水着と休み
夏休み中の休暇初日。暦が変わって八月になった。夏はまだまだ続く。暑くてたまらない季節だ。本当なら休暇なんて字の如く家でクーラーの効いた部屋でゴロゴロと身体を労わるのが休日の基本スタンスだが、今日は約束があるのでそうもいかない。朝ご飯を作って食べて洗い物をする。いつも通りの朝を終えて準備に取りかかる。
昨日急ぎで買った水着も昨日の内に無理言って届けてもらった。
面倒で気が進まないが、海に行く。別に遊泳を目的としての海水浴ではない。なんなら俺は彼らからすれば瘤でしかない。別にいないならそれでいいだろうし、彼女らが俺を条件に入れたから行くだけ。しかも生徒と鉢合わせする可能性が昨日の放課後芽生えた。行きたいと思うはずがない。
「翼くん。水着これでいい?」
そんなこの海水浴を楽しみにしている派であろう美咲先輩の声に不安を覚えながら答える。何故かといえば彼女はあまり羞恥を感じない。いや、感じるが、それは終わってからか、実行途中に感じる。だからかなり派手な水着をチョイスする事を懸念した。色彩の薄い水着や布面積の少ない水着。普通に持ってそうで本当に怖い。
「頼みますから羞恥を持って普通の水着を––––」
そんな少し見る前から呆れて口にした言葉は最後まで言い終える事なく、口を開けたまま少しの間翼は固まった。
「これでも駄目なら高校の時のスク水とかになっちゃうよ?」
普通だった。普通のビキニだった。黒いワンショルダービキニ。フリフリヒラヒラがなくて思ったより地味な水着。でもそれが彼女の身体と合わさる事で洗礼されたラインというラインが際立つ。色素の薄い髪も相乗効果を発揮するだろう。きっと彼女を見た他人は色々と辛いものがあるだろう。男はもちろんだが、彼女の容姿なら同性の戦意ないし自信を折り兼ねない。それくらい似合っていた。むしろスク水なんて着られたら背徳感を感じてしまうし、普通の水着よりもある意味派手になる。
「こ、これでいいです。似合ってます、からスク水なんてやめてください。いろんな意味で危ないです」
「何が危ないのか分からないけど、似合っているならそれでいいや。じゃあ、これにする」
そう言って彼女は気分良くスキップをしながら自室に戻って行った。それを見送りながら俺も自室に戻り着替える。七分丈の海パンと長袖のラッシュガード。身体もそんなに弛んでいない、むしろ痩せ細っているくらいだ。しかし、地肌を見せるのには抵抗がある。医療団体で遠い外国に行けばそこは紛争地だったなんて事はよくある話だろう。だから戦火に巻き込まれる事だって幾度かあった。
その際に大なり小なり身体には傷がある。見る他人によっては不快に思うかもしれない。幾ら付き添いだろうが、自分の事で折角の休みを棒に振るのは居た堪れない。
だから傷が最低限隠れるものを取り寄せた。それを羽織って時間までリビングで暇を潰す。
外を見ればまだ午前一〇時過ぎなのに太陽は
時間が来れば迎えが来る。誰が来るかも知らないが、大体の予想はつく。昨日の小倉の発言もそうだが、不安の部分が大きい。それでも少しだけ楽しみにしている自分が居るのを認識して変化を感じた。
「初めての海水浴……」
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