第12話 二度目の変身

 駅前にやって来たオレは近くには周囲を見渡し、怪人の姿を探した。


「おい、どこにもいねぇじゃねぇか」

「はぁ、当たり前でしょ。もし今適当に探しただけで見つかるなら他の魔法少女がとっくの昔に見つけてるわよ」

「ちっ、それもそうか……どうやって見つけっかな」

「そんなの簡単じゃない」

「あ?」

「変身すればいいのよ。そしたらあなたの知覚も何もかも全部向上するし、何より……魔法で探すことができるようにもなるもの」

「変身だと? バカなこと言ってんじゃねぇぞ!」

「バカなこと言ってるのはあなたでしょ。どのみち怪人を見つけたら生身じゃ対処できないもの。変身することになるのよ?」

「ぐっ……」


 こいつの言うことはもっともだ。

 昨日の怪人……あのクソ蛙を見ててもわかる。

 怪人の身体能力は人間の比じゃねぇ。そのうえ舌を伸ばして来たり、変な能力まで持ってやがる。

 今のままのオレじゃ勝てねぇことも理解してる。

 くっ……やっぱ変身しねぇとダメなのか。

 あの姿に……。


「どうする? このままボーっとしてたら十万円は他の人に持って行かれちゃいそうね」

「ちっ……あぁくそ! わかってんだよんなことは! 変身すりゃいいんだろうが!」


 今回だけだ。十万のためだ。!

 腹を括れ!

 素早く周囲を見渡し、ちょうど隠れられそうな建物の陰を見つけた。

 あそこなら誰にも見つからねぇだろう


「ほらほらぁ、早く変身しちゃいなさいよ」

「うっせぇ黙ってろクソ妖精」

「いい加減クソ妖精って呼ぶのやめてくれる? 私にはフェンフっていう素晴らしい名前があるのよ」

「はっ、誰が呼ぶかよクソ妖精」

「ったくもう、あんたも素直じゃないわねぇ。まぁ今は大目に見てあげましょうか。さ、変身しなさい晴輝!」

「わかってんだよ——ラブリィチェンジ!」


 半ば自棄になりながら変身の言葉を叫ぶ。

 その途端、右腕に嵌めた赤い腕輪が眩い光を放ちオレの体を包み込む。

 それは時間にしたらきっと一瞬のことなんだろう。だが、その一瞬でオレの視界は一気に低くなった。

 そしてその光が収まる頃には……。


「あぁ、また変身してしまった……」

「ふふん、やっぱりよく似合ってるじゃない」

「そんなこと言われても全然嬉しくない(んなこと言われても全然嬉しくねぇんだよ!)」

「はい、ぶつくさ文句言わない。ほら、その杖使ったら広域探知ができるでしょ」

「広域探知?」

「そう。あなたの魔力を消費して行う魔法よ」

「魔力を使うとか言われても」


 それっていったいどんな感覚なんだ?

 飛び方も動かし方も知らねぇのに翼与えられて飛べって言われてるようなもんだぞ。


「うーん、まぁ昨日魔法使った時と一緒よ。念じれば使える。魔法ってそういうものよ」

「なにそれ……」

「もちろんあんた自身の魔力にも限りがあるから使い過ぎは注意だけど」


 言われてもよくわからねぇな。

 ま、念じれば使えるってことは……こうか?


「ふっ!」


 電波の悪いところでスマホを高くかざしてみるみたいに、杖を高く掲げて念じてみる。

 杖の反応は顕著だった。体の中から何かを持っていかれる感覚と一緒に眩い光を放つ。


「っ! なにこれ」


 頭の中に地図が広がるみてぇに、一気に膨大な量の情報が流れ込んでくる。


「っぁ……!」

「っ! ちょ、あんた! 一回探知止めなさい!」


 慌てて杖を手放して探知を止める。

 それだけで探知の魔法は解除されたのか、頭が割れるかと思うくらい一気にぶち込まれてた情報が止まる。

 いってぇ……なんだ今の。

 情報が多すぎて死ぬかと思ったぞ。


「あのねぇ、あんたバカなの?」

「バ、バカ?!」

「探知の魔法にあんだけバカみたいな魔力注ぎ込んだら情報過多になるに決まってるでしょ。そんなこともわからないの!」

「そ、そんなこと言われても」

「っ! あんたもしかして……」

「私は軽く魔力を注いだだけで」


 バカみたいな魔力とか言われたってそんなもんわかるわけない。

 オレとしては本当に軽く注ぎ込んだくらいなんだぞ。いきなりそんなもん調節しろだのなんだのと言われても無理に決まってるだろうが。


「ふぅ、なるほどね……ふふ、いいじゃない。あなたやっぱり最高ね。選んで正解だったわ」

「? 何言ってるの」

「こっちの話よ。今度はそうね、もっともっと軽く魔力を注ぎこんでみなさいな」

「……わかった」


 このクソ妖精の言われる通りにするのも癪だが、それで怪人のことを逃がしたらそれはもっと最悪だ。

 恥を飲んで変身した意味がなくなっちまう。


「もっと軽く……軽く……」


 さっきまでよりもなお少なく魔力を杖に注ぎ込む。

 これで無理ならもう無理ってくらいだ。

 すると、さっきまでよりも少ない情報が頭の中に流れ込んでくる。

 よし、これならなんとかなんだろ。

 

「駅周辺の……地図?」

「今度はちゃんと見えてるみたいね。ここ周辺一帯の情報が確認できてるはずよ」

「確かに……」


 思った以上に色んなものが見えてる。

 駅周辺の人の動きが見える。まるで前に亮平の家でやらされたRPGみてぇだ。

 黄色いのが人で……? なんだこの赤い表示。


「この赤いのは?」

「っ! それよ! それが怪人のマーク!」

「それを最初に言ってよ! (それを最初に言えやボケ!)」


 見つけた赤いマークを追って駆け出す。

 何が目的かわからねぇが怪人のマークが駅周辺から動いてねぇ。これなら十分に追いつける!


「表示はこのあたりに……見つけた!」


 駅の屋根の上。

 そこに怪人はいた。

 でっかい翼にクチバシ、そんでもって人型。掲示板に書いてあったまんまの特徴……あいつだな! 十万円は!

 あんな目立つのにどうして気付かれてねぇのかわからねぇが。オレに見つかったのが運の尽きだ!

 十万円は絶対に確保させてもらうぞ!


「見つけました! (見つけたぞテメェ!)」

「っ!」


 尋常ならざる脚力でもって地を蹴り、屋根の上へと飛び上がる。

 オレの姿を見た怪人は、ビックリしたみてぇに目を見開いてたが……そんなことは関係ねぇ。

 やっと見つけたんだ。逃がさねぇぞ十万円!


「な、なんでここが……それにボクまだ何もしてないのに」

「何もしてない?」


 どういうことだ?

 ……いや、関係ねぇか。こいつが怪人で、十万円ってことが何よりも重要だ。

 さっさとふんじばって終わらせる。そんだけだ。


「絶対に逃がさないから(ぜってぇ逃がさねぇぞ)」

「ひぃっ!」

「あ、待て!」


 昨日のクソ蛙とは違って戦う素振りも見せずに逃げ出した。

 どんな腹積もりか知らねぇが……オレから逃げれると思うなよ十万円!!

 こうして、オレと鳥型怪人の追走劇が始まった。


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