ヒラヒラとフリフリ

 夏は暑い。海に来ているのだから泳げばそれなりに暑さは回避できるだろう。しかし、俺にはそれができない。泳げないという古典的なオチではないが、あまり人前で海に入りたくない理由がある。

 身体の傷。それは本当に生々しい。見ればきっとこの楽しい空気も凍りつく。だからラッシュガードの首元や海パンの下から傷が見えるのを恐れた。故にこうして荷物番を買って出ているのだ。

「先生は海入らないの?」

 ジュースを片手に小倉が歩み寄って来た。ヒラヒラフリフリのついた桃色のビキニ。高身長で一見クールな印象だが、着ている本人の表情から初々しさが感じられ、それにヒラヒラフリフリが相乗効果を発揮して可愛くも見える。

「あぁ、海は眺める方が好きなんだよ。泳ぐのにも体力使うしな」

「先生らしいね。でもせっかくなんだから一緒に泳ごうよ」

「断る。俺の事は放っておいて泳いで来い。受験前なんだからクールダウンくらいには遊んどかないと後悔するぞ」

「じゃあ、これだけ教えてください。……この水着どうですか?」

 そんな下目遣いから繰り出された質問に詰まる。似合っている、というのは簡単だ。だが、彼女が欲しているのはその続きだ。どこが良くて似合っているのか、端的に纏められた言葉よりも長々と綴った言葉の方がこの場合は好まれる。

 だからその続きを脳内で模索しながら突破口を導いていた。

「んー、やっぱりヒラヒラフリフリが男の本能をくすぐるっていうのは嘘だったのかな。

 先生もそんなに悩まなくても大丈夫ですよ。私は先生からの言葉だったらなんでも嬉しいですし、そうやって言葉選んで私の喜ばせようとしてくれてるだけで十分です」

 そう言って友達たちのいる海に飛び込んだ。どうやら彼女がいつもより大人びた雰囲気の水着を着ていないのはヒラヒラフリフリが男の本能をくすぐるかららしい。確かに視線は集まるだろう。女性に性的興奮を感じる部分を上げれば胸やお尻がポピュラーだろう。更にその部分に風で、動きでなびく布が付属しているのだ。嫌でも見てしまう。

 そんな事を思いながら視線は彼女追う。きっとヒラヒラフリフリのせいだ。

 結局水に触れる事なく、昼時になった。昼食は『夏の海と言えば』の風流に則ってバーベキュー。具材は山のようにあるので小倉たちも同伴するらしい。

 予定の時間になってもみんな遊んでいる。遊んでいたら時間感覚がずれるのは当たり前だ。しかも水中で携帯はあまり使えない。それが海水ならなおさらだろう。

 暑いこの炎天下で水も生温いだろうが、それでも外で肌を焼くよりは気化熱で少しでも涼める水中の方が気持ちいいだろう。小まめに水分補給を促すようにはしているが、楽しむ方が優先されてあまり身体に優しいとは言えなかった。

 と言うかそもそもなんで休みの日まで養護教諭みたいな事をしないといけないんだ。

 そんな自分の行動に文句を覚えながら一人で昼食の準備を進めた。

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保健室の住民 九十九零 @rei_tukumo

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