2、思い出したのは良いけど、もうどうしようもないってことあるよね
ボクの妹は見事にそのゲームにハマっていた。
派生元のゲームも一緒にやっていたが、そちらを放置するほどにハマっていた。
熱心に布教──自分の好きなものを他人にも好きになってもらおうと活動すること──され、あれよあれよと言う間にプレイすることになった。
やりだして見れば前評判通り、ゲームとしての完成度は非常に高かった。
乙女ゲーとしてはどうなんだと思うが、恋愛をせずとも何も問題ないという。
というか恋愛ゲームとしても破綻している。
真夏に冷たいビールだと思って飲んだら、よく冷えた麦茶だったみたいな。
この例えも合っている気がしないし、そもそもボクはビールが苦くて飲めなかったが。
閑話休題。
簡潔に言ってしまえば、完成度は高い。
リアルタイム戦略ゲームとして。
もちろん、乙女たちからすれば登場人物も魅力的だったりしたのだろうが、その辺は詳しくないので割愛する。
そんなゲームの世界にボクはいる。
敵役の悪役令嬢として。
まあ、ボクの辿ったルートにおいてはほとんど出てきていないのでそこまで詳しいわけではないのだ。
メインと呼ばれるストーリー群において、概ね主人公の恋路を邪魔する意地悪な公爵令嬢として登場するのがアトリシア・グーテンベルクである。
なんでも、いかにも貴族然とした人物で、平民であり、それまでの慣例や常識を無視した行動を起こす主人公に対し、注意という名の嫌がらせを行ってくるのだとか。
ちなみにこうした身分差や経済格差のある恋愛ストーリーにおいて主人公の突飛な行動は、攻略対象には新鮮に映りいわゆる『おもしれー女』と言われるらしい。
将来の国の行く末を担う貴族の男子がそれで、その国は大丈夫なのかと思うだろう。
だけど、15年間貴族教育を受けてきた今のボクならわかる。
それは、結婚なりなんなりしてからいくらでも躾けられると思っているだけだ。
躾って言うと大げさに聞こえるかもしれないけど、各貴族家で行われている貴族教育はそういって間違いでない場合が多い。
普通に折檻ありきでカリキュラムが組まれている。
学院ができてからはともかく、教育が特権階級のものであった時代なんか、教育を受けていない平民は動物と変わらないって風潮が強かったらしい。
今でこそ読み書き計算ができるから、まあ話せばある程度はわかるだろうって感じだけど、それも身内となれば話は別。
妾ならともかく正室に迎えようというなら、どこに出しても恥ずかしくない淑女に仕立て上げられるだろうね。
それは攻略対象本人ではない家人がってことではない。
恋愛するなら『おもしれー女』とするのも良いけど、結婚したらそれは別の話だよねっていう認識を貴族男子は持っていると思う。
もちろん、各貴族家によって色々な考えや事情があるだろうけど、一般的にはそうなると思う。
ここで冒頭の話に戻って、本来とは違う生活圏にいたことが関わってくる。
基本的に、恋愛を目的とするルートにおいては、誰を攻略しようとしても初期の段階から出てくるのがアトリシアだった。
それが、ボクと来たら攻略対象の貴人・麗人とは関わらず、どちらかと言えば奇人・変人とばかり関わってきたもんだ。
裏を返せば、ボクは徹底的に主人公を避けて来たのだ、無意識的にだが。
それがたまたま、ばったりと出会った時に気づいた。
流石にどのルートにおいても主人公は固定なので、ボクでも気づいた。
気づくと同時に困惑した。
だってこの娘、なんかキラキラした目でボクのこと見ているんだけど。
ボクのルートはありませんよ?
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