーだけど。
「はぁ……会ったら絶対に詰め寄られるよなぁ。どう言い訳したもんか。めんどくさい予感しかしねぇ」
でもだからって黙って帰るわけにもいかねぇ。そんなことしたら余計に亮平の奴が騒ぎ立てるだけだろうからな。下手したら家にまで来るんじゃねぇかあいつ。
「どうやら片付いたみたいね」
「……クソ妖精……いや、フュンフか」
「あら、私のことを名前で呼ぶなんてどういう風の吹き回し?」
「クソ妖精はクソ妖精だ。その認識は一ミリも変わってねぇよ。だが、これから魔法少女として活動してくなら妖精であるお前の知識は必要不可欠になる。そのためなら多少歩み寄ってやるってだけだ。オレは心が広いからな。ってか、結局この流れもどうせお前の想像通りの展開なんだろ?」
「気づかれちゃった?」
「当たり前だろうが。よくよく考えりゃ、あんだけ魔法少女になれって連呼してた奴が急に意見変えるなんておかしいからな。それに加えてあのフレザードが出てきた時にわざとらしく止める感じ。どう考えたって狙ってただろ」
「トイフェルシュバルツに狙われて危ないと思ってるのは本当なんだけどねぇ。まぁ確かに、あなたの反骨心を狙ってのことだったけど。半分わかってて乗ったわけね」
「お前の狙ってた通りの展開にするのは癪だったがな」
「あの怪人に関しては完全に予想外だったけど。晴輝が腹を括るきっかけになったならちょうどよかったのかもね。『ウバウンデス』だっけ? 私も名前くらいは知ってる組織だわ」
「ヴィラン組織なぁ……まぁ積極的に関わるつもりはねぇけど、向こうから突っかかってくるなら叩き潰すだけだ」
「その意気よ晴輝。ようやく魔法少女らしくなってきたわね」
「うっせぇ黙ってろ。っていうかこれが魔法少女らしいってお前の中の魔法少女イメージどうなってんだよ」
「トイフェルシュバルツに関しては後々対処を考えるとして。あらためて、あなたのことを歓迎するわ晴輝。いいえ、魔法少女ラブリィレッド。さぁこれから一緒に素晴らしい魔法少女道を歩んでいこうじゃない」
「何が一緒にだ。オレのこと利用する気満々のくせによぉ。言っとくが、オレはオレの思う様にやらせてもらうぞ。お前の指図は聞かねぇ」
「なるほど。協力関係というよりも、利用し、利用される関係ってわけね。まぁそういうのも嫌いじゃないわ。あなたには期待してるから。これから楽しみにしてるわね」
「……ふん」
オレの魔法少女に対する知識はほとんどないに等しい。
魔法少女統括協会のことも、他の魔法少女のこともほとんど知らなかったくらいだからな。だが、これから活動してくってなら情報は欠かせねぇ。
アプリの掲示板の載ってる情報だけが全部じゃねぇだろうしな。妖精だけしか知ってねぇ情報なんてのも多そうだ。
それをフュンフが全部話すとも思えねぇし、こいつの腹黒さを考えたらまだまだ隠してることも多そうだ。
利用し、利用されるなんて言ってたが一方的に利用する気満々だろうな。
だがそれはオレだって同じだ。こいつをとことん利用してやる。
「ねぇ、そういえば一つ聞きたいんだけど」
「あ? なんだよ」
「あんなに魔法少女を毛嫌いしてたあんたがどういう心境の変化でこれからも魔法少女としての活動を続ける気になったわけ? 自分の意思で変身したから、なんて言ってたけど。どうにもそれ以外の理由があるように思えてならないんだけど。だって別に今回自分の意思で変身したからって、魔法少女を続ける理由にはならないでしょう?」
「…………」
確かにこいつの言う通りだ。
オレは今回、亮平のアホを助けるために自分の意思で魔法少女なった。だが、だからって魔法少女を続ける理由にはならねぇ。
今回の一件をイレギュラーとして片付ける。そういう判断だってできた。
そうしなかったのは……。
「はっ、別にお前には関係ねぇだろうが。お前はオレが魔法少女として活動すりゃそれで満足なんだろ」
「ふーん、まぁいいけど」
オレが魔法少女として活動すると決めた時。オレの脳裏にチラついてたのは詩音の姿。
もし魔法少女として活動を続けてたら、いつかあいつに……行方不明になったあいつの情報を手に入れることができるかもしれねぇ。
ただそう思っただけだ。今さらな話だけどな。
そんなしょうもない理由もこいつに教える必要はねぇ。
「そこまで興味があったわけでもないし。それよりも早くあの子達の所に戻ったらどう? さっきあんたのこと探してたわよ」
「っ! そうだ。早くあいつらの所に戻らねぇと。おいフュンフ。後でお前には色々と話してもらうからな」
「はいはい。わかったよ。早く行ってらっしゃいな」
そしてオレはクソ妖精……もといフュンフに見送られ、亮平と空花の元へと走るのだった。
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