5、魔法とくれば次は剣でしょ

前回、ダンフォード兄様が魔法の大学に通っているって言ったね。

この国の学校制度について。

まずなんとこの国、義務教育があります。

といってもやはり格差はあって、都市と田舎では内容も大分開きがある。

それでも、農村にも人を派遣して、最低限読み書き計算くらいは出来るようにしてます。

ここ、王都においては5歳から10歳の子供が身分の別なく通います。

その後、中級学校というちょっと専門性を増した学校に進む。

大体王都に住む平民はほぼ全員がここまで進学する。

これが15歳までで、それ以降は貴族と一部の裕福な商家の子弟と、特に成績の優秀な子だけが推薦と奨学金を受けて進学する。

それが学院。

16歳から18歳までの教養部と、19歳以降の専攻部がある。

うちで言えば一番上のクリストフ兄様は学院の政治専攻部を卒業して今は父様のお手伝い、御年23歳。

二番目のダンフォード兄様は去年魔法専攻部に進んで、現在は高名な宮廷魔術師という人の元で勉強中。

三番目のエリック兄様は教養部生で、来年からは騎士専攻部に進む予定。

エリック兄様とは私が教養部の間に一年は一緒に通える。

なので、現在はエリック兄様に学院の話を聞きつつ剣術を教わっている。

前回の魔法の練習の時とは違う、運動が出来るように整備された庭にいる。

格好も訓練をしやすい服装だ。

いわゆる騎士とかが着てるような服から、装飾を取り除いたような感じ。

黒を基調とした汚れの目立たないような色をしている。

ちなみにこの国では黒と赤が好んで使われる。

悪い帝国みたいではあるが、何やら建国伝説に関わるということで、公式の場ではどこかしらにこの二色を使うのが正式とされている。


「珍しいな、シアが剣術なんて」


アトリシアは公爵家の令嬢として、なんでもちゃんと頑張る娘でした。

でも貴族令嬢にとって剣術の技量というのはそこまで重要視されてないので、あくまでそこそこ。

わざわざこうして教えを請うたりはして来なかったので、兄様から疑問が。

あれ、このやり取り前もしたような気がする。


まあ、ちょっと高飛車入ったお嬢様が剣術に打ち込んだりはしないよね。


「そうですね、でも今度からは学院生ですので」

「なるほど、それは良い心がけだ」


エリック兄様は金の髪を短く整え、身体も大きい。

ダンフォード兄様と並ぶとあまり似ていない。

それでもやっぱり兄弟だ。

反応が同じだし。

ともあれそうして話している内にウォーミングアップはお終い。


「じゃ、とりあえず素振り」

「はい」


木剣を正面に構えて、踏み込みと同時に振り上げ、振り下ろす。

単純なようでいて、俺の中にあるアトリシアの経験則で剣を振ると、色々と気になるところがある。

エリック兄様は特に何も言ってこない。

むしろ自分の素振りに集中しているように見える。

しょうがないので、自分なりに修正していく。

なかなか難しいなこれ。


「重心が高い、もっと足腰に意識を向けろ」


しばらくそうしているとエリック兄様から助言が。

本人は素振りを続けたまま息も切らさずに言ってくる。

重心か……。

こうかな?


「足を広げるのも場合によっちゃありだけど、まずは膝をもっと使って」


ん?

こうか?


「そうそう。それで手だけで剣を振らないように」


お、踏み込みのエネルギーを使ったらシュッと振れたような。


「剣を振ることに気を取られすぎだ。また重心が高くなってきてる、身体も流れてる」


難しいいいい……。

そうして兄様の素振りを真似したり、色々と試行錯誤を続けることしばし。


「そこそこ様になってきたんじゃないか?」

「そうですか?」

「次は身体強化をして打ち込みにするか」


前回の魔法の練習で、目に魔力を集めると魔力が視えるようになった。

あの要領で魔力を集中的に肉体と接続することで、その部位を強化出来るのだ。

だけどあれは基本に近いことで、素早く、魔力のロスも少ないが、効果も低いのだ。

また、意識してない部分は強化されないので、こういう打ち込みで使うと危険だ。

ここでいう身体強化とは、きちんと魔法として発動させたやつだ。

基本は寸止めだけど、これなら当たっても問題ない。


「じゃ、始めるか。どこからでも打ち込んでこい」


そういって構える兄様。

こっちも構えて隙を伺うが、全くない。

打ち込んで崩すしかないか。


「ふっ!」


正面から切り込むも鋒でいなされ、身体が流れたところに打ち込まれる。

すぐに距離を離し構え直す。

今度は軽くフェイントを入れて……。


「うっ」


ゆるい剣を出した途端に鋭い剣が返ってくる。

くっそう……。


「はっ!!」

「っと」


今度は抑えてしていた身体能力を少し開放して打ち込む。

同じようにいなそうとして、思ったよりも重かったのか体の捌きもいれて躱す兄様。

今度は構え直さずに振り向きざまに剣を振る。

それに対して剣を立てて踏み込んでくる兄様。


「はいよっと」

「うっ……」


そのまま間合いを詰められ手元を切られ、返す剣で足を打たれる。

うん、これくらいの身体能力ならちょっとはいい勝負になって面白いかもしれない。


「はっ、たぁっ!」

「ふっ、よっ」


そうしてしばらく打ち込みを続ける。

未だに一本も取れないのは悔しい。


「兄様」

「どうした、もう終わりにするか?」

「いえ、最後に本気で身体強化してもいいですか?」

「お、いいぞ」


本気といっても、本当に本気を出すわけではない。

今までの身体強化からすると、二段ほど上というくらいだ。


「行きますっ!」


剣もこれまでで一番いい振りだった。

それでも躱される。

振り返りつつ剣を振ると見せかけて、後ろ──兄様から見たら右に飛ぶ。

着地と同時に打ち掛かる。

正面に構えてる兄様の横合いからの一閃。

すぐに剣を寝かせて、一歩下がることで対応される。

くっそ、これでもダメなのかよ!

そのまま足を使って右に左にと打ち込むも決まらない。

こうなれば、もう一段上げよう。

一旦元の間合いに戻り、向き合って構える。

真正面から最速の突き!

と、見せかけて。

今にも打ち込む、というタイミングで一段上げた身体能力で、兄様の横を抜ける。

そして後ろから一本────


「うあっ!」

「あ、すまん!」


というところで後ろにひっくり返る。

どうやら横を抜けられると思ってとっさに髪を掴んだようだ。

この髪さえなければ一本取れてた。

そう思ったら、無意識のことだった。


「え、あっ!!!!」


木剣に魔力を纏わせて、結んだ後ろ髪を切り落とす。

うん、頭も軽くなった。


「おま、おい、それ…………」


あれ、兄様の顔が蒼白に……あ、倒れた。


…………ま、まあこれも一本ということで。

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