第6話 魔法少女統括協会
「はぁ……クソ、なんでこんなことになっちまったんだ」
机に向かって宿題を片付けながら、最早何度目になるかわからない愚痴を呟く。
「ずいぶんと狭い部屋ねぇ、それに物も少ないし。もっと趣味を持った方がいいんじゃないのあなた」
「うっせぇ黙ってろっつったろ。次邪魔したらつまみ出すぞ」
「はいはい。全くもう、我儘ねぇ」
どっちがだクソ妖精。
そう言いたくなる気持ちをグッと堪える。
何を言ったってこいつは無駄だ。だったら無視するに限る。
「……はぁ。こんなもんさえなけりゃ」
今の事態を生み出した原因。
今も右腕に嵌ったままになっている真紅の腕輪を見ながら、オレは夕方の出来事を思い出していた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
あれは、蛙の怪人をぶっ倒した後のことだった。
「ふふん、さっすがこの私が見込んだ人材ね!」
「あなた……何よこれ! (テメェ、なんなんだよこれは!)」
「何よ、って聞かれてもねぇ。今のあなたは魔法少女ラブリィレッド。私の力で生み出した最強の魔法少女よ!」
「さ、最強……? い、いやそういうこと聞いてるんじゃなくて!」
「だったら何よ」
「この喋り方!」
「あぁ、それね。決まってるでしょ。さっきも言ったと思うけど、魔法少女にあなたみたいな粗暴な喋り方は相応しくないの。だからわざわざ強制してあげたのよ。ありがたく思いなさい」
「ありがたくない! (ありがたくねぇよ!)」
「何を言ったって無駄よ。それよりもほら、ちゃんと対応しなさい」
「対応? ってうわぁっ!」
「ありがとうございます魔法少女様!」
「まほーしょーじょだー!」
「おねーちゃんすごくキレー!」
「あなたみたいな魔法少女は見たことが無い。もしかして新しい魔法少女ですか?」
「えっと、あの……」
邪魔だどけテメェらって言いたいのに、言えない。
オレの意思に反して口が頑なに開かない。
それどころか、したくもない笑顔を振りまかされるこの屈辱。
まるで自分の体が自分のもんじゃないみたいだ。
「おねーちゃん、お名前なんて言うの?」
「っ! 私は愛を司る魔法少女、ラブリィレッド! これからも応援よろしくね!」
「ラブリィレッド……うん! いっぱいいっぱい応援するね!」
「おお、ラブリィレッド。やはり聞いたことのない名前。新しい魔法少女か」
「うひひ……これはまた絵になる魔法少女でござるなぁ」
クソ、なんだこれ。名前聞かれた途端に体が勝手に……。
ってかおい、なんか一人ヤバイ奴いねぇか?!
「ふふん、流石私の魔法少女ね。最初からなかなかの人気じゃない」
「ちょ、ちょっと。見てないでどうにかしてよ (これテメェのせいだろ、見てねぇでなんとかしろや!)」
「全く情けないわね。でもそんなに心配する必要ないわ。そろそろ来るはずだから」
「来る?」
「はい退いた退いた退いたーー!!」
「失礼します」
「危ないからちょっと通らせてねー」
その直後だった。遠くの空から姦しい声と一緒に、三つの光……いや、三人の魔法少女がこっちに向かって高速で飛んできた。
「来たわね」
オレの目の前で止まった三人の魔法少女。
誰だこいつら……っていうか、オレになんの用だ。
茶髪の活発そうな女と、黒髪の怜悧な印象の女、そして緑髪のポワポワした女。
その中の黒髪の女がオレの前に出てくる。
「初めまして。私達は魔法少女統括協会の者です」
「魔法少女統括協会?」
「はい。今この国には多くの魔法少女が存在します。しかし、魔法少女は一人一人が怪人に立ち向かうことができるほど強力な力を持つ存在。そんな存在を野放しにできるはずがないでしょう」
いや、そりゃそうかもしれねぇが……それがオレとなんの関係が……って、おいまさか!
「魔法少女名『ラブリィレッド』。登録番号4649番。あなたを正式に魔法少女統括協会の魔法少女として任命します。今後の活動は——」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「? どうかしましたか?」
「私そんな魔法少女統括協会に所属する気なんてありません!」
「そうですか」
当たり前だ。誰がそんなクソみたいな組織に所属するか。
魔法少女に変身するのだって今回限りだ。もう金輪際、一生、絶対に魔法少女になんかなるわけねーだろ!
