第11話 お金の魔力

 放課後、オレはすっかり軽くなった財布を睨みながら家に向かって歩いていた。

 亮平と空花は一緒に帰ろうとか言ってきたが、適当な用事をでっちあげて諦めてもらった。


「ちっ……空花の奴、人の金だからって好き放題食いまくりやがって」


 昼休み、弁当……もといブラックマターを作りあげた空花。あんなもん食える奴がいるわけもなく、作ってきた本人すら食うことを諦める始末だ。

 くそ、あんな賭けさえしてなけりゃ昼飯奢る必要もなかったってのに。

 っていうかの体のどこにあんなに入るんだよ。

 オレよりはるかにちっさいくせして、オレの倍以上の量食ってやがったぞあいつ。

 しかも平然としてやがるし。デザートまで買わせやがるし。

 

「はぁ……また適当な短期バイトでも入れるしかねぇな」

「困ってるみたいじゃない」

「……何しに出てきやがった」

「あなたが困ってるみたいだからいい話を持ってきてあげたんじゃない」

「断る。テメェの持ってくる話はろくでもねぇってわかったからな」

「失礼ねぇ。でも聞くだけならタダよ? 断るなら聞いた後でもいいんじゃない?」

「…………」


 それもそうか。

 確かに聞くだけならタダだ。

 断るのはそれからでも悪くねぇかもしれねぇ。


「聞く気になったみたいね?」

「知るか。話すなら勝手に話しやがれ」

「ふふん、それじゃあ教えてあげる。アプリを起動してみなさい」

「アプリだ?」

「そ。今朝インストールしてあげたでしょ」


 あぁ、あの『魔法少女掲示板』とかいうアプリか。

 家に帰ったらさっさとアンインストールしてやろうとか考えてたが。

 別にこいつの話に興味があるわけじゃねぇが……まぁ、一応起動するだけして見るか。


「で、これが何なんだよ」

「怪人目撃情報って書いてる場所があるでしょ。そこに新情報が更新されてるのよ」

「……確かに書かれてやがるが。それが?」

「もう、よく見てみなさい。その目撃情報について。下に書かれてることを」

「下?」


 ズラリと並ぶ怪人の目撃情報。その下に書かれてるのは……賞金?!

 依頼受けたら金貰えるのはわかってたが、それにプラスして金が貰えるってことかこれ!


「依頼として掲示板に乗っているものの他に、そこに書かれている怪人を捕縛、もしくは討伐すると賞金が得られるのよ。ちなみに捕縛の方が高いお金を貰えるわ」

「この新しい怪人は……この近くじゃねぇか! しかも捕縛賞金十万だと!」

「ふふん、十万程度の怪人ってことは大したレベルじゃなさそうね。どう? ちなみに賞金は即日支払いだからお金に困ってるならうってつけよ」

「ぐ……」


 確かにオレの今の状況において金は必要だ。

 前のバイトは客と喧嘩してクビになっちまったばっかりだし。

 しばらく適当な日雇いでしのぐしかねぇと思ってたが……。


「たった一体怪人を捕まえるだけで十万……」

「ふふ、かかった……えぇそうよ。十万円。一月バイトして稼ぐよりもずぅっと楽じゃない? たった一日で終わるんだから」

「ぐっ……だからって……」

「あぁいいのかしら。こうしてる間にも他の魔法少女がこの怪人を捕まえに行ってるかもしれない。せっかくこの近くにいる怪人なのに。こんな機会なんて滅多にないのになぁ」


 チラッ、チラッとこっちの方をチラ見しながら憎たらしくも言ってくるクソ妖精。

 わかってる。こんな手口に乗るべきじゃねぇってことくらい。

 でも……それでもっ!


「クソ……十万の魔力が……」

「ふふ、いつの世も人はお金の魔力に抗えない。因果なものよねぇ」


 勝ち誇ったようなクソ妖精の声に心底腹が立つ。

 それに言い返せないオレ自身にも。

 金に余裕さえあればこんなクソ妖精の言うことを聞く必要なんてねぇってのに。


「今回だけだ!」

「はいはい。今回だけ、今回だけよね。わかってるわよ。さぁいきましょう。新魔法少女『ラブリィレッド』二回目の出陣といきましょうか!」

「『ラブリィレッド』言うんじゃねぇ!」


 クソ妖精に言い返しながら、オレは怪人の目撃情報のあった駅前へと急いだ。






□■□■□■□■□■□■□■□■


 駅前へと向かう晴輝のことを眺める人の姿があった。

 離れた屋根の上から、ジッと、いっそ冷徹なまでの眼差しを晴輝に向けている。


「あんな奴が……しかも男が新しい魔法少女だなんて。一体何を考えてるの?」


 その疑問は晴輝ではなく、晴輝の隣にふわふわと浮かんでいる妖精に向けられたものだった。

 屋根の上の少女はスマホを取り出し『魔法少女掲示板』のアプリを起動する。


「……今の時間、掲示板に張り出されてる目撃情報は……なるほど、ここから近いのは駅前の方か。見せてもらおうかしら。魔法少女としての素質。本当に魔法少女に相応しいか否かを」


 そして、その場にいた少女はその場から忽然と姿を消し、まるで元から誰もいなかったかのように、静寂だけがその場に残った。

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