5-25 正義の道先
両手を失い、逃亡する体力も気力失ったオッフェンブルク。彼は苦々しく喚き散らす。
「クソックソックソッ‼︎ 祖国の為に尽くした者に対して何たる仕打ちかっ‼︎ 絶対神は我々を御見捨てになったというのか‼︎」
「何でも神の所為にしやがって……お前等自身の落ち度が招いた事だろう」
「そんな馬鹿な‼︎ 俺達は念入りに策を立て、下準備し、緻密に計算し動いた‼︎ あともう少しで目的を達し得たのだ‼︎ それを貴様等と出会ったが為に潰された‼︎ これが神の気紛れでないとすれば何とするっ‼︎」
「運が悪かったっつったら、そうなんだろうなぁ……だがな、お前等がもう少し帝国市民にも寛容なら、俺達は黙認していたぜ? 多分、だがな」
苦々しくルートヴィッヒを睨み付け続けるオッフェンブルク。腕が残っていたら地面に拳を叩き付けていた事だろう。
「さて……そろそろ大人しく捕まれや。このまま捕まっとけば、エルヴィンがお前を拷問に掛けぬよう取り計らってくれるだろうよ。流石に、多少の事情は話して、になるがな」
最終勧告を告げたルートヴィッヒ。これに応じなくても足を斬り落としてでも連れて行くつもりだった。
しかし、やはりと言うべきか、オッフェンブルクは苦々しく敗北の屈辱を味わいながら、確固たる信念と意志を持った双眸で彼を睨み続ける。
「ムザムザ我が祖国の情報など漏らさん! それならば死を選ぶ方がマシだ!」
「敬服したくなる祖国愛だなぁ……だが、下らねぇ! 生ある道を捨て守る愛国心に価値なんてねぇ」
「正義なき貴様には分かるまい……我々の信念など……」
「わからんね……わかる気もないね……だが一応、俺にも正義はある。楽しみをくれる奴等を守るっつぅ正義がな」
このまま話しても時間の無駄な浪費だった。
そろそろ、やりとりにも飽きたルートヴィッヒは、剣を構え、オッフェンブルクへと近付く。
そして、その残った足を冷酷にも斬り裂こうかとし剣を振り上げた。
その瞬間、ガリッ、という鈍い音が耳に届く。
当初、何の音だろうと思ったルートヴィッヒだったが、直ぐにその正体に気付くと、慌ててオッフェンブルクへと手を伸ばした。
「あ〜っ、クソッ‼︎」
しかし、間に合わなかった。
オッフェンブルクの口から大量の血反吐が吐き出され、彼が地面に倒れたのだ。
オッフェンブルクは、奥歯に仕込んでいた毒を噛み砕いていたのである。
「あははは……ざまぁみやがれ……貴様等独裁者の尖兵共に、偉大なる我が祖国の情報は微塵も渡さん…………貴様の任務は失敗だな…………あははははは……」
グッタリと倒れながら、死が襲い動かせぬ身体で、枯れかけの声で、ルートヴィッヒを嘲笑うオッフェンブルク。それに、ルートヴィッヒは苦虫を噛み締める。
「まったく、馬鹿にも程がある! 正義の為の自殺なんぞ、最も愚かな死の1つだぞ‼︎」
「ふんっ…………俺の言葉で、少しでも祖国が危険に晒される……そんな屈辱に見舞われるなど御免だ……拷問や尋問で情報を吐くなど御免だ…………俺の死をもって祖国の危険が取り払われるなら本望だ………………貴様に一矢報い、不敵な笑みをやっと歪ませられたしな……………………」
「残念ながら、捕縛が無理なら殺すようにも命じられてるんでね。生憎、チクリと痛む程度だ」
「ふんっ……まったく…………化け物め………………」
最期に冷笑を
結局、自殺によって呆気なく終わった追走劇に、ルートヴィッヒは溜め息を吐く。
「後味悪りぃ……」
捕縛が叶わなかった上、相手は自殺。最低限の目的は達したとは言え、ルートヴィッヒは満足できようもなかった。
そして、彼は剣を鞘に収めると、オッフェンブルクの死体を漁った。何か
すると、上着の胸ポケットから1枚の写真を発見する。
そこには、1人の女性と、2人の年端もいかない子供達と共に、オッフェンブルクと思わしき男が、笑い、立っていた。
写真はオッフェンブルクと彼の家族の写真だったのだ。
「本当に、後味悪りぃなぁ……」
ルートヴィッヒは小さな声で呟いた。
その声色には、珍しく、僅かばかり罪悪感が溶け込んでいた。
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