間章
我が娘について 1
私の名前はジェラルド。
グーテンベルク家の当主であり、同時に王国宰相の任を賜っている。
現在の王国はこの世の春とも言うべき平和と発展を謳歌している。
近隣諸国との関係は非常に良好であり、争いの気配も感じない。
とはいえ国同士のことであるから完全に気を緩めるわけにはいかないが。
国内においては天候も安定しており、毎年豊作の報せが各地より届けられる。
雇用が創出され、それに伴い治安も良くなった。
治安維持にかかる経費が減り、その分を他の仕事に回しと、良い循環が出来上がっている。
長き人の世において、これほど平易な宰相の任を送れている者は私だけではあるまいかと思う。
最近では優秀な官僚が現れ、教育方面に力を注いでいる。
今まで一部の人間のものであった教育を、国民すべての義務としたのだ。
安定した税収と治安維持などで浮いた経費を使い、各地に学校を建設した。
学校を建てられない土地にも教育官を派遣し、今では農村の子どもたちまで読み書き計算ができるようになった。
この施策が効果を表すのはまだ先のことになるだろうが、未来のために働けるというのは非常に気持ちがいいものだと知った。
かくいう私の長男であるクリストフが最初期の生徒であり、最近になって仕事を手伝ってもらっている。
やや頭でっかちなきらいはあるが、十分優秀と表してもよいだろう。
親の欲目でそう思えるだけかもしれないが。
とはいえ彼の同期生たちの評判も、概ね上々であることを思えばそうそう間違った評価ではあるまい。
学校といえば、末の娘もそろそろ学院に入学する。
初めての女の子ということもあり、息子たちに比べて甘やかしてしまった自覚はある。
そのせいか多少わがままな面も見えるが、グーテンベルク公爵家の令嬢として立派な淑女に育ってきている。
しかし妻のエレーヌの美貌を受け継いだのは良いが、私の目つきの悪さまで似なくとも良いものを。
そんな娘が熱を出して倒れた。
医者に診せても原因不明、熱冷ましも効果が見られないと言われたときはつい執務を放り出しそうになった。
領地からここ王都までやって来た家令から、そんな娘の状況とともに妻の伝言を受け取ったことによってそれもなかったが。
そんな娘が快癒し、学院入学に向けて今まで疎かにしていた、とは言わないまでも嗜み程度だった魔法や剣術に精を出している。
これは父親として、快気祝いと学院入学に向けて激励をせねばなるまい。
なのでこれは決してサボタージュではない。
我が領までは馬車でもわずか数日、喫緊の執務もない。
陛下と私は竹馬の友、父親としての責務を果たすためにわずかな暇を申し出たとて、笑顔でお認めくださるであろう。
なぜか苦笑したお姿が浮かんだがそれはともかく。
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