第5話 一撃必殺、ラブリィフィスト!
燃え盛るような真紅の髪をポニーテイルに纏め、直接触らなくてもわかるほどにサラサラと風に吹かれて揺れている。
そして髪と同じ紅い瞳はくりっとしていて、まるで宝石のように輝いている。
見れば誰もが振り返らずにはいられないほどの美貌と可愛らしさ。そして、そんな体を覆うのは魔法少女を象徴するような赤いフリフリとした服。
以上が、魔法少女への変身を終えた後に商店街の窓を見てオレが抱いた印象だ。
さっきまでとは違って明らかに視点も下がってる。
「こ、これが……私? (こ、これが……オレ?)」
声もさっきまでとは違って明らかに高くなってる。
自分の声のはずなのに自分の声じゃない違和感。
でも問題はそこじゃない!
「なにこの喋り方!? (なんだこの喋り方!)」
さっきから思う様に喋れない。
オレって言おうとしたら私になるし、なんか全体的に女っぽい喋り方にされてる!
これも変身した影響だってのか!?
「ちょ、ちょっとこれどういうこと! (おいテメェ、これどういうことだ!)」
「ふふん、変身は上手くいったみたいね」
「上手くいったじゃないわよ (全然上手くいってねぇよ!)」
「上手くいってるじゃない。魔法少女らしい可愛らしさと美しさ、そしてあんたの粗暴な口調も魔法少女らしいものになってる。完璧でしょ?」
「っ! やっぱりこれあなたの仕業なのね! (やっぱりこれてめぇの仕業か!)」
「魔法少女には魔法少女らしい言葉遣いがあるものよ。まぁ妖精にもよるけどね。私が求めるのは真の魔法少女。それなのにあんな言葉遣いじゃ相応しくないでしょ」
「それはあなたの都合でしょ! (それはてめぇの都合だろうが!)」
あぁクソ!
全然思う様に喋れねぇ。口が出る言葉が勝手に変換されやがる。
これも魔法少女に変身した影響だってか?
だから魔法少女なんてのは嫌いなんだ!
「今はそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ。ほら、すぐそこに怪人が来てるわよ」
「っ!」
「ゲゲゲッ、よそ見してんじゃねぇぞ魔法少女!」
オレがクソ妖精と問答してる間にクソ蛙の奴が突進してきやがった。
しかも生半可な速度じゃねぇ、ぶち当たったらこんな体なんてあっという間にバラバラになっちまう。
このクソ妖精と話をつけるのは後だ。今はとりあえずこいつをぶっ飛ばす!
まずはこいつの突進を避けて——って、
「うわぁっ!」
オレとして軽くジャンプしただけのつもりだった。
それなのに、オレの視界は一瞬で身長の何倍もの高さにまで至っていた。
が、別に今オレは飛んでるわけじゃない、跳んだだけだ。
つまり、地球の重力に引かれて体は地面に落ちて行く。
「っ、えぇい根性!」
こんな程度でビビってるわけにはいかねぇ。
さっさとこいつを片付ける!
「せりゃあっ!!」
クソ蛙の脳天めがけて踵落としを決めようとする。
だが、このクソ蛙はオレが想像してたよりもずっと俊敏な動きでオレの踵落としを避けた。
「えぇ!?」
蛙に避けられたことで地面に叩きつけられたオレの踵落としは、想像以上の威力でもって地面を破壊した。
なんだよこの威力!
「力加減には気を付けなさい。下手したら周りの建物全部壊すことになるわよ。もっとも、あなたは魔法少女になったばかりで、そんな加減はできないでしょうけど」
「ちょ、ふざけないでよ。どうしろっていうの! (くそふざけんなテメェ! なんとかしやがれ!)」
「こればっかりは慣れだもの。壊したくないなら、さっさとあの怪人を倒すことね」
「くぅ……」
こいつの言うことに従うのは癪だがしょうがねぇ。こうなったらさっさと片付けるしかねぇ!
