第8話 魔法少女の認知度

 クソ妖精を連れて学校に行くことになった件について。


「最悪だ……」


 昨日までの馬鹿らしくも平穏な日常がすでに遠い過去みてぇだ。


「おいクソ妖精」

「あのねぇ、私はクソ妖精なんて名前じゃないの。ちゃんとフェンフっていう素晴らしい名前があるんだから、そっちで呼びなさいよ」

「誰が呼ぶか。テメェなんかクソ妖精で十分だ」

「失礼ねぇ本当に。まぁいいわ。そっちはそのうちなんとかするとして。それで、なんの用よ。あんたが黙ってろって言うからこうして鞄の中でジッとしてるんじゃない」

「いくつか確認しときたいことがあるだけだ。テメェの姿は他の奴には見えねぇんだな?」

「まぁそうね。私の任意だけど。昨日の怪人と同じく、姿を見えるようにもできるし、見えないようにもできる。契約者であるあんたは見えるけど。それが?」

「声はどうなんだ?」

「声も基本的に一緒よ。聞こえるようにも聞こえないようにもできる。妖精って便利でしょ?」

「それじゃあお前がジッとしてりゃ姿も声も他の誰かに見られることはねぇってことだな」

「そうなるわね。まぁもちろん例外はあるけど」

「例外?」

「えぇ。晴輝みたいな契約者。つまり魔法少女とか、魔法少女になれる資質を持った人は私の姿が見えるかもしれない」

「そんなのがうちの学校にいんのか?」

「さぁね。少なくとも私はあんたの適性しか見てなかったし。それでなくても大体他の魔法少女は自分が魔法少女だってこと隠してるしね」

「あ? なんで隠してんだ?」

「そこは人それぞれ色んな事情があるんじゃない? あんただって自分が魔法少女だってこと知られたくないでしょ? それと同じでしょ」

「俺と他の奴じゃ全然事情がちげーと思うが……まぁいい。なんでもいいが、絶対に見つかんなよ。オレが言いたいのはそんだけだ」

「はいはい。わかってるわよ。あんたの他にも有望な子は見つけておきたいしね。学校なんていい場所だし、楽しみにさせてもらうわ」

「ちっ……激しく不安だ」

「おーい晴輝ーー!!」

「っ! 隠れろ!」

「ちょっ、急に押さな——きゃぁっ!」


 クソ妖精を慌てて鞄の奥に押し込んでチャックを締める。

 その直後に亮平がオレの傍までやって来る。


「今日も速ぇな晴輝!」

「そういうお前は朝からうっせぇぞ。もうちょっと落ち着けねぇのかよ」

「朝からでも元気なのが俺の取り柄だからなー。元気があり余りすぎてやべぇんだ。朝起きてから十キロくらい走ったんだけどなぁ」

「朝から十キロって……元気過ぎんだろお前。その元気をちったぁ勉強に使えよ」

「それができりゃいいんだけどなー、あはははは!」

「あははは、じゃねぇよ! ったくお前は」

「あ、それよりも晴輝。お前さっき誰かと話してなかったか?」

「は? そんなわけねーだろ。走り過ぎて頭おかしくなったか?」

「てっきり電話でもしてんのかと思ったけど、そういうわけでも無さそうだしな。やっぱ気のせいか!」

「当たり前だろ。朝から変なこと言ってんじゃねーよ」


 危ねぇ、もう少しで気付かれるところだったな。

 外では極力のこのクソ妖精には話しかけねぇ方がいいな。

 こいつはバカだから誤魔化せたが、空花あたりは変に敏感な所もあるからな。気を付けねぇとバレかねねぇな。


「あ、そんな話したかったわけじゃねぇんだった。おい晴輝知ってるか? 新しい魔法少女の話」

「だからオレの前で魔法少女の話は……って、新しい魔法少女だと?」

「お、珍しく食いつきやがったな。そうなんだよ。昨日商店街の方で怪人が出たらしいんだけどな。そん時にその怪人を倒したのが新しい魔法少女だって話なんだよ。その場にいた奴の話だと、赤い髪のめちゃくちゃ可愛い魔法少女だったらしいんだけど……って、どうしたんだ晴輝? なんか顔色悪いぞ?」