「であれば、今回の修繕費は自費で負担していただくことになりますね」
「えっ!?」
「当然でしょう。あなたの魔法で破壊された商店街。魔法少女統括協会に所属するのであればこちらが修繕しますが……そうでないならば話は別です。破壊された舗道にあなたの魔法によって焼けた店。そちらへの対処は全て自費で行っていただくことになります」
「んな……」
チラッと商店街の方に目をやる。
クソ蛙にみまった踵落とし、あれは避けられたせいで派手にぶっ壊れた道。最後に使った魔法の影響でいくつかの店が焼け焦げてる。
これを全部オレの自費で修繕しろだと!?
んなもん無理に決まってんだろうが! いくらかかると思ってんだ!
「さて、それでも良ければ我々はこれで——」
「ちょっと! ちょっと待ってください」
「あははー、毎度のことながらやり方がヤクザだよねこれ」
「逃げ道ないもんねぇ」
後ろで茶髪と緑髪がなんか言ってるけど、そんなこと気にしてる余裕なんてない。
でもこのオレが魔法少女統括協会になんて……クソ!
「わ……わかりました。所属させて……いただきます」
「ふ、いいでしょう。ではこちらのカードをどうぞ」
いつの間にか作りあげられていたカード。そこには今のオレの姿が……ってこんな証明写真みたいなの取った覚えねーぞ!
っていうかおい、これオレの電話番号とか住所まで書かれてんじゃねーか!
どういうことだよ!
「失礼。これが私の魔法でして。なかなか便利なものですよ。これがあなたの魔法少女としての証明書になります。無くした場合再発行も可能ですが、その際は費用がかかりますので注意してください」
「う……」
「細かい注意点につきましては、こちらに書かれてありますのでしっかりと目を通しておいてください。なお、この文書を他者に見せることは禁じられていますのでご注意ください」
「……わかりました」
「伝達事項は以上です。さて、それではこちらの仕事も片付けてしまいましょうか。リペア、修理をお願いします」
「は~い。それじゃあ一気にやっちゃいますよぉ。えいっ!」
緑髪の女……リペアとか呼ばれた魔法少女が杖を一振りした次の瞬間だった。
オレやクソ蛙が破壊した舗道も、オレの魔法に巻き込まれて焼かれた店もあっという間に修復されていく。
さすがにすげぇとしか言いようがないなこりゃ。
「それではラブリィレッド。あなたの今後の活躍に期待させていただきます」
「それじゃ、まったねー♪」
「ばいば~い」
仕事は終えたと言わんばかりに三人は来た時と同様、あっという間に飛び去っていく。
「ふふん、良かったじゃない」
「……ねぇ、ちょっとこっち来てくれる? (おいテメェ、ちょっと面かせや)」
なぜオレにドヤ顔を向けてくるクソ妖精を連れて、人混みから離れて人気のない場所まで連れていく。
「変身ってどうやって解くの?」
「どうもなにも、念じれば解けるわよ」
「そう」
言われた通りに念じてみれば、変身した時とは比べ物にならないほどあっさりと変身は解けた。
「あー、あー……」
よし、声も戻ってる。視界もだ。
「おいこら……よくもやってくれやがったなテメェ」
「何をそんなに怒ってるの? 男であるあなたが魔法少女になれたんだからもっと喜んでもいいんじゃないかしら」
「喜べるか! さっきは流されちまったがなぁ、オレはもう二度と魔法少女になんか変身しねぇぞ!」
「ふーん」
「こんな腕輪なんかなぁ……っ!?」
右腕に嵌めた腕輪を無理やりとろうとしたが、どんなに力を込めてもビクともしない。
「おいどういうことだテメェ!」
「ぷくく……あはははははっ! 取れるわけないでしょ。私の作った特別製なんだから。あなたがそういう態度に出ることもわかってたしね。ようやく見つけたもう一人。そう簡単に逃がすわけないでしょ」
「お前……この野郎!」
「無理よ」
高笑いするクソ妖精を殴り飛ばそうとしても、まるで何かに阻まれるように腕が勝手にクソ妖精を避ける。
「その腕輪をつけている限り私には手出しできないわよ。残念だったわねぇ」
「このぉ……」
「あなたにはしっかり魔法少女として活躍してもらうわ。私が大妖精へと至るためにね。それじゃああらためて、私の名前はフェンフ。これからよろしくお願いするわね——紅咲晴輝」
こうして忌々しいクソ妖精フェンフの謀略によって、オレは魔法少女統括協会なんていう組織に所属することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます