わたしを選んだ理由!
……以前から、どうしても知りたかったことがある。
父がこの私を買ったのは、こういうとき、つまり、お金が必要になったときに、手早く私を売り飛ばせるからではなかったのか……。
「お金が
つい口に出した。
聴いてはいけないことが、人間社会には暗黙のルールとして存在する。そのことをすでに私は学習していた。言葉にしてはならない真実、というものだろう。
「おまえを売る?って?……そのことは、何度も何度も考えたよ」
父は言った。
私はそんなところが好きだ。
「でもな」と、父。
「……たとえ、今、おまえを手放したとしても、たかだか五千万ほどにしかならん。当面はそれでしのげても、焼け石に水だから」
「ねえ、わたしを買ったとき、いくらしたの?」
「たしか、値切りに値切って、一千万円かな」
「じゃあ、投資としては、成功じゃん!さすがだね」
「まあな」
少し照れたのか、父は頬に
「投資としては成功したが、社員のみんながおまえのことを気に入って……。おまえが家族の一員となってから、社員の定着率もアップし、いい取引先も増えた」
そんなことを父は言った。愚直で、真っ正直な父。
わたしは嬉しくなって、ふいに涙腺機能オフなのに、なぜかそれが作動してしまった。
たしかに。
この世には、言葉にしてはならない真実というものがある……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます