転生ってこんな感じなのか
あまみや
転生(?)と旅の始まり
「いや、どこのラノベだよ。せめて朝に転生してるとか、事故ってやり直しできるとか、コンビニから帰ってる最中に召喚されるとかなのかよ」
時刻は夜中の2時過ぎ、だったはず。寝ていたがトイレに行きたくなってしまい、トイレに行った。そして部屋に戻ると、真夜中の世界ではなく、真っ昼間だった。これは俗に言う、「異世界転生」ってやつだ。見覚えのない世界に現実離れした景色、絵に描いたような街が俺の目の前に広がっていた。どことなく西洋の建築物を連想させる建物が多い。周りには日本人はいない。むしろ、エルフやケットシーなどの人外が多い。もちろん人間らしい見た目をした生き物もいる。服装は種族で決まっているのか、同じ見た目をしている。異世界転生は憧れてはいたが、実際にすると困惑するものである。
(とりあえず、状況把握をしないとな)
異世界でも案外冷静にいれる自分に少し驚いている。ラノベを読んでいるおかげだろうか。関係ないか?関係ないよな…。とにかく、状況把握をしないことには進まない。まずは、優しそうな人に声をかけてみるか。
「あの、すみません。少しいいですか?」
近くにいた優しそうな女の人に声をかける。外見からしてエルフのようだ。優しそうに見えて実は怖い人だった、なんてこともあり得る。バレないように警戒しておくに越したことはない。
「ん?お兄さん珍しい服着てるね。どこの種族なんだい?エルフではないし、ケットシーでもないね」
そうか、種族で服装が決まっているのだ。寝巻きのまま来たら疑われるのも無理はない。そもそも、この世界に合いそうな服なんて持ってないけどな。それより、なんて言うべきだろうか。下手に知らない種族の名前を出して存在しない種族だったらその先どうなるかわからない。だが、真実を伝えて信じてくれる保証もない。万事休す、背水の陣とはこのことだ。使い方合ってるか知らないけど。一か八か、真実を伝えるべきか。
「あの、信じられないかもしれませんが僕はこの世界の人ではないんです。原因はわかりませんが、トイレから自分の部屋に戻ったんですが、部屋ではなくここに着いてしまい困っているのです」
ありのままを伝える。嘘をずっと誤魔化せる自信はない。なら、事実を伝えるべきだろう。もしかしたら解決策が見つかるかもしれない。女の人は少し驚いた顔をした後に、険しい顔になった。
「そう、あなたもなのね。最近多いわね」
その返答に驚きを隠せない。思わず聞き返してしまった。
「俺以外にも同じような人がいるんですか!?」
「えぇ、正確にはいたなんだけどね」
つまり過去に来て、現世に戻るなりしたと言うことか。
「その人たちはどうなったんですか?」
「みんな元の世界に戻ったわ。私に着いてきて、族長ならなんとかしてくれると思うわ」
予想通り現世に戻ったのか。表情や態度を見るに嘘ではないようだ。だが警戒は怠らない。何も知らない世界にいるのだ。警戒しないわけがない。ひとまず着いていくことにした。
歩くこと数分。俺がいたところから然程離れていないところに族長と呼ばれている人物の家があった。威厳のある建物に住んでいるイメージがあったが、街にあった建物と差を感じない建物だった。なんというか、期待外れだなこれは。もっとこう異世界感のある建物を期待していた自分がいる。まぁ、中に長く髭を生やしたおじいちゃんがいるに違いない。そこで異世界ポイントを回収出来ればOK。ちなみに、異世界ポイントとは、異世界転生してるな〜っと感じた時に発生するポイントである。ちなみに、貯めてもあまり意味はない。あまりというか、全くない。
「着いたわよ。族長〜!いますか〜?」
ドアの前で族長を呼ぶエルフさん。てか、この人名前なんだよ。
しばらくして扉が開いた。中から出てきたのは長く髭を生やしたおじいちゃ
「はいはい、どちら様〜?って、リアじゃないか、どうしたんだい?」
出てきたのはおじいちゃんではなく、またまた若い女の人だった。
「めっちゃ若ぇ…」
ついつい口に出てしまった。だって、まじで若いんだもん。
「およ?私が若いと?おかしいな、390歳なんだけどな〜」
…は?390歳?何言ってんだ…?
「はっはっはっ!君もしかしてこの世界に迷い込んじゃった子かな?だったら驚くのも納得できるしさ」
むむむ、案外侮れないな。うがつに顔に出すものではないな。何を悟られるかわからない。
「まぁ、俺のいる世界は300歳超えてる人はいないもので」
「ふむ。と言うことはこの世界と平行関係にあるヘーデンの人だね」
平行関係?ヘーデン?なんのことだ?
「君たちのいる世界は通称ヘーデンと呼ばれ、今君のいるこの世界をヴィルダーと言うんだ。この二つの世界は平行関係にある。稀にこの世界にヘーデンの住人が迷い込んでくることもある。逆もまた、稀に起こる」
「つまり、パラレルワールドってことでいいのか?」
「要はそう言うことだね。未だに原因は分かってない。先祖の研究で返すことまではできるようになってるけど、ね」
「仮にこの世界の人が俺たちの世界に来た場合、迷い込んだやつは戻ってこれるのか?」
こちらは帰れる方法が存在しているし、周囲の人も迷い込んでくるのは知っている口ぶりだ。だが、少なくとも俺は向こうの世界でヴィルダーの話を聞いたことはない。それにそんなことがあるならメディアが黙っていないだろう。1、2回くらいニュースになってもいいはずだ。なのにまるで聞かないのは違和感がある。なら、答えは一つに必然的になってしまう。
「もちろん、戻ってこれない。戻すことができるのは私だけ」
「なら、あんたが戻せばいいじゃないか。戻せるなら、あんたは1回の往復くらいできるんじゃないか?」
「それはできないね。私ができるのは戻すだけ。世界を跨いで戻すこともできないし、行き来なんてもってのほかだよ」
「じゃあ、向こうに行っちまった奴はどうなってんだよ」
「さぁ?私にはわからないね。適応した者、耐えれず死んだ者、色々いるだろうね」
「族長って言う割には知らんぷりかよ」
思わず、思っていたことを口にしてしまった。途端に部屋の空気が変わった。変わったのが空気だけならよかったが、族長の雰囲気も変わった。
「…あまり私を怒らせないでくれ」
そう言った途端、族長の目の前にあったグラスが粉々に割れた。族長という肩書きは伊達じゃないのが身に染みてわかった。
「君も、今のグラスのようになりたくないのなら言動には気をつけた方がいい。君のようなヘーデンの軟弱者を殺すなど、私にとっては簡単なことだよ」
言い返す言葉などあるわけがなかった。俗に言う、論破というやつある。圧倒的な力を見せられては何もできなくなる。
「リア。彼を連れて行って。戻す準備を始める。2日後に連れてきて」
そういうと、族長は立ち上がり、奥の部屋に行ってしまった。
「…行こうか」
リアさんに促され席を立つ。家から出る時に奥の部屋から族長の泣いてる声が聞こえた。
転生ってこんな感じなのか あまみや @saba_ame
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