第13話 捕縛完了!

 逃げだした十万……もとい鳥型の怪人はオレの姿を見るなりとんでもない速度で逃げ出した。


「逃がさない!」


 怪人としての人間離れした身体能力を持ってるとはいえ、それはオレも同じ話だ。

 もとより小さくはなった体だが、魔法少女ってだけあって漲るほどの力に溢れてる。


「大人しく捕まって! (大人しく捕まれやボケコラァ!!)」

「ひぃっ、な、なんで追ってくるんだよぉ!」

「あなたが逃げるからでしょ! (テメェが逃げるからだろうが!)」

「この子可愛いのに怖いよぉ!」

「んなぁっ?!」


 こ、この野郎……オレに向かって可愛いとかぬかしやがったな!

 絶対に許さねぇ……ボコボコにして可愛いとか言ったことを後悔させてやる!

 だがこいつは逃げるばかりでいっこうに戦おうとしない。

 っていうかさっきから写真撮ってる奴がチラホラいるのが気になるんだが……。


「写真撮られてるのが気になる?」

「当たり前でしょ」


 どこからともなく現れたクソ妖精がオレの気にしてることを指摘してくる。

 今はあの怪人を逃がさねぇことが優先だから何もしねぇけど、許されるならあの写真全部消去してぇくらいだ。


「まぁそりゃ魔法少女がそんなに珍しい存在じゃないとはいえ、滅多に会うことなんてないもの。写真くらい撮りたくなるでしょ。それくらい許してあげなさいな」

「いや、この姿を撮られて保存されるのが屈辱なんだけど」

「恥ずかしがりやねぇ。今からそんなこと気にしてたら身が持たないわよ。こういうのは慣れよ慣れ。そのうち慣れるわ」


 いや、だから慣れたくねぇんだよ。っていうか、魔法少女に変身するのは絶対に今回で最後だ!


「ほら、そんなことよりも前に集中しないと逃げられるわよ」

「っ!」


 写真を撮ってる奴に気を取られてる間に気付けばあの怪人との距離が少し開いてる。


「あっ、いつの間に!」

「戦う根性はないけど、その分逃げ足だけは早いらしいわね」

「あぁもう、逃げるな!」

「ひぃいいいいいっ!」


 なんで怪人のくせにあんなビビってんだ。

 あんなでかい図体してるくせしやがって。いい加減戦えってんだ!


「そんなイライラしてたら可愛い顔が台無しよ。ほら、ニコニコしてなさい。写真も撮られてるんだから」

「可愛いとか言わないで!」


 っていうかニコニコして追いかけろって頭おかしいだろ!

 あぁ、クソ。いつまでもあいつ追いかけっこしてるわけにはいかねぇんだ。なんとかしてあいつの足を止めねぇと。いや、足っつーか翼か。

 もぎ取るか? 生きてさえいりゃいいんだろ?


「それにしてもあの怪人、どうやら成り立てみたいね」

「成り立て?」

「あら知らない? 怪人には二種類いるのよ。生まれた時からの怪人と、訳あって人間から怪人になった者の二種類」

「ふーん」

「……あら、驚かないのね。世間一般には知らされていない事実だし、結構衝撃の事実だと思うけど」

「別に驚くようなことでもないでしょ。生まれた時から怪人だったとしても、人から怪人になったんだとしても、どっちにしたって怪人は怪人。その結果に変わりはない、そうでしょ?」

「そうだけど……結構ドライな考え方してるのね」

「この程度でドライって言われても」


 それに、人が怪人になるってのは知ってたことでもあるしな。


「とにかく、あの怪人は最近怪人になったばっかりってわけなのね?」

「うん、だからまだ自分の体の使い方がわかってないんじゃない? それも早くしないと慣れちゃいそうだけど」

「っ……」


 確かにあの十万円……もとい怪人は少しずつ飛ぶ速度を上げてる。

 少しずつ体に慣れ始めてる証拠だ。

 ちっ、面倒な。こうなったらやっぱり無理やりにでも撃ち落とすしかねぇな。


「燃え盛れ——『ファイアボール』!!」

「っ、うわぁっ!」

「外した!?」

「ひぃ、ひぃっ!!」


 後ろからの不意打ちを見てから避けるとかどんな反射神経だよ!

 クソ、これだから怪人ってのは!

 だが、今外したのは相当痛手だったかもしれない。

 今の攻撃であの怪人、完全にパニックになりやがった。


「死にたくない、死にたくなぁいいいいいっっ!!」

「っ!」


 羽を飛ばして来やがった! しかもこの羽、刃物みたいに鋭い!


「あら、とうとう自分の武器に気付いちゃったか。ほら、急がないと市民に被害が出るわよ。そんなことになったら報酬が削られちゃうかもね」

「っ! そんなことさせない! どんなに鋭くても羽は羽! 燃やせば関係ない! はぁああああっっ!」


 手に持った杖から炎を生み出し、飛んでくる羽を燃やし尽くす。

 よし、今のこの状態でも十分対処できる。これならあの羽を怖がる必要もねぇ!

 まずはとにかくあいつを落ち着かせねぇと。


「いい加減止まって! 別にあなたのことを倒したりしないから!」

「そんなこと言って、先に攻撃してきたのはそっちじゃないか!」

「っ、あぁもう!」


 先に攻撃したのは失敗だったか。

 ちっ、あの一撃で止めてれりゃ関係なかったんだが……いや、今は後悔してもしょうがねぇ。反省は後だ。


「大丈夫、怖いことなんてなにもないから! ただちょっと話に付き合ってほしいだけだから!」

「そんな炎出されながら言っても説得力ないよ!」

「あ……それもそうか」

「そ、そうだよ。だからボクと話合いがしたいならその炎を解除してよ」

「……わかった」

「っ! それじゃあ」

「うん、炎を解除する」


 このままじゃ埒が明かない。

 だったら向こうの要求を呑むのもやぶさかじゃねぇ……。


「——なんて言うわけないでしょ!」

「うぇっ!?」

「縛って、愛の鎖——『ラブリィチェイン』!」


 名前は気に食わねぇけど、この魔法の力は昨日の時点で十分よくわかってるからな。

 拘束するには持ってこいの魔法だ。

 オレの言葉にまんまと騙されたあの怪人は一瞬気を緩ませた。その隙をつかない理由はねぇ。


「ふふん、やっと捕まえたわ」

「う、嘘を吐いたな!」

「嘘? 嘘じゃないよ。ほら、炎は解除したでしょ。でも代わりの魔法を使っただけ」

「詭弁じゃないか!」

「詭弁で結構」


 羽は縛った。これでこいつはもう逃げれねぇ。

 それに、嘘を吐いたってならこいつもそうだ。


「でもあなただって私が炎を解除したタイミングで攻撃しようとしてたでしょ」

「っ! そ、そんなことは」

「嘘。どんな理由があるか知らないけど。さっき私が炎を解除するって言った時、あなたは一瞬笑った。間抜けとでも思った?」

「うぐぅ……」


 あの瞬間、こいつは確実に目を光らせた。

 オレの隙をついて攻撃するつもりだったのは丸わかりだ。

 だがそんな手に騙されるオレじゃねぇ。


「弱弱しい態度で油断させるのが狙いだった? でも残念、私は騙されないから」

「くぅ……」


 がっくりと項垂れる鳥型怪人。

 抵抗も諦めたみたいだ。抵抗しても無意味だしな。

 ま、何はともあれこれで捕獲完了ってわけだ。

 こうして、オレの二回目の魔法少女としての戦いは予想以上にあっさりと終わったのだった。

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