03 夏
「へえ。彼氏いないんだ」
仕事先の男性店長。
「セクハラですか?」
「おっ。俺から訊いたわけじゃねえぞ?」
たしかに。
「あぶねえこと言うなあ。セクハラって言われたら水戸黄門の紋所みたいに男は誰でも捕まる世の中だぞ?」
「いい世の中になったもんですよ」
そのいいの世の中のせいで、店内は誰もいない。
「店長。めし」
「店長は飯じゃねえんだけどなあ」
そう言いながら、手早い速度で炒飯が出てくる。
「リゾットもください」
「飯に飯じゃねえか」
と言いつつも、リゾットが出てくる。
「おいしい」
「そいつはどうも」
「店長は恋人いないんですか?」
「セクハラですか?」
「はい。セクハラです。訴えられてもわたしが勝ちますけど。女だし」
「そうですね。ええ。その通りでございます」
店長の昼。焼き鮭と味噌汁。
「店長はね。ここに来たバイトの子を恋人にしてんの」
「は?」
「だから、今は君が店長の恋人だね」
「うわあ。有罪だ有罪」
「有罪だねえ」
店長。筋骨粒々で、顔も。いや顔はわたしの元彼のほうが綺麗だし、身体だって。
「あっ今むかしの恋人と店長を比べてたでしょ」
「んなっ」
図星。
「店長を彼氏だと思って、いいんだよお?」
「いや無理」
こういう、洒脱でそのくせちゃんと距離感の近いコミュニケーションをしっかり取ってくれる相手のほうが。恋人として居心地がいいだろうに。
「ときめかない」
「店長でときめかないのは普通でしょ。仕事先のしがない店長なわけだし」
「それもそうですね」
「階級や身分で恋ができるような世の中でもないしねえ」
「そすね」
「おかわりかな?」
「おかわりですね。両方とも」
夏。
外はかなり暑いけど。店内は静かで涼しくて、居心地がよかった。綺麗な音楽が、やさしく流れている。
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