5-23 隠し玉

 睨み合うルートヴィッヒとオッフェンブルク。すると、オッフェンブルクが拳銃を抜き、銃口をルートヴィッヒへと向けた。



「おいおい……気でも狂ったか?」


「魔力切れの状態でもない限り、銃弾じゃあ、貴様に傷1つ付けられんだろうな」


「なのに銃なのか? もしや馬鹿なのかお前」


「いいや、馬鹿じゃねぇさ」



 オッフェンブルクはそう言い残し、銃の引き金を引き絞る。

 しかし、身体強化中の魔術師であるルートヴィッヒに銃弾は効かない。


 無駄な行為なので、避ける必要もない。


 ない筈なのだが、妙な違和感がルートヴィッヒを襲う。


 大丈夫な筈だが、受けるのは不味い。明確な確証もなく漫然とした不安だけだったが、不思議と確信があった。


 ルートヴィッヒは直感に素直に従い、銃弾を避ける。


 すると、その銃弾は背後の木にぶつかると、それを貫通し、更に十数本の木を撃ち抜いて停止した。



「マジか……」



 拳銃ではあり得ない貫通力。もし避けていなかったなら、身体強化中のルートヴィッヒであっても、肺か心臓を撃ち抜かれて絶命してしまっていた所である。


 敵が油断している絶好の機会、そこで仕留められなかった為、オッフェンブルクは舌打ちをする。



「まさか避けるとはなぁ……流石、戦闘センスだけは高いな」


「おいおい、どうなってんだ⁈ 拳銃が放てる威力じゃねぇぞ!」


「それは当然だ」



 オッフェンブルクはニタリと笑う。



「俺はもう1つ、【貫通】のスキルも持ってるからなぁ……」



 スキル【貫通】、発動中に放った攻撃を一定時間、障害物の防御力を無視して、無限に直進させる、という能力である。


 つまり、身体強化で防御力を上げても、銃弾で致命傷を与えられる、という事であった。



「とんでも無い隠し玉を持ってやがった……」



 銃と剣、魔術師が基本、剣で戦う理由は、銃弾が身体強化により魔力が切れない限りは効かないからであり、射程範囲に差があっても、同じ魔術師には、魔術師が扱う剣の方が有効的な為である。


 しかし、相手は身体強化を無視した銃弾が放てる上、魔術師で身体強化が使える。


 防御力も攻撃力は同じだが、攻撃射程に雲泥の差があった。



「おや? どうやら貴様の方がピンチじゃねぇか?」



 優越感による嘲笑を向けるオッフェンブルクに、ルートヴィッヒは苦笑いを浮かべる。



「あ〜……まったく、過重労働も良いとこだ! 帰ったら、エルヴィンから残業代せしめてやる!」



 そう愚痴をこぼすルートヴィッヒだったが、未だ余裕がある彼の様子を、空元気としてオッフェンブルクはまた嘲笑う。



「まだ生きて戻れるとでも思ってんのか? もしや逃してくれるのか? ……だったら、貴様は殺さないでおいてやるぞ?」


「冗談だろ? お前はここで捕らえる、これは確定事項だぜ?」


「そうか……じゃあ今度こそ死ね!」



 オッフェンブルクは銃口をルートヴィッヒへと向けた瞬間、引き金を引く。それは、避ける時間すらない程、素早く放たれた銃弾だった。


 避け切れないと悟ったルートヴィッヒは、【貫通】付きの弾丸を甘んじて受けるしか無く、何とか急所は避けようと、身体を動かし、何とか肺や心臓への命中は避け、左肩で受けた。


 しかし、銃弾が通り過ぎた左肩には痛々しい穴が空き、ルートヴィッヒは顔を歪ませ、右手で肩を抑える。



「あはははははっ! 威勢はどうした‼︎ 俺を捕らえるんじゃなかったのか⁈」



 優位的状況で高らかに大笑いするオッフェンブルク。それにルートヴィッヒは理不尽な事実に苦悶する。



「あ〜……本当に面倒極まるぜ! まったく……帰ったら、こんな重労働を強いたアイツに、クーデター起こしてやりたい」


「ふんっ、また強がりか……大人しく死ねば、苦しまずに殺してやるものを……」


「嫌に決まってんだろ?」


「貴様はもう詰んでいる。貴様は剣、こちらは銃だ。目に見えているだろう?」


「あはは……馬鹿抜かせ、何故……」



 すると、ルートヴィッヒの口元が不敵に歪む。



「"もう、勝ってる奴相手"に諦めなきゃいけねぇんだ?」



 その言葉に、オッフェンブルクが怪訝な顔を示した瞬間、彼の背中に激痛が走り、斜めに裂かれた傷口が現れた。

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