第9話 波乱呼ぶ転校生

「はぁ……やっと静かになりやがった」


 教室について、やっと亮平も空花も他のダチの所に行った。

 おかげでやっと落ち着けたわけなんだが……。

 ってかさっきからやたらと男共がうるせぇな。なんかあったのか?


「ふふ、ずいぶんお疲れみたいね」

「……おいテメェ、学校では喋んなって言っただろうが」

「だから大丈夫よ。私の声が聞こえる人間なんてほとんどいないわけだし」

「絶対じゃねぇんだろうが。だったら鞄の中で大人しくしてろ」

「そんなのつまらないじゃない」

「知るか。勝手についてきたのはテメェだろうが」

「全くもう……わかったわよ。今日の所は、あんたの言うこと聞いてあげる」

「今日のところは、じゃねぇ」


 こいつ、もしかして明日以降も鞄の中に入ってついてくるつもりじゃねぇだろうな。

 明日以降はなんとしてでも阻止しねぇと。


「問題はどうやって阻止するかだな。こうなったら——」

「おい晴輝、晴輝!」

「ちっ、おいなんだよ。オレは今考え事してんだ。黙ってあっちに行ってろ」

「それどころじゃねぇんだって! とんでもねぇ情報を手に入れちまったんだ!」

「あ? とんでもねぇ情報?」

「あぁ!」

「わかった! 聞いてやるから顔近づけてくんな!」


 こいつ無駄に興奮してやがる。こうなったらこっちの話なんて聞きやしねぇし、一回落ち着かせるためにも話を聞いちまう方が楽だ。


「それで、なんなんだよその情報ってのは」

「ふふん、聞きたいか?」

「いいからさっさと喋りやがれ」

「いてぇっ!?」


 亮平のドヤる顔がムカついたからとりあえず一発殴った。


「しょうがねぇなぁ。実はな——」

「転校生が来るらしいぞ」

「おいクウ! 今俺が晴輝に言おうとしたのになんで先に言うんだよ!」

「リョウが勿体ぶるからだろう。さっさと伝えればいいものを」

「くぅ……まさかクウに先に言われるなんて」

「そんなに悔しがることなのかよ。どうでもいいが……それよりなんだ? 転校生が来るだと?」

「あぁ。私も今さっき友人から聞いた。見慣れぬ制服を着た女生徒が歩き回っていたらしいぞ。黒髪の、それはそれは美しい女子だったとか」

「あー、なるほどな。それでさっきから男共がざわついてるわけか。朝からうるせぇと思ってたが」

「なんでお前そんな落ち着いてんだよ! 転校生だぞ! しかも女子だぞ! これでテンション上がらずにいられるかよ! うぉおおおおおおおっっ!!」

「だからうるせぇ! テメェは一回黙ってろ!」

「うごばっ?!」

「あははははっ! これまた勢いよく飛んだな! 新記録じゃないか?」

「ったくホントに亮平のやつは……まったくこりねぇというか。何回ぶっ飛ばされりゃ気が済むんだ。いい加減覚えろってんだ」

「そうやって何回も殴り飛ばしてるからリョウの脳細胞が死んで覚えれないんじゃないか?」

「う……いやそんなはずは」

「ふふ、否定しきれないあたり多少は自覚があるんだな。まぁリョウの場合は元からだと思うけど。これを機に多少はあいつに優しくしてやったらどうだ?」

「できるか」

「それにしても……リョウはともかく、ハルは本当に興味がないのか?」

「あるわけねぇだろ。別に転校生が来ようがオレの生活になんの変化もねぇからな。その転校生もオレみてぇな奴に近づこうとはしねぇだろ」

「そこを改善する努力をしようとしないあたりがハルらしいというか。だが、案外わからないぞ」

「あ? なにがだよ」

「お前が転校生に興味も持たなかったとしても、私やリョウのようにその転校生が興味を持たないとは限らないって話だ」

「はっ、お前らみてぇな物好きがそうそういわるわけねーだろうが」

「ふふ、どうだか。世の中はお前が思っている以上に広いぞ」

「あり得ねぇよ。賭けてもいいぜ」

「ほぅ、言ったなハル。なら賭けるとしよう。そうだな……学食一週間分でどうだ?」

「いいじゃねぇか。オレの勝ちは見えきってるがな」

「賭け成立だ。ふふ、転校生が来るのが楽しみだな」

 

 




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 それから約二十分後。

 やけにニコニコした様子で担任の桜木が教室に入って来た。

 まぁ理由は言わずもがなわかるけどな。

 クラスメイトもソワソワしてるしな。


「えへへ、みんなおはよう! 実は今日はねぇ、みんなに大発表が——」

「知ってるぜ先生! 転校生だろ!」

「早く紹介してくれよ!」

「ふぇええ!? なんでみんな知ってるの?!」

「そんなの今はどうでもいいじゃん、愛ちゃん、ほら早く早く!」

「もう。こっちにだって段取りがあったのに……。まぁいいや。みんな待ってるみたいだし、青嵐寺さん、入ってきて」

「……失礼します」


 そいつが入って来た瞬間、教室の時が一瞬止まった。

 誰もが……オレも含めて、その転校生に目を奪われていたからだ。


「こいつは……」

「これはまた……」


 モデルのようにスラっとした体形。烏の濡れ羽色というに相応しい、見てるだけでわかるほどにサラサラとした黒い髪。

 切れ長の目は教室ないにいるオレ達を冷静に見渡している。

 って、ん?

 今あいつ……一瞬オレのこと睨まなかったか?

 さすがに気のせい……だよな。

 好かれるとも思っちゃいねぇが、初対面のはずだしな。

 一通りぐるっと教室を見回した後、その転校生は黒板にこれまた見事に綺麗な文字で名前を書く。


「……私の名前は青嵐寺零華。聖グリモワール女学院から転校してきました。これからこのクラスの一員として、どうかよろしくお願いいたします」


 流れるような所作で頭を下げる青嵐寺。

 僅かな静寂の後、まるで風船が破裂するみたいにクラスメイトの熱気が爆発した。


「うぉおおお! 聖グリモワール女学院とかマジもんのお嬢様じゃねーか!」

「聞いてた以上の美人! 燃え滾ってきたぁっ!」

「お姉さま! お姉さまって呼びたい!」

 

 何人かやべぇ奴がいるのは置いといて……。

 聖グリモワール女学院って……かなり有名なお嬢様学校だよな。

 どうりでどっかで見たことある制服だと。

 なんでそんな場所の生徒がうちの学校になんか来るんだ?


「はいみんな落ち着いて! 一時間目は私の授業だから、質問はその時にね。それよりもまずは席を決めないと。えーと、確か一か所空いてる場所が」

「先生」

「なぁに?」

「もしよければ席の希望を出してもいいですか?」

「え、でも」

「お願いします」

「うーん、その席の子がいいって言うなら私は構わないけど」

「ありがとうございます」

「それで、どこの席なの?」

「あそこです」

「っ!」


 青嵐寺が指差したのはオレの席……の隣だった。

 青嵐寺は注目する他の生徒の目線を無視してオレの隣に座ってた奴に声を掛ける。


「代わってもらえる?」

「も、ももももちろんです!」

「ありがとう」


 隣に座ってた奴はあっさりと席替えを認め、空いてた席へと移動する。

 なんだこの女……何を考えてやがる。わざわざオレの隣に来たってのか?

 そんなオレの疑問をよそに、青嵐寺はオレの方に向き直る。


「青嵐寺零華。よろしく」


 そう告げる青嵐寺の目に、オレはどうしようもなく嫌な予感を覚えるのだった。

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