第31話 しまりのない決着

 オレがフレザードに向けて駆け出すのとほとんど同時に、フレザードの指示を受けた戦闘員が突っ込んでくる。

 でも別に連携をしてるわけでもない。それぞれが自分勝手にオレのことを捕まえようとしてるだけだ。

 喧嘩吹っ掛けてくる考え無しの不良みたいなもんだ。そんなの怖くもなんともねぇ。

 正面からぶっ飛ばすだけだ!


「はぁああああっっ!」

「「キーッ!!」」

「ふんっ!」


 近づいて来る戦闘員をステッキで殴り飛ばす。

 明らかに意図した使い方じゃねぇだろうがそんなの関係ねぇ。とりあえず今は一秒でも早くあのフレザードとかいう調子に乗った怪人をぶっ飛ばす、それだけだ。

 体の奥底から溢れてくる魔力を炎に変換して、ステッキに纏わせる。あっさり折れちまいそうなほど細いステッキでも、こうすりゃ破壊力だけは保証できる。

 そして、そんなオレの狙い通り戦闘員はステッキに触れた先から面白いように消し飛んでいく。

 確かに数は多いが、この程度の戦闘員なら居ても居なくても関係ねぇな。

 遠くの奴は魔法で焼き払って、近づいて来た奴はステッキで殴り飛ばす。そうしてがむしゃらに戦ってる間に、フレザードが出した戦闘員はあっという間にいなくなった。


「どんなもんよ!」

「ちっ、戦闘員如きじゃ止めれねぇか。まぁいい。もとから戦闘員なんぞには期待してねぇ。テメェを捻るのなんざこの俺様一人で十分だからなぁ!」

「やれるもんならやってみなさいよ!」

「ほざきやがれっ!」


 フレザードが吐き出した巨大な火球をステッキで上空に打ちあげる。

 

「んなぁ?!」

「遅いっ!」

「ぐぼあっ!」


 火球一発で仕留めれると思い込んでたのか知らねぇが、火球を撃ちだした後のこいつはあまりにも無防備だった。つまり隙だらけだ。

 フレザードの腹に一発拳を叩き込む。これはまともに入った。こいつがよっぽど丈夫じゃねぇ限り相当効いたはずだ。


「げほっ、がほぉっ……っぅ、テメェ……調子に乗るんじゃねぇぞぉ!」

「別に調子に乗ってるつもりはないけど。これが私とあなたの力の差でしょ」

「力の差だと? はっ、テメェの一撃なんざなぁ、へでもねぇんだよぉ!! ウォオオオオオオオッッ!!」


 高らかに雄叫びを上げながら立ち上がるフレザード。

 まったく効いてないわけじゃなさそうだが、確かにまだまだ動けるって感じだな。いや、むしろ今の一撃で完全に頭に来ちまったってか。


「燃やし尽くしてやるよてめぇ!」

「っ!」


 オレめがけて火球を連続で吐き出すフレザード。連射力を上げるためか、一発一発の火力はさっきほどじゃねぇ。でも、その代わりに速度が上がってる。

 当てれば終わらせられるってか? ならその考え自体が甘いってことを教えてやる!


「ふっ、はっ、やぁ!」


 吐き出された火球を全部上空に打ち上げる。上空で炸裂する火球の威力を見れば確かに相当な威力だってことはわかる。だが、それも当たったらの話だ。当たらなきゃ意味はねぇ。

 今度はこっちの番だ!


「燃やして撃ち抜け——『ファイア・バレット』!!」

「ぐぁああああああっっ!!」


 フレザードの吐き出した火球以上に速度で撃ち出された炎の弾丸。

 その弾丸はオレの狙い通り、フレザードの太ももに命中した。

 さすがにこれはキツイはずだ。足を完全に貫通してんだからな。


「クソが……テメェ……」

「私の炎、ちゃんとあなたに効いたみたいで何よりね」

「こんのぉ……まだ終わってねぇぞごらぁ!」


 オレが若干勝ち誇ってると怒りでただでさえ赤い顔をさらに真っ赤にしたフレザードが襲いかかってくる。

 だがそれじゃあさっきの戦闘員と同じだ。喧嘩ってのはただ殴ればいいってもんじゃねぇ。どこを殴るか、何で殴るか、どう殴るか。それを考えなきゃいけねぇんだ。

 身体能力だけで押し切れるほど喧嘩は甘くねぇ!


