第4話 夏

 いきなりだった。


「好きです」


 そう言われて。

 そのまま少し話をして、ちょっとだけ喫茶店に寄って。

 その流れでホテルに行って、セックスをした。


「うれしいです。ありがとうございます」


 事後の一言目が、それだった。最後の最後まで疑ったままだけど、美人局つつもたせでも金目的でもなく、どうやら本当に自分を好きで。それでホテルに連れ込まれて、今ここにいる。


「あの。性別が」


「それは言わないで」


 彼女以外に、それを言われたくなかった。いや、元彼女か。


「あ。私以外の女性のこと考えてる」


「うっ」


 図星。


「分かります。私、初めてだったので。粗相はなかったでしょうか?」


「粗相というか、俺も初めてだったけど」


「えっうそ。あっ」


「粗相してるね。現在進行形で」


「おはずかしいかぎりです。とまらなくて」


「まあ、いいんじゃないですか」


「ありがとうございます」


 彼女は、なぜ自分を好きだと言ったのだろうか。


「あの。もう少し、その。近寄っていただけないでしょうか?」


 元彼女ではない、違う女性の身体。


「暖かいな」


「あっごめんなさい。粗相が」


「いや、そうじゃなくて。身体が」


「身体が暖かいのは、普通ではないのですか?」


「いや、ごめん。うん。なんでもない」


 夏。

 外があんなに暑いのに、ここは涼しい。音楽がやさしく流れている。

 そして、彼女は暖かい。それでも。元彼女を求める自分がいる。

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