6-51 塞がれた道

 テレジア達を助けたアンナは、小銃を肩に掛けると、彼女へと頭を下げる。



「テレジア様、助けるのが遅れてしまい申し訳ありません」


「いいえ、助かりました……ありがとうございます……」



 軽く頭を下げ返すテレジア。やはり、先程市民に捕まったのが怖かったのだろう。両手が僅かに震えていた。



「ところでアンナ……何故ここに? 領主様の所に居たのではないのか?」


「西門での仕事が終わったので、東門のルートヴィッヒと変わろうかと戻っていた時、ハムさんに出くわしまして。粗方の事情を聞きました。後は、近くの巡回兵に小銃を借り、駆け付けた次第です」


「そうか……何にせよ助かった……礼を言うよ……」



 息が荒いリューベック。テレジアを守りながら、相手を殺さないよう手加減しながらの戦闘を繰り返し、疲労が通常より蓄積されていたのだ。



「大丈夫ですか? リューベックさん……」


「大丈夫ではないな……流石に20代前半頃程の体力が無い。本当におじさんになってしまったらしい……」



 アンナに、リューベックは苦笑で返すと、壁に寄り掛かかる。



「アンナ……どうやら私の体力は限界そうだ……これ以上は足手まといになる。テレジア様を連れて逃げられるか?」


「私は魔術師ではないので難しいですが……任せて下さい」


「頼む……私が囮になって市民達を引き付けている内に逃げてくれ」



 リューベックは背を壁から離すと、鞘から剣を抜き、アンナはやはり心配気味に彼へ視線を向ける。



「御一人で大丈夫ですか?」


「1人だから大丈夫なんだ。守る者が近くに居ない分、自由に動けるからね」


「それでも危ない事に変わりはありません。御無理はなさらず」


「わかっているよ、私が死んだら妻子に申し訳がない」



 最後に微笑を浮かべるリューベック。そして、彼は路地裏から出ると、目立つ様に市民達を挑発した。


 その隙に、アンナはテレジアを連れ、路地裏内を移動し、リューベックとは反対側から路地裏を抜ける。


 度々たびたび市民に見付かるが直ぐに巻き、基本は路地裏を通りながら敵に見付からないよう逃げ回る。

 幸い、ここはテレジア達の故郷ヴンダーの街。地形や地理に明るい彼女達の方が、遠方からの避難民であるクライン市民より道を熟知していた。


 何度か巻いてしまえば、彼女達は簡単に逃げられるのだ。



「東門が見えてきました。もう大丈夫です」



 アンナに告げられた言葉に、テレジアは安堵し胸を撫で下ろす。



「よかった……わたし、助かったんだ……」


「ええ、これで……」



 その時、アンナの足は突然止まり、表情は一気に強張った。



「奴の言う通りだったな……本当に来たよ」



 呟いた男。その姿を見て、アンナは冷や汗を流し、テレジアは寒気と共に目が見開かれた。


 男はテレジア誘拐画策の中心人物の1人、刺青の男であり、彼の背後には、彼女達と東門を隔絶するように多数の市民が道を塞いでいたのである。



「いやぁ〜っ、あの優男、頭だけはキレるな! 追われたコイツ等が逃げる場所は西門か東門のどちらか。そこへの道を塞いじまったら、当然、こちらに飛び込んでくるわな!」



 ニヤリと笑みを浮かべる男。彼からテレジアを守る様に立ちながら、アンナは小銃を構え、市民達を睨み付ける。



「そこを退いて下さい」


「そこの女を差し出せば退くさ」


「この方を誰か知っていて言っているんですか?」


「知ってるから言ってんだよ。いいから差し出せ!」


「できません」


「差し出せ!」


「できません」


「差し出せぇえっ‼︎」



 怒声を浴びせる刺青の男。同時に彼の双眸は怒りに歪み、その手には斧が握られる。



「もう良い……貴様を倒して、是が非でもそこの女を連れて行く。野郎ども! かかれぇえっ‼︎」



 大挙して迫るクライン市民達。それに、アンナはテレジアを守る為、銃を構えて身構えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る