6、最終的にこれはこれでってなることあるよね
やってしまった。
あれから兄様を運ぼうと呼ばれたメイドまで俺の姿を見て卒倒したり、てんやわんやの大騒ぎがあった。
現在は自室で髪を整えられつつお説教タイムである。
額に青筋を浮かべながら淑女として髪はどうのとまくし立てているのはフローレンス女史。
俺付きの礼儀作法の家庭教師だ。
さらに言えば、家庭教師のまとめ役、筆頭、とかまあそういう感じの立場でもある。
なので最近の俺の行動──ダンスや詩歌の授業を嫌がり、兄様たちに魔法や剣術を教わっていること──についても色々と言われる。
「わかっておられますか、アトリシア様」
「わかっております」
「でしたらどうしてあのようなことを」
「今度からは学院生ですので」
「学院生であっても、剣術戦で勝つために婦女子の髪を切るようなレベルは要求されません」
俺の言い訳もピシャリと遮る女史。
流石に兄様たちとは違うか。
学院生になり、グーテンベルク公爵家として恥じない成績をとる。
そのための訓練だというには熱が入りすぎたね。
いや、今まで格闘技とかはやったことがなかったけど、俺の中の男の子の部分が反応しちゃったかな。
「聞いておりますか、アトリシア様」
「聞いております」
そんな益体もないことを考えていると、ノックの音が。
「お嬢様、エレーヌ様がお見えです」
俺付きのメイドがそう言うので、通すように伝える。
「お邪魔するわね」
入ってきたのは美しい女性。
豊かな金の髪と碧の眼が、どこかいたずらめいた口元が、20過ぎの子供がいるとは思えない雰囲気を作っている。
彼女はエレーヌ・グーテンベルク、俺たち兄妹の母親だ。
「あらあら、本当にばっさりといっちゃったのね」
「ごめんなさい、母様」
「どうしてあやまるのかしら」
「え」
「いいじゃない、その髪型も」
そうかな。
言われて、姿見に映る自分を見る。
母様譲りの金髪と父様譲りの紫瞳、グラマーとは言えないが女性的なシルエット。
それが現在は騎士服を着てこちらを見つめる。
長身とややつり上がった目尻もあり、少年騎士といった風情だ。
「たしかに」
思わず俺としての言葉が口をついて出た。
その言葉遣いについてもフローレンス女史から色々と言われたが、もう耳に入っていない。
自分の中で燻っていたセクシュアリティに一定の決着を見た気がする。
確かに俺は異世界で男子大学生をしていたが。
しかし、この世界においては公爵令嬢のアトリシアだ。
頭でも、心でもわかっていたはずなのに、どこかに残っていた違和感。
それがすとんとおさまる箱を見つけた気分だ。
ボクはアトリシア・グーテンベルク。
うん、悪くない。
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