12 力こそパワー、パワーこそスピード

「クラーラ軍曹!」

「何をしている、2人は!?」

「治療して櫓に向かわせました、加勢し時間を稼ぎます!」


それだけ言ってクラーラ軍曹と対峙するオーガの左側面に回り込む。

彼女はそれで察したようで、ボクの提案を受け入れる。


「了解、無理をする必要はない、牽制に努めよ!」


改めて見るオーガはボクの倍以上の身長がある。

下手をすると4m近くあるのではないだろうか、そしてバルトロが指摘したように、通常は赤黒い体色がやや青みがかり紫に近い。

その身長を維持するだけの強靭な筋肉と、右手にはまるでその辺の木をまるごと引っこ抜いてきたかのような棍棒を持っている。

なんの対策もなく打ち合えば、こちらの手首が折れるだろう。

身体強化のギアをさらに上げる。


「仕留めようと思うな、回避しつつ末端を狙え!」


そう指示を出すクラーラ軍曹はオーガの棍棒を捌きつつ攻撃し、素早く離脱するのを繰り返している。

それほど効いているわけではなさそうだが、オーガは苛立った様子を見せている。

彼女の離脱を狙ったオーガの攻撃に合わせ、その背面から斬りかかる。

だが筋肉の鎧は厚くて、まるでゴムの塊を切りつけたかのような感触が返ってくる。

そんな感想を抱きつつも即座に離脱する。

すると先ほどまで身体があった場所を棍棒が通過する。

その風圧を感じつつ冷や汗を流す。


筋肉キャラが鈍重なんていうのはフィクションだ。

生物の運動エネルギーは筋肉が生み出すのだから、当然この筋肉の塊みたいな魔物は素早い。

こちらの体格が相手の半分程度であるから、攻撃の当てづらさもあってまだ拮抗できているに過ぎないのだ。

倒せないにしても、多少は手傷を負わせないと状況は変えられそうにないな。


そう考えたボクは剣に魔力を込める。

すると剣に刻まれた魔術紋様が励起し発光を始める。

この剣に込められているのは斬撃強化と耐久性強化の2つ。

シンプルだが、それ故に強力な魔法だ。


するとボクの魔力の高まりに反応したのか、オーガの意識がこちらに向く。

その隙を逃すクラーラ軍曹ではなく、角に強打を叩き込んで離脱する。

オーガの角は強力な武器であるとともに弱点でもある。

生物の常として脳を揺らされれば、脳震盪で立っていられない。

とはいえ、あの太さの首に支えられた頭部をそこまで揺らすのは容易ではない。

それでも角を攻撃された怒りからか、オーガの意識は完全にクラーラ軍曹に向けられる。


好機はこの一撃だ。

もしこの斬撃が通るのであれば、初撃以降は警戒されてしまうだろう。

瞬間的に魔力を高め、剣を叩き込む。

しかし、首を狙ったそれは直前で回避され右肩から背中を裂くに留まる。


「GREEEEEOOOOOO!!!!!!!」


これまで低く唸るだけだったオーガが咆哮を上げる。

致命傷には至らないまでも、それなりに有効だったようだ。

そしてそれに合わせてクラーラ軍曹が冷静に追撃をかける。


その瞬間、オーガの魔力が急速に高まり、その身に紫電をまとう。


「待っ……!」


静止も間に合わず、オーガは眼前の彼女を標的にした。

眩い雷光に目を細め、わずかに間をおいて音が聞こえる。

先ほどまでオーガが立っていた場所は焼け焦げ、クラーラ軍曹を挟んで反対側に移動している。

クラーラ軍曹は追撃しようとした体勢のまま硬直し、その場に倒れる。

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