第1話 魔法少女嫌いの少年
突然だが、オレこと紅咲晴輝は魔法少女が大っ嫌いだ。それはもう嫌いだ。
どれくらい嫌いかと言えば、単行本で買ってる漫画の先の展開を週間雑誌で読んでる奴にバラされること以上に嫌いだ。
そしてなぜオレがこんなことを言い出したのかと気になっている頃だろう。
理由は単純だ。
今まさにオレの目の前で、魔法少女と怪人の戦いが繰り広げられているからだ。
「せあぁあああああっっ!」
「ゲゲゲッ、しつこいぞ魔法少女!」
「そう思うならさっさと倒されちゃいなさいよ!」
「ゲゲッ、嫌だね!」
なんか緑の蛙っぽい怪人となんか白いフリフリの服着た魔法少女が戦ってる。
まぁ怪人の方はいい。なんか怪人って感じするから。でも、問題は魔法少女の方だ。
なんで戦ってんのにあんなフリフリ着てんだよ。もっと色々あるだろ。それこそ全身ぴっちりスーツとかの方が……いや、まぁあれも嫌だな。うん。
とにかく、あの全力で私可愛いですって主張してる感じが気にくわない。
戦うなら戦うなりの恰好があるってもんだ。
それに武器もあの細っこい棒だ。あんなの普通折れるだろ。まぁ中には杖以外の武器つかってる奴もいるみたいだけどな。
「あぁもう、また逃げられた!」
なんてことを考えてる間に、どうやら戦いは終わったらしい。というか、あの怪人に逃げられたみたいだ。
まぁ、ずいぶんすばしっこい奴だったし、逃げられても無理はないんだろうけどな。
「あ、君……えっと、大丈夫だった?」
「……あぁ、問題ねぇよ。そんじゃな」
さっさとここから立ち去るに限る。
変に巻き込まれたらたまったもんじゃないからな。
「ねぇちょっと、君!」
「……なんだよ」
呼び止めんなよいちいち。
オレは魔法少女に関わりたくないんだ。
「うわ、目つき悪……まぁいいや、大丈夫ならそれで。えっとね、最近この街で怪人の発見報告が多いから気を付けてねって、それだけ」
「あぁ、わかったよ。そんじゃな」
ご丁寧に忠告してくれてありがたいこった。
そんなこと言われなくてもわかってるよって感じだけどな。
最近この魔法ヶ丘市はやたらと怪人の出現報告が増えてる。そのせいで色んな地区から魔法少女が出張してきてて……今じゃ市内のいたるところに魔法少女がいる。
こうして戦ってる姿をもう何度見たかわからない。
「ったく、朝からこんなことに巻き込まれるなんて最悪の気分だ」
愚痴ってもしょうがないことはわかってるけど、でも言わずにはいられない。
オレは魔法少女とは関わらずに生きていきたいんだ。
「はぁ……さっさと行くか」
「おーい、はーるき!!」
「うおっ!」
気を取り直して歩き出したオレの背を急に叩かれ思わず変な声が出た。
この能天気でアホっぽいは……。
「おい亮平。てめぇ……」
「おう、おはようはる——っていてぇ!? なんで急に殴んだよ! ただでさえバカな頭がさらにバカになったらどうすんだよ!」
「うるせぇ、お前がオレの背中を殴るからだろうが」
「俺は殴ったわけじゃねーだろ! ただお前を見つけたから声かけただけで」
「だったら普通に声かけろ。ったく朝っぱらからイラついてたのに、さらにイラつかせやがって」
「なんだよお前。機嫌悪ぃな。まぁいいけどよ。お前が仏頂面はいつものことだしな!」
最早オレが殴ったことも忘れてんじゃねーのかこいつ。それとも本気で気にしてないだけか。まぁどっちかってーと気にしてない方か。こいつはそういう奴だ。
このアホ面晒してる茶髪の男の名前は秋永亮平。
不本意なことにオレのクラスメイトでもある。一年の時だけでもこいつにふり回されて面倒だったのに、まさか二年に上がっても同じクラスになるとは思わなかった。
「あ、そーだ。晴輝に頼みがあったんだよ」
「ちっ、なんだよ」
「今日の英語たぶん俺が当てられんだろ? でも宿題やってきてなくてよ。頼む! このとーりだから写させてくれ!」
パンッ、と手を叩いて亮平は頭を下げる。
はぁ、もう何回も見た光景だ。
「アホか。なんでオレがお前に見せてやんなきゃいけねーんだよ。まだ時間あんだろうが。適当にやればいいだろ」
「自分一人でできるほど俺の頭は良くない!」
「自慢気に言うなよ……ったく、しょうがねーな」
「お、それじゃあ!」
「見せはしねぇぞ。教室に着いたら手伝ってやるから自分でやれ」
「うげっ……」
「嫌そうな顔してんじゃねーよ。自分のせいだろうが。手伝ってやるだけありがたいと思え」
「うーん……まぁそうか。そうだな! 俺一人じゃできねーけど、お前が手伝ってくれるなら百人力だ!」
「……はぁホントにテメェは。言っとくけど次はねーからな。次は自分でやってこい」
「おう、わかってるって!」
「お前のわかってるは信用ならねーんだよ。そう言って今まで何回頼ってきやがった」
「そんなことあったか?」
「もう一回殴られたいみてーだな」
「じょ、冗談だって冗談。わかってるからその拳は下ろしてくれ」
「次はもっとキツイのお見舞いするからな」
「お、おう……」
ったく、やればできんのにやらねーんだこいつは。
それで一年の頃から何回も泣きついてきやがって。
「でもよ、お前も真面目だよなー」
「あ?」
「いや別に悪い意味で言ってんじゃねーぞ。お前、目つき悪いし態度も悪いし口も悪いし、三悪揃ってんのに学校には真面目に行ってるし、真面目に授業は受けてるし、真面目に宿題もやってるだろ? 人って見た目によらねーなーと思ってよ」
「うるせぇ、余計なお世話だ」
「もうちょっと柔らかくなりゃ俺ほどの親友とは言わずとも、友達くらいはできんだろうに」
「誰が親友だ」
「あっはっは、そう怒んなって。あ、そうだ聞いたか? 昨日もこの辺に怪人が出たらしいぜ」
「…………」
「まぁすぐに魔法少女が来て倒したらしいけどよ。昨日のは誰だっただろうな。最近増えたよなー、魔法少女。俺も何回か会ったし。全員可愛いし、お近づきになりてーよなー」
「……おい」
「ん? って、いてぇ!?」
「オレの前で魔法少女の話すんなって言っただろうが」
「いってぇ……ホントに魔法少女嫌いだよなお前。今どき珍しいっていうか」
「黙ってろ。宿題手伝わねーぞ」
「それはダメだ! 困る!」
「ちっ、ほら、さっさと行くぞ」
「おう! 急ごうぜ!」
「おい、押すな! はぁ、ったく……」
そして、オレは亮平に背を押されながら魔法ヶ丘高校へと向かうのだった。
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そんな魔法ヶ丘高校へと向かう晴輝の姿を、建物の屋上から見つめる存在が居た。
それは全長にして30cmほどの、一見すればモフモフとした猫のようなぬいぐるみ。
しかしその存在は決してぬぐるみではなく、意思と命を持つれっきとした生命体だった。
その名を——妖精。
妖精はただジッと晴輝のことを見つめていた。
「ふんふん、適性は十二分以上にあるわね。性格はちょっと難あり……まぁそれもどうとでもなるか。よし、決めたわ! あいつを魔法少女にする!」
こうして、晴輝の知らない所で事態は少しずつ動き始めていたのだった。
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