わたしを選んだ理由!

 ……以前から、どうしても知りたかったことがある。

 父がこの私をのは、こういうとき、つまり、お金が必要になったときに、手早く私を売り飛ばせるからではなかったのか……。


「お金がるのなら、わたしを売ればいいじゃん」


 つい口に出した。

 聴いてはいけないことが、人間社会には暗黙のルールとして存在する。そのことをすでに私は学習していた。言葉にしてはならない真実、というものだろう。


「おまえを売る?って?……そのことは、何度も何度も考えたよ」


 父は言った。愚直ぐちょくで、真っ正直な父。

 私はそんなところが好きだ。


「でもな」と、父。

「……たとえ、今、おまえを手放したとしても、たかだか五千万ほどにしかならん。当面はそれでしのげても、焼け石に水だから」

「ねえ、わたしを買ったとき、いくらしたの?」

「たしか、値切りに値切って、一千万円かな」

「じゃあ、投資としては、成功じゃん!さすがだね」

「まあな」


 少し照れたのか、父は頬にしゅをのぼらせた。


「投資としては成功したが、社員のみんながおまえのことを気に入って……。おまえが家族の一員となってから、社員の定着率もアップし、いい取引先も増えた」


 そんなことを父は言った。愚直で、真っ正直な父。

 わたしは嬉しくなって、ふいに涙腺機能オフなのに、なぜかそれが作動してしまった。

 たしかに。

 この世には、言葉にしてはならない真実というものがある……。

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