第32話 下手な嘘は後々困ることになる

 ブレイブブルーの登場によって、フレザードはあっという間に倒された。本当にあっという間の出来事だった。

 正直あまりにも早すぎて何が起こったか一瞬わからなかったくらいだ。前に襲いかかって来た時にも思ったけど、こいつに剣捌きとんでもないな。

 今回は前みたいに襲いに来たって感じないけど……油断はできねぇ。


「……」

「何をボーっと突っ立ってるの。早くこの怪人を拘束しなさい。魔法少女統括協会への連絡、人質の解放。やるべきことはいくらでもあるでしょう」

「そ、そうだった」


 確かにこいつのことは気になるけど、確かにまたフレザードが目を覚ましたら面倒だ。さっさと拘束しとくか。

 怪人を拘束するための縄はオレの魔力を使って作られる特殊性だ。怪人の身体能力も特殊能力も抑えることができるらしい。

 ある程度弱ってないと効果を発揮しないらしいから、このフレザードみたいにぶちのめさないといけないんだけどな。

 変な所で不便っつーか。最初から使えりゃこの縄で拘束するだけで全部終わんのに。

 まぁ、何事も全部は上手くいかねぇって話か。


「よし、これで大丈夫かな」

「……そこまで拘束しなくても大丈夫よ?」

「え?」

「拘束するのは手足だけで十分。それでこの怪人も能力は使えなくなるから。手足もグルグル巻きにして、口まで縛る必要はないから」

「あ、そっか。口から火球を吐き出したりしてきたから抑えとかないとって思ったんだけど」


 確かにこいつの言う通り、能力を封じた時点でこいつが口から火を吐くことはねぇし。

 まぁでも一応起きて暴れられても面倒だし、手足だけはキツく縛っとくか。


「とりあえずじゃあこんな感じで」

「ずいぶん入念に縛るのね。見た目にしては警戒心が強いというか」

「え?」

「なんでもないわ。こっちの話」

「ん? まぁいいけど。後は人質だよね」


 さっきまで怪人がいた場所の後方にまとめて捕まってた人たち。亮平のアホもその中に入ってるわけなんだが。

 まぁ縄で縛られてただけみたいだし、怪我もしてなけりゃ何かされた形跡もなしか。これなら大丈夫そうだな。

 縛られてた人質を一人ずつ解放していく。


「ありがとうございます!」

「ありがと、おねえちゃん!」

「助かったぜ嬢ちゃんっ」

「あぁん、怖かったぁ!」


 口々に礼の言葉を言いながら、解放された人たちは去っていく。

 なんつうか、普段は恨みつらみばっかりぶつけられてるからこういうのは新鮮な気がするな。

 慣れてねぇからむずがゆくなる……。

 次々と人を解放していき、最後に残ったのは亮平一人となった。


「はい、あなたも……怪我はしてない?」


 見た感じは大丈夫そうだが……ってか、こいつの場合は心配する必要もねぇか。やたらと頑丈だしな。多少怪我してるくらいなら大丈夫だろ。


「…………」

「? どうかした?」

「あ、あの……なんで俺の名前知ってたんスか?」

「名前? ……あっ!?」


 そういやそうだ。さっき亮平の馬鹿がフレザードに襲われそうになった時、思わずこいつの名前を叫んじまったんだ。この姿のままで。

 やべぇ、これはやべぇぞ。当たり前だが、ラブリィレッドの姿でこいつと会ったことなんてあるはずがねぇ。というかそもそもラブリィレッドとして活動したことだってこれが三回目だ。


「え、えっと……それは……」


 なんて誤魔化す。気のせいだって言い張るか?

 『亮平じゃなくて浩平って言ったの。あなたが知り合いに似てたから見間違えて』みたいな感じで。いやそんなんじゃ誤魔化せねぇだろ。

 どうする……どうする。


「もしかして……」

「っ! あ、あの——」

「もしかして晴輝と知り合いなんスか!?」

「……へ?」

「おかしいと思ったんだ。あいつが急に魔法少女に興味持ち始めたの。なんか理由があんじゃないかと思ってたけど。そうか、ラブリィレッドさんと出会ってたからなのか! 考えりゃあいつが魔法少女に興味持ったのとラブリィレッドさんが出てきたのは同じタイミングだった!」

「…………」


 そうだ。こいつ馬鹿だった。

 いや、まぁでも確かに普通に考えりゃオレとラブリィレッドが同一人物なんて思うはずねぇか。

 この勘違いもそれはそれで嫌なんだが……とりあえず今はこれを利用するとするか。


「う、うん! そうなの。実は晴輝とは知り合いで。あなたのことも晴輝から聞いたの」

「や、やっぱり……くそぅ、晴輝のやつ! いつの間にこんなに可愛い魔法少女と知り合いに……俺にも教えやがれってんだ!」

「あはは……」


 色々と言いてぇことはあるが、ここはこれで誤魔化すしかねぇ。不本意だが、めちゃくちゃ不本意だがな!

 

「と、とにかく。私がここに駆けつけることができたのも彼が連絡してくれたからなの」

「まさか連絡先まで知ってるのか晴輝は!? なんて羨ましい……ラブリィレッドさん! 俺とも連絡先交換してください!」

「ごめんなさい」

「断られたっ!?」


 断ったというか、こいつの連絡はもう知ってるからなぁ。下手にスマホ出そうもんなら一発で正体がバレる。それだけは避けなきゃならねぇ。


「えっと、その、ほら、私って魔法少女だから。個人情報を言いふらすわけにはいかなくて」

「あ。なるほど。それはそうッスね。え、でもそれじゃあなんで晴輝は連絡知ってるんスか?」

「えっ!? そ、それは……」


 なんて答える。これはなんて答えるべきなんだ。


「協力者だからよ」

「え?」

「協力者? って、あなたはブレイブブルーじゃないッスか! ラブリィレッドより少し前に現れた蒼髪のクールビューティー魔法剣士! やべぇ、俺の最近気になってる魔法少女が揃っちまった! なんて日だ!」


 亮平のテンションが高すぎてうぜぇ。殴りてぇ。でもこの姿で殴るわけにはいかねぇ。耐えろ、耐えるんだオレ。

 グッと拳を握りしめて亮平を殴りたい衝動を抑える。


「私のことまえよく知ってたわね」

「もちろんッス! これでも魔法少女オタクッスから! 新しい魔法少女は逐一情報を手に入れてて、その中でもブレイブブルーさんとラブリィレッドさんは最近の一推しッスよ!」

「そう、ありがと」

「うはぁあああああっっ!!」


 ブレイブブルーに礼を言われたことでとうとうテンションが振り切れる亮平。

 やっぱ殴っちまっていいんじゃねぇかなコイツ。というか、オレは別に大した活躍もしてねぇのになんで推されてんだ。


「って、そうだ。結局何なんスか協力者って。聞いたこと無いんスけど」

「そうでしょうね。別に隠されてるわけじゃないけど。あまりおおやけにその存在が知られたりはしないから。協力者は文字通り私達魔法少女に協力してくれる人のことよ。ここ最近、魔法ヶ沢市での怪人の目撃情報が増えてきたから協力者を作ることにしたの。そして白羽の矢が立ったのが彼……紅咲晴輝だったの。彼は過去にも何度か怪人との遭遇歴があったらしいから」

「そ、それなら俺もぜひ協力者に!」

「ごめんなさい。もう協力者は足りてるから」

「そ、そんなぁ……」


 にべもなく断られ落ち込む亮平。

 だが、それ以上に気になるのは……ブレイブブルー、こいつなんでオレが何回も怪人に会ってるとか、そんなことまで知ってやがる。

 こいつもしかして……。


「とにかく、これ以上ここに居ても無意味よ。さっさと帰ることね……お友達も心配してるみたいだし」

「友達?」

「あ……」


 ブレイブブルーの視線にあったのは空花の姿。

 あいつ、逃げろって言ったのに戻って来たのか。まぁ無理もないかもしれねぇけど。


「そうだね。行ってあげたら?」

「……そうッスね。心配させちまってるみたいだし。二人ともありがとうッス! この恩は一生忘れねぇッスから。二人のことはこれからずっと推していきます!」

「あ、ありがとう?」

「好きにしなさい」


 別に亮平に推されても嬉しくともなんともねぇんだが。というかむしろオレのことは忘れてくれ。

 そんなオレの内心など亮平が気付くはずもなく、ルンルンと軽い足取りで空花の元へと向かう亮平のことを見送るのだった。

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