5-19 反撃開始

 牽引車との連結器を斬り、客車と離したルートヴィッヒ。牽引車は只1人で線路を走り抜け、それをアンナと共に客車屋根上から見守った。



「さて……あとは人が巻き込まれないよう、願うかね……」


「これで乗客は無事でしょう。しかし、まだ武装者は沢山居ます。どうにかしないと……」


「だが、エルヴィンも助けださねぇとなぁ……列車が止まった事で、敵さんも異変に気付いちまうからな」



 笑みを浮かべながら、そう呟やいたルートヴィッヒ。そして、彼はスキル【探知】を発動させ、列車内の武装者達を確認した。



「やっぱ、各車両に4人ずついるなぁ……」



 ルートヴィッヒは「倒すのは面倒だな」と苦笑し、肩をすくめると、次にエルヴィンが囚われている後方貨物車を【探知】で調べる。



「さて、生きてっかなぁ……」



 それは、冗談混じりで呟いた言葉だった。


 しかし、【探知】で、エルヴィンが背後から銃口と剣を突き付けられ、殺されようとしている光景を確認した瞬間、ルートヴィッヒから笑みが消える。



「ルートヴィッヒ、どうかしましたか?」



 相棒の変化を感じとったアンナが、少し心配そうに声を掛ける。


 すると、ルートヴィッヒは突然、動きだした。

 客車の車窓を破って車両内に入り、直ぐに身体強化を発動。脚力強化を使って、目にも留まらぬ早さで、車両間のドアもぶち破り続け、列車後方まで一気に駆けた。


 そして、客車を次々と通過する合間、武装者の横を過ぎ去ると同時に、彼等に斬撃を浴びせていく。

 斬られた武装者達は次々に血飛沫をあげ、半数は絶命。客車内を真っ赤に塗装していった。


 只車内をひた走るルートヴィッヒ。客車の最後尾に来た瞬間、行き止まりとなり、一瞬足を止める。

 しかし、直ぐに横の客車出入り口のドアを蹴破り、外に出て、脚力強化を再発動。エルヴィンが居る貨物車横まで到達した。




 外に現れた謎の来訪者に意識が集中したオッフェンブルク達。しかし、同胞の中に居なかった奴だとわかった瞬間、銃を持った武装者が銃口をルートヴィッヒへと向ける。



「貴様、コイツの仲間かぁあっ‼︎」



 武装者は叫び、引き金に指を掛け、引いた。


 しかし、銃弾は放たれなかった。


 武装者の首に、ルートヴィッヒが剣を突き立てていたのだ。



「グボッ! な、ばか、な…………」



 目にも留まらぬ早業、それへの驚愕を最後に、銃を持った武装者は生き絶えた。



「クソがぁあああああああああああっ!」



 隣で一連の様子を見ていた剣を持った武装者は、直ぐさま身体強化を発動、ルートヴィッヒ目掛け剣を横に振る。


 しかし、ルートヴィッヒはそれをしゃがんで下に回避し、足裏を床に滑らせ、回転させ、武装者へと向き、剣を身体強化で強めた腕力に乗せ、武装者の右脇腹から左肩に至るまで、下から骨を寸断する程、撫で斬りにした。


 瞬時に2人、1人は普通の武装者だったとは言え、もう1人は同じ魔術師。それをいとも容易く殺したルートヴィッヒ。彼は、エルヴィンを背に立つと、前方のオッフェンブルクに不敵に笑いかける。



「よお、敵の大将さん。我等が主人、奪還させて貰うぜ」



 ルートヴィッヒはそう敵に言葉を投げ、屈辱に歪む相手の顔を拝むと、背後を振り向き、無様に椅子に括り付けられたエルヴィンを見下ろし、今度はニヤリと楽しそうな笑みを浮かべる。



「よお、我等が領主殿! 御加減はいかがでしょうか?」



 そう問われた瞬間、頼れる友の背中を見た瞬間、エルヴィンから一気に力が抜け、縛られたままながらグッタリと椅子に腰掛けた。



「いや〜っ、怖かったぁ〜っ、死ぬかと思ったよ……」



 平静を装っていたエルヴィンだったが、内心ではめちゃくちゃ怖かった。

 相手との舌戦を制する為、無理して余裕そうな笑みを見せていたのだ。



「あともう少し遅ければ死んでいたよ……。君達にしては遅かったね?」


「なかなか手こずっちまってな! 悪りぃ悪りぃ。……しっかし、よく俺等を信じて行動くれたもんだ。俺達が成功しなけりゃ死んでただろうに……」


「当然だろう? 君達ならやれるんだから」


「まったく……お人好しめ……」



 ルートヴィッヒは苦笑をこぼした。

 もともとエルヴィンの立てた策は、ルートヴィッヒとアンナがそれに気付き、行動し、成功させなければならないものだった。

 余程の信頼がなければ出来ない事だった。


 エルヴィンは2人を心底信頼して自分の命を賭けたのだ。


 それは馬鹿な行動ではあったが、ルートヴィッヒとアンナにとっては嬉しい行動だった。



「ではでは御領主殿? 今すぐ御助け致しましょうか?」


「うん、頼むよ……」



 ルートヴィッヒは剣でエルヴィンを縛る縄を斬り、エルヴィンは縄で締め付けられていた腕を摩る。


 しかし、そんなルートヴィッヒの背中を、1人の男が狙っていた。


 貨物車内に見える敵はオッフェンブルク1人だけ。


 そう、エルヴィンが現れた時点で消えていた。


 【透明化】スキルを使って、マイセンハイムは姿を消していたのだ。


 彼は、気配を消し、ゆっくりとルートヴィッヒの背中を狙い、慎重に歩き、真後ろに立って、剣を振り上げ、背中を狙い振り下ろす。


 しかし、ルートヴィッヒは瞬時に背後を振り向き、マイセンハイムの胸を横に斬った。


 深手を負ったマイセンハイムは、血を垂れ流しながら、【透明化】が解除され、床に膝を付く。



「馬鹿な……気配も消し、スキルで姿も消していた筈……何故、位置がバレた……」



 口から血を流しながら苦悶と共に告げられた疑問へ、ルートヴィッヒは、ニヤリと笑みで返し、答える。



「単純な話だ。俺もスキル持ちで、お前と相性の良いスキルだっただけだ! 俺のスキルは【探知】、一斉範囲内のものの位置が分かる。例え、姿が見えなくてもな!」



 それを聞いたマイセンハイムは苦笑を浮かべる。



「なんと……呆気ない……下らぬ不運故に負けたのか……」


「そうだな、運が悪かった。俺が乗ってなかったら生きてられただろうよ」


「ふっ、全くだ……」



 苦笑を最期に、マイセンハイムの首は、ルートヴィッヒにより掻っ切られた。

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