第4話 叫べ、ラブリィチェンジ!!

「妖精……フェンフ?」


 怪人に襲われてる最中、突然現れやがった背中に羽の生えた黒猫。

 こいつ今なんて言った?

 妖精? 妖精だと。それってあの妖精か?


「この世界を救うために異次元からやってきた存在。それが私達妖精。そして未来の大妖精である私が、あなたを助けてあげようっていうの。感謝しなさい」

「あぁ?」


 こいつがあの妖精だと?

 忌々しい魔法少女共が生まれる原因になった……そんな奴がなんでオレの前に現れやがる。

 いや、そんなことはどうでもいい。オレは魔法少女にも、その妖精にも助けられるなんて真っ平ごめんだ。


「うっせぇ、そこを退きやがれ」

「ふーん。私の助けがいらないって言うの?」

「あぁいらねぇな。お前らの力を借りるくらいなら死んだほうがマシだ」

「死んだ方がマシ、それ本気で言ってるのかしら」

「あぁ?」

「確かにあなたはこのまま死んでも満足かもしれないわね。でも、その後に他の人はどうなるかしら」

「っ!」

「もし私の助けを借りないというなら、あなたは確実に死ぬわ。そしてあの怪人は他の人を襲うでしょうね」


 このクソ妖精の言うことは間違ってない。さっきの一瞬でオレもどうしようもなく理解した。オレじゃあの怪人には勝てない。そしてオレを殺した後にあの怪人は商店街にいる他の客を襲うだろう。

 それでもいいのかと、こいつは言ってるんだ。

 ふざけんな。いいわけねぇだろ。

 

「どうせそのうち魔法少女が——っ!」


 今……オレはなんて言おうとした?

 魔法少女が来る?

 オレは……あいつらに頼ろうとしてんのか?

 魔法少女が助けに来るだろうって、そんなクソみたいな考えを!

 

「そうよね。あなたは他の魔法少女に頼れない。なぜなら、あなたは魔法少女が嫌いだから」

「っ……」

「でもだからこそ私はあなたを助けられる。私だけが、あなたに可能性を与えることができるのよ」

「可能性……だと?」

「そう。魔法少女嫌いのあなたは他の魔法少女に頼りたくない。でもだからといってこの場を見過ごすこともできない。でもだからこそ私は他の選択肢をあなたに与えることができる」

「選択肢だと?」

「あなた自身が魔法少女になればいいのよ!!」

「……は?」

「あなた自身が魔法少女になればいいのよ!!」

「いや聞こえてなかったわけじゃねぇよ! その内容を理解したくねぇだけだ!」

「なんで?」

「なんで? じゃねぇよ! オレに魔法少女になれだと? ふざけんのも大概にしろよ!」

「ふざけてなんかないわよ。私は真剣だもの」

「余計にたちがわりぃんだよ! オレは男だぞ!」

「男が魔法少女になれないなんて誰が決めたのよ。魔法少女になることに必要なのは資質を持っていることだけ。その点であなたは十二分に資質を備えてるわ」

「んだと……」


 オレに魔法少女の素質?

 意味がわからねぇ……いや、理解したくねぇんだが。


「とにかく、オレはどんな理由があっても魔法少女になんて——」

「そう。誰かが怪人のせいで苦しんで、あなたに助けることができる可能性があるのに、あなたはその可能性をとらないのね」

「っ!」


 その言葉は……。


『誰かが怪人のせいで苦しんで、私になんとかできる可能性があるのなら私は——』


 クソが……なんであいつのことを思い出す。

 なんでオレが……。


「ゲゲゲッ、さっきから何を喋ってやがる。死にかけていよいよ気でも狂ったか?」

「……黙れ」

「ゲゲ?」

「どいつもこいつも……オレを苛立たせやがる。ただでさえイラついてんのに、あいつのことまで思い出して気分最悪だ」

「ゲゲ……何言ってやがる」

「うっせぇ。テメェただで済むと思うなよ。おいクソ妖精……今回だけだ。今回だけお前の口車に乗ってやる」

「へぇ……いいじゃない。どういう心境の変化か知らないけど。それじゃあこれを受け取りなさい!」


 妖精から投げつけられた腕輪をとっさに受け止める。

 飾り気のない、真紅の腕輪。


「それを腕につけなさい」

「ちっ」


 これを付けたら魔法少女になっちまう。

 オレが心底嫌悪する魔法使いに。だが……それでもオレは一度決めた。

 どんなに嫌いだろうが、一度決めたことを覆すのはオレの信条にもとる。


「やってやるよ——おらぁ!」


 意を決して真紅の腕輪を右腕に着ける。

 だが、


「…………」

「……ゲゲ? 何してんだお前」

「おいどういうことだクソ妖精! 変身しねぇじゃねぇか!」

「そんなの当たり前じゃない。魔法少女には変身するための合言葉があるものよ。常識でしょ?」

「そんな常識知るか!」

「それじゃあ教えてあげるわ。変身の言葉をね!」

「いいからさっさとしやがれ!」

「ゲゲ、てめぇさっきから何を一人でごちゃごちゃ言ってんだ?」


 このクソ蛙、もしかしてこいつの姿が見えてないのか?

 いや……今はそんなことどうでもいい。


「それで、その合言葉ってなんなんだよ!」

「ふふん、そう焦るものじゃないわ。それじゃあ教えてあげる。高らかに叫びなさい! ——ラブリィチェンジと!」

「おう! ラブ——ってはぁ!? 今なんつったてめぇ!」

「高らかに叫びなさい! ——ラブリィチェンジと!」

「だから聞こえてなかったわけじゃねぇよ! その内容を理解したくねぇだけだ!」

「わがままねぇ、でも変身の言葉はこの一つだけ。できなければ死ぬだけよ。さぁ、腹を括りなさい、やるのよ!」

「くそがぁ……後で覚えとけよテメェ!」


 選択肢なんてあるわけがない。だから……やるしかねぇんだ。

 今だけ……今回だけだ。


「っ……ラ……ラブリィチェンジ!!」


 その瞬間だった。

 オレの右腕に嵌めた真紅の腕輪が眩い光を放ち、オレの体を包み込む。

 なんだこれ……腕輪から体に力が流れ込んできて……。


「——っ!!」


 そして一際強い輝きを放ち、その光が収まる頃には魔法少女への変身はすっかり完了していた。


「ふぅ……」

「ゲゲゲ……なんだテメェ、どこから現れやがった! あの男はどこに行ったんだ!」

「ふ、オ——」


 オレはお前を——って、なんだ……体が勝手に——っ!!


「愛と勇気と希望の力で悪を討つ! 私は愛を司る魔法少女——ラブリィレッド!! さぁ、覚悟しなさい。あなたに愛の力を教えてあげる! ……って、なにこれぇええええええっっ!!」


 予想していたよりもずっと高くなったオレの悲鳴が、商店街に響き渡った。

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