第2話 魔法ヶ丘高校
魔法ヶ丘高校。
魔法ヶ丘市にある私立の高校だ。特別進学校ってわけじゃない。でも偏差値の高さはそれなりだ。
なんで亮平みたいなバカが入れたのかはわからないけどな。
オレがこの高校を選んだ理由はいくつかあるが……まぁ今はどうでもいいだろう。
亮平のせいで予定よりも早く教室にたどり着いたオレは、面倒事をさっさと終わらせるために机の上に教科書を広げた。
「おら、さっさと座れ」
「ん? 何してんだよ晴輝。いきなり教科書広げて。まさか予習でもすんのか?」
「てめぇが宿題手伝えって言ったんだろうが!」
「あっ……悪ぃ、そうだったな。おし! そんじゃやるか!」
こいつ、本気で忘れてやがったな。
ってか通学路歩いてる間に忘れるってどういうことだよ。
鳥頭かこいつ。
ちっ、まぁいい。いちいち苛立つけど、こいつの場合気にしてたらキリがねぇ。
「いいからさっさと教科書開けよ。さっさと終わらせんぞ」
「おう! そんで……やるのってどこだったっけ?」
「てめぇ……マジで一回絞められてーか」
「じょ、冗談だよ冗談。本気にすんなって。ほら、ここだろ?」
「それ前の場所だろうが! お前一回ノート見せろ!」
「あっ、おい!」
亮平のノートをぶんどって中を確認する。
そのノートを見た俺は、思わず愕然とした。
「お前……授業中何してやがんだ」
「えーと……睡眠?」
「よしわかった殴られてぇんだな」
「わー! 違う、違うぞ! だから落ち着けー!!」
「なんだ、朝から騒がしいな」
「あ、クウ! 良い所に来た! 助けてくれ!」
「ふむ……状況はよくわからんが。よし、やれ晴輝!」
「裏切りやがったなクウ!! っていてぇえええ!! うぉおお……」
「あっはっは! 朝から元気が良いなお前達は」
頭を押さえる亮平を見て腹を抱えて大笑いしてる女、冬影空花。
青みがかった黒髪をツインテールに纏めてる。そしてその意思の強そうな瞳は今は楽し気に細められてる。身長は小さい癖に態度はでかい。それが空花だ。
こいつも亮平と同じく一年の頃からの付き合いだ。
飄々としてるっつーか、何考えてるかはわからん。興味もないけどな。
わかってるのは面白いこと好きってくらいだ。
だから今みたいなことがあると、とりあえず自分が面白いと思う方向に話を動かそうとする。
「それで、何してたんだ?」
「こいつが英語教えてくれって言うから教えてたんだよ」
「なるほどな。二年になっても相変わらずだなお前達は。晴輝も変な所でお人好しと言うか……まぁそれはいい。それよりも聞いたぞハル」
「あ? なんだよ」
空花がニヤニヤとしてる。
こいつがこういう顔する時は大抵ろくでもない話だ。
「お前、昨日も他校の生徒と喧嘩したんだろ? 先生が大層お冠だったぞ。これで何回目だ?」
「うっせぇ、いちいち数えてるわけねぇだろうが」
「なんだぁ晴輝。また喧嘩したのかよお前」
「ちっ、もう復活しやがった」
結構強めに殴ったてーのに。
なんて頑丈な野郎だ。
「なははは! 頑丈なのが俺の取り柄だからな!」
「それでどうなんだ? 事実なのか?」
「……まぁ、否定はしねぇよ。喧嘩売られたから買っただけだ」
「それで病院送りか? そんなんだから他の生徒に怖がられるんだ」
「だよな。ちょっと怒りっぽくて性格悪くて口も悪い以外は案外普通なのになー」
「それ全然普通って言ってないぞリョウ。まぁだが確かに一理はある。多少目をつむればハルは面白い奴だからな」
「それ褒めてるつもりかおい」
「無論褒めていない! 全力でバカにしている!」
「胸張ってんなこと言ってんじゃねぇよ! てめぇも殴るぞ!」
「全力で断る! 私は痛いのが嫌いだ!」
「断るじゃねぇ!」
ダメだ。こいつらと付き合ってたらいくら体力があっても持たねぇ。
「よくもまぁ朝からそんなに叫べるなハルは」
「誰のせいだと思ってんだ」
「ふっ、私だ」
「わかってんならやんじゃねぇよ!」
「本当に面白いなぁお前は」
「テメェらは——」
「あ、あのぉ……」
「あ?」
「ひぅっ!?」
あ、やべぇ。つい流れで睨んじまった。
「これは、我らがクラスの委員長。私達に何か用か?」
声を掛けてきたのはオレらのクラスの委員長、黄嶋若葉。
オドオドした小動物みたいな女だ。気弱なせいで委員長の仕事を押し付けられた奴でもある。そのせいで空花よりも身長がでかいはずなのに、空花よりも小さく見える。
オレはこいつのことがあんまり好きじゃない。言いたいことをはっきり言わず、流されるがままで。見ていてたまにイラつくからな。
「あ、あのね。その、えっと……」
「ちっ、いいから早く言えよ」
「ぁぅ……」
「こらハル、委員長を怖がらせるな」
「ってーな。何すんだよ」
「ハルが委員長を怖がらせるからだ。悪いな委員長。ハルも悪気はないんだ。こいつも根本的に馬鹿だからな」
「誰が馬鹿だ」
「えっと、その……今日の一限目と三限目が入れ替えになって、移動教室だから……それを伝えに」
「なるほど。ありがとう委員長。助かった」
「それくらいビビらずさっさと言えっての」
「お前の悪人面を前にしたら普通の乙女は怖がって当たり前だ。自分顔を鏡で見てからそういうことは言え」
「うぐ……悪かった」
「う、ううん。気にしないで……私が気弱なせいだから……その、それじゃあ……」
結局最後までオレとは目を合わせようともしねぇ。まぁ黄嶋だけに限った話じゃないけどな。
この学校でオレとまともに話そうとする奴なんて数えるくらいしかいねぇし。
「って、さっきからずっと黙ってっけど、亮平、お前何して——っておい!」
「あ、やべ! 気付かれた!」
「気づかれたじゃねぇ! 何勝手に人のノート写してんだ!」
「うぉおおおお、後少しぃいいいい」
「いいからノート離しやがれぇええええ!!」
「あはははっ! ヘッドロックされても写し続けるとは、さすがだなリョウ」
結局、それからオレのノートにしがみついて写し続ける亮平を引き離そうとしている間に朝の休み時間は終わって、ホームルームの時間を迎えることになった。
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