第2章
1、あ、これあれじゃんって唐突に思い出すやつ
やあ、ボクの名前はアトリシア・グーテンベルク。
親しい人間はアトリって呼ぶから、良ければ君もそう呼んでくれ。
こんな感じで、キラキラ目王子様科の男子っぽく振る舞って数ヶ月。
前世のボクのままだとちょっと無理があるけど、今ではごく自然にそんな言動になる。
女として生きていく。
その覚悟は自然と出来た。
毎日トイレに行って、お風呂に入って、何より月一でアレを経験していたらしないわけにはいかないし。
精神と肉体の関係って不思議なものだ。
ただ、まだちょっと男に抱かれる自分は想像できないんだけど、これなら逆に女として見られ難くてちょうど良いという面もある。
男子を相手にする時はキラキラ成分抑えめで、普通に男友達と接するようにする。
相手がどう思うかはともかく、こっちとしては気が楽だ。
逆に女の子に対しても特に強い興味、有り体に言えば恋愛感情を持ちにくくなっている。
家にいた美人なメイドさんたちもそうだったし、学院で出会った可愛い女子生徒たちもそうだ。
だから自然とフィクションめいた人物設定──まあこの世界においては男装の麗人なんていうジャンルはまだないが──で接するようになった。
まあ、今後どうなっていくのかは自分でもわからない。
あっさりと男もしくは女と付き合ったりするかもしれないしね。
そんな具合で試運転も兼ねて学院では、元の公爵令嬢アトリシアであれば関わりがなかった人たちと付き合うようにしていたんだ。
だからこそ気づくのが遅れたというか、まあそれだけじゃないんだけど。
「これ、乙女ゲーの世界じゃん」
まさしく言葉の通りなのである。
前世におけるゲームジャンルのひとつ。
架空の世界で登場人物と恋愛するゲーム。
という大項目の中の、主人公が女性で、恋愛対象が男性のゲームのことだ。
その中でも色々と細分化されているらしいけどそこまで詳しいわけではないので割愛する。
ボクも大多数の男性諸氏と同じくして、乙女ゲームには手を出していなかった。
だって、自分の中にそれで満たされる需要がないからね。
逆説的に満たされる要素があれば、やる可能性はあったというわけだし、そういう層も一定数いたんじゃないかと思う。
ともあれ、これはとある覇権ゲーのスピンオフ。
登場時の立ち位置としてはそんなものだった。
覇権ゲーは文字通りの意味で覇権を握ったゲームのこと。
老いも若きも男も女もみんなやっていた。
もちろんボクもやっていた。
それと同じ世界観の中で、ほぼ立ち入れないエリア、貴族社会を体験できるゲームだったのだ。
ちなみに、同じ世界観だが起こった出来事は反映されない仕様だった。
だからこその体験で、それを元のゲームで活かそうというのは中々に迂遠と言わざるを得ない。
なので、ボクとしてはやるつもりはなかったのだ。
いかにゲームとして面白いという評判があったとしても。
それほど、乙女ゲーというのは敷居が高いものとして捉えていた。
妹さえいなければ。
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