第6話 秋
秋になった。
今年は寒の入りが早く、来週にはすぐに雪が降るらしい。
「あの」
セックスとセックスの合間。彼女が、携帯端末の方を指差す。
「電話が」
「いいんだ」
たぶん。元彼女から。
想いが、振り払えない。それで今日も、彼女を抱いて気を紛らわせている。
「でも」
「いいんだよ、もう」
彼女に、手を伸ばす。
「んもう」
そして。何度目かのセックスのあと。ぐったりしている自分の横で、彼女が動く。
「おい待て」
彼女。自分の携帯端末に。
動こうとしたけど、身体がセックスの反動でうまく機能しなかった。
「やっぱり。恋人のかたから、連絡が来てます」
目の前に、彼女。抱き起こされる。
「ん」
「恋人のかたに、会うべきです。会って、よりを戻すべきです」
「何言ってるんだ。さっきまでおまえとセックスしてたってのに」
「わたしは。わたしにとって、あなたは、はじめて好きになった人です。ひとめぼれで。どうしようもなくて。抱かれて、初めて、満たされました。しあわせでした」
「だからそれで」
「でも」
彼女。暖かい身体。
「でも。あなたにとっての初めては、違うかたで。そして、あなたの心の中には、ずっと、そのかたがいる。会いたくないんですか?」
「会いたくない」
「うそです」
「なんでだよ」
「セックスするとき。あなたの想いが。感情が。一緒に流し込まれるような、気がするんです。あなたには、逢いたい人がいる。そしてそれは、私じゃない」
「待てよ。逢いたいのはおまえだけで、セックスも」
「分かってます。ありがとうございます。それでも、あなたが選ぶのは、私ではなく、そのかたであるべきです」
「おい」
携帯端末。
電話のコール。
「はい。あの」
「やめろ」
やめてくれ。
「分かりました。はい。はい。では、そのように」
彼女から携帯端末を奪おうとしたけど、結局身体に力は入らなかった。
「では。来週」
彼女が、携帯端末を放り投げる。
「恋人のかたと会うのは来週です。それまで、あなたは、ホテルに拘禁です」
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