 赤い髪の魔法少女とか……言い逃れのしようなくオレじゃねーかそれ。

 マジか、亮平に伝わるくらいに広まってのか。


「おーい、晴輝?」

「っ、い、いや。なんでもねぇよ。っていうか前から言ってんだろ。オレは魔法少女になんぞ興味はねぇって」

「それは知ってるけどよぉ。でもお前昨日買い物してたってことは商店街に行ってたんだろ? もしかして会ったりしてんじゃねぇかと思ってさ」

「はっ、会ってるわけねぇだろうが」


 認めたくもねぇが自分自身だしな。


「はぁ……だよなぁ。お前の魔法少女嫌いって筋金入りだし。勿体ねぇよなぁ」

「何が勿体ねぇだ。魔法少女なんざろくなもんじゃねぇだろうが」


 今までもずっとそう思ってたが、昨日の一件でさらにそう強く確信した。

 無理やり魔法少女統括協会なんてもんに所属させるわ、ノルマ達成できなかったら金払わされるわ。

 正義の味方名乗っておきながら腹ん中真っ黒じゃねーか。


「わかってねぇ! 全然わかってねぇよお前! 見て見ろよこれ!」

「あ?」

「魔法少女ランク第一位の『ユスティーヴァイス』に第二位の『トイフェルシュバルツ』! このツートップの美しさを!」

「うぜぇから押し付けてくんな……ってか、なんだよその魔法少女ランクって」

「? 知らねぇのか? 魔法少女統括協会が三ヶ月に一回発表してる魔法少女ランク。怪人を倒した数とか人気とか、そういうので選ばれるみたいだぜ。トップ百に入った魔法少女は『ナンバーズ』なんて呼ばれてるぜ」

「なんだよそれ」

「常識だぜ常識。お前本当に魔法少女になんの興味もねぇのな」

「当たり前だろうが。っていうかお前がオタクなだけだろ。そんなもん知ってる奴なんてほとんど——」

「いや、そうでもないぞ」

「「うぉっ!」」


 急に背後から聞こえた声に驚きのあまり跳び上がる。


「二人ともおはよう。そんなにビックリすることはないだろう。せっかく声をかけてやったというのに」

「テメェは気配消して近づいてくんじゃねーよ!」

「なんだクウだったのかよ。あービックリした」

「ハルとリョウが珍しい話をしているようだったからな。気になって声をかけたというわけなんだが。魔法少女について話してるなんてどういう風の吹き回しだ?」

「オレが話したくて話してるわけじゃねぇよ。ただこいつが話し始めただけだ」

「そうだクウも知ってるだろ? 昨日の商店街の話」

「あぁ、なんだその話か。新しい魔法少女が出たって話だろう? もちろん知ってるさ。ほら、こいつだろ」

「なっ……!?」


 空花が差し出したスマホの画面に映ってたのは紛れもなくオレの……というかオレが変身した魔法少女としての姿。しかも相当近くから撮られてるぞこれ。

 いつの間にこんな姿……あの時んなもん撮ってる余裕のあるやつなんていなかっただろ。


「おいその写真どこから」

「へぇ、ハルが魔法少女に興味を持つなんて珍しいな。まぁいい。この写真はネットニュースに転がってたやつだ。いくつか記事も出てるぞ」

「なんだと……」


 ネットニュースにまでなってるだと……っていうかこの写真、もしかしてこいつが。

 鞄の中にいるであろうクソ妖精を睨む。どう考えても写真を流したのはこいつだとしか思えない。

 変身して戦ってる間近くに人はいなかったんだからな。


「鞄がどうかしたのか?」

「っ……なんでもねぇよ」

「ふぅん……ならいいけど。魔法少女ランクに関する話をしてたな。それに関してはハルが知らないだけで、だいたいの人間が知ってると思うぞ。私も含めてな。まぁリョウが魔法少女オタクの領域に足を突っ込んでるのは否定できないがな」

「マジか……」

「はぁ……いくら嫌いとはいえ、ハルも少しは知っておいたほうがいいぞ。私達の平穏な日常と魔法少女の存在は切っても切れないんだから」

「ちっ……んなこと言われなくてもわかってんだよ」

「全然わかってるって顔じゃないだろそれは。ま、それもまたハルらしいか。よし、せっかくだ。今日はこのまま三人で学校まで行くことにしよう」

「おぉ、いいなそれ!」

「はぁ!? ふざけんな、お前ら二人で行けばいいだろ!」

「おい晴輝つれねーこと言うなよ。仲良し三人組で行こうぜ!」

「誰が仲良し三人組だ!」

「ふふっ、観念しろハル。こうなったリョウは誰にも止められないのはわかってるだろ」

「あぁくそ……わかったよ! 今回だけだからな!」


 調子に乗った亮平とそれを面白がって焚きつける空花。

 結局のこの日の朝もそんな二人に振り回される結果となった。


 

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