「ガァアアアアアアアッッ!!」

「ふっ、はっ、おりゃ!」


 ましてや今のオレは身体能力が変身してないときに比べて格段に向上してる。

 体が小せぇぶん、リーチばっかりはどうしようもねぇが。それを差し引いてもお釣りがくるぐらいにはこの体は強い。

 つまり何が言いたいのかってーと、今のオレに殴り合いで勝てると思ってんじゃねぇぞ!


「ぐっ、がっ! ぐぼぁっっ!!」


 フレザードが攻撃してくるよりも早く、顎、そして腹を殴って体勢を崩した所で鳩尾に渾身の蹴りを叩き込む。

 ゴロゴロと地面を転がる様はまさに敗北者というに相応しい姿だ。

 ふん、これでどっちが調子に乗ってたか。わかっただろ。


「私の勝ちだね。さ、わかったら大人しく負けを認めて捕まって」


 このまま消し飛ばしてもいい気がするけどな。でも捕まえれるなら捕まえた方がいいだろ。なんか組織所属してるとか言ってたし。その組織の情報を吐かせるって意味でもな。

 オレもどっかの不良チームに喧嘩売られたらとりあえず一人は捕まえて情報吐かせるしな。何事も元を断つってのが大事なんだ。

 だが、


「ふ……ふざけるなぁああああああっっ!!」

「っ!」

「お、俺を誰だと思ってやがる! 俺は『ウバウンデス』に所属する怪人、いつか幹部にも……トップにもなる大怪人様だぞぉ! てめぇ如きが調子に乗ってんじゃねぇ!」

「『ウバウンデス』? それが組織の名前なわけ? まぁいいけど。でも何を言ったところでその状況じゃ——っ!」

「ガァアアアアアアアッッ!!」


 転がった姿勢のまま大きく口を広げたフレザードがオレめがけて火球を飛ばしてくる。

 とっさのことだったが、なんとかギリギリ反応して避ける。だが、それがフレザードにとっては恰好の隙になってしまった。

 オレに勝負を挑んでも勝てないと思ったのか、フレザードはオレとは逆の方向……捕まえた人質のいる方へと走っていく。


「あ、ちょっと!」

「ゲハハハハッ! こうなりゃ手段なんか選ばねぇ、どんな手を使ってでもテメェを殺してやるよ!」

「っ! まさか……」


 あいつ、人質を盾にするつもりか!

 しかもあいつの向かってる先にいるのは。


「っ、亮平!!」


 慌てて体勢を立て直してフレザードを追いかけるが、この距離じゃフレザードが亮平の元にたどり着く方が早い。

 魔法で足止めしようにも、下手な魔法撃ったらフレザードだけじゃなくて人質の方にも当たる。

 クソ、何か手段は——。


「だからあなたは魔法少女に向いてないと言ったのに」

「っ!」

「切り裂け——『ブルースラッシュ』」

「ガッ……」


 フレザードが人質の元にたどり着く直前、その前に降り立つ人影。

 あの姿は……。


「ブレイブブルー!!」


 目にも止まらぬ速さでフレザードの体を斬り、吹き飛ばすブレイブブルー。

 ゴロゴロと地面を転がったフレザードは、完全に気を失ったのかピクリとも動かなくなる。かなり派手に斬ったように見えたけど、傷はそんなに深くないみたいだな。致命傷って感じじゃねぇ。


「なにボーっと見てるの。早く捕まえなさいよ」

「う、うん……」


 こうして最後の最後を持って行かれるという、なんとも不完全燃焼な形でオレとフレザードの戦いは幕を閉じたのだった。

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