「せりゃぁっ!」
一秒でも早く倒してこの忌々しい魔法少女の姿から解放される。
そう心に決めてオレはクソ蛙に連撃を仕掛ける。
だが、
「ゲゲゲッ、そんなんじゃ当たらねぇぞ魔法少女!」
「このっ……」
こいつ、デブい見た目のくせして相当速い。それに何より戦い慣れてやがる。
「魔法少女の力はその程度のものじゃないわ。もっと頭を使って戦いなさい!」
「そんなこと言われても」
頭を使えだと?
そんなこと言われなくてもわかってんだよ。
魔法少女の力……それはきっとこの身体能力だけじゃねぇはずだ。
魔法少女が魔法少女たる所以……そうか、魔法だ。でも魔法なんてどうやって使えってんだ!
「念じなさい、そうすればきっと答えてくれる」
「念じる?」
「魔法の力はあなた自身の中に眠るもの。だからあなたが心から望めば魔法の力はきっと答えてくれる」
魔法の力……そんなもん俺の中にあるなんて思いたくもねーが、だがそれでも今はその力が必要なんだ。
だから、その力をオレに寄こせ!
「っ!」
強く願ったその次の瞬間だった、どこからともなく杖が現れる。
その杖を握った瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。
体の奥底から力が湧き上がって来る。変身した時と同じように、いや、それ以上に。
まるで長年使っていたかのように手に馴染む杖を手に、オレは思わず笑った。
「これならいける。あの怪人を倒せる!」
魔法の使い方もこの杖を握った瞬間に頭に流れ込んできた。
「はぁっ!」
「ゲゲ、馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込んできやがって。無駄に決まってんだろうが!」
「その動きはもう読んでるよ! (その動きはもう読んでるに決まってんだろうが!)」
超突進からの急ブレーキ、そして杖を構える。
「くらえ——『ラブリィファイア』!」
杖の先から放たれる炎がクソ蛙に迫る。
「ゲッ!? だが、当たらねぇよ!」
俊敏な動きでオレの放った炎を避けるクソ蛙。
チッ、今のに当たってくれりゃそれで終わりだったってのによ。
だが、テメェが避けることも織り込み済みなんだよ!
「そこっ! 愛の力で縛って——『ラブリィチェイン』!」
「ゲゲッ!?」
最初の炎の魔法はあくまで囮だ。
避けられる前提。いや、避ける先を誘導することが最初の魔法の目的だ。
逃げる先さえわかれば、次の魔法の狙いを定めるのは簡単だ。
そして、オレの狙い通り魔法の鎖はクソ蛙の四肢に絡みついてその動きを完全に封じた。
「ゲゲ、う、動けねぇ……」
「そりゃそうよ。これは私の愛の力だもの。そう簡単に破れるとは思わないで!」
って何勝手に喋ってんだこの口は!
何が愛の力だ、気持ち悪いこと言わせんなよ!
「ゲグゥ……」
「今よ、決めなさいラブリィレッド!」
「うん! これが私の究極の愛! くらえ——」
全速力で肉薄し、拳を構える。
こいつで終わらせる!
「——『ラブリィフィスト』!!」
「ゲェッ!?」
オレの全力の拳がクソ蛙の腹に突き刺さる。
「これで……終わりだぁあああああっっ!!」
「ゲァアアアアア!!」
オレの力に耐え切れなかったクソ蛙は、断末魔の叫びと共に爆散した。
その後には何も残らない。
これが倒された怪人の末路だ。
「思い知ったか、愛の力! 愛がこの世にある限り、世界に悪は栄えない!」
ビシッとポーズを決めて高らかに叫ぶオレ。
が、しかしそこにオレの意思は全く反映されていない。
まるでそうすることが当然であるかのように、オレは無意識のうちにポーズをとっていた。
「ぅぅぅ……だから、なんでこうなるのぉおおおおおっっ!! (なんでこうなんだよぉおおおおおおっっ!!)」
オレの魔法少女としての初めての戦いは、こうして終わりを迎えたのだった。
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