5-17 正体と目的

 列車爆破の件を聞いたエルヴィン。しかし、ここでふとある疑問が浮かんだ。



「証拠隠滅とは言うけど……流石に君が逃げられたと感付くと思うよ? タイミングが良すぎるからね」


「残念ながら、その心配はいらねぇ。ちゃんと、察知されないよう手は打ってある。仲間が、だがな……」



 オッフェンブルクはまたニタリと笑う。



。それを頻発に起こした今、列車爆破もそっち案件だと思うだろうよ……」



 今朝、エルヴィンが読んでいた新聞には、列車強盗が頻発しているという記事も載っており、それすらも解放のヘヴライウイングス・クリンゲが仕掛けた代物であったのだ。



「なるほど……今朝読んだ新聞記事のほとんどが、君達関連だった訳だ……恐れ入るよ……」



 エルヴィンは縛られて、まともに動けないながらも、肩をすくませた。



「さて……そろそろ話を切り上げるとするか……俺達も脱出せねばならぬからな。一緒に丸焼きは御免だ」



 オッフェンブルクはそうこぼした後、近くの憲兵の死体から拳銃を拾い、銃口をエルヴィンに突き付けた。



「じゃあ、貴族殿。話してくれたせめてもの手向けだ。一思いに殺してやるよ」


「そうか……死にたくないから、もう少し足掻かせて貰うよ」


「何だ? 命乞いか? 他にも帝国の暗部を教えてくれるのか?」


「いや、私が知るのは本当にアレで全部だよ。だがら……」



 エルヴィンの目が一瞬、狩り人の鋭い目に変わると、それをオッフェンブルクへと向けた。



「君達が"共和国の諜報員"と言える根拠を教えようと思ってね」



 その瞬間、背後の武装者は凍り付き、初めてオッフェンブルクの笑みが崩れ、エルヴィンへの警戒心を剥き出しにする。



「そう判断する根拠はなんだ……」


「まぁ……色々とあるけど、第1に背後の、剣を持った御仲間さん、ゲルマン語が少しつたなくて、僅かばかりブリュメール語混じりだよ?」



 剣を持った武装者は口を押さえた。



「あと、もう1人の御仲間さん。銃が共和国軍採用のフォス者製11ミリ小銃だよ? 共和国軍人じゃなきゃ入手困難だよね?」



 銃を持った武装者は冷や汗を垂らした。



「それに何より……君達、解放のヘヴライウイングス・クリンゲは過激すぎだ。同じ帝国民を蔑ろにし過ぎているんだよ」



 的確な指摘だった。少ない情報から、解放のヘブライウィングス・クリンゲが犯した落ち度から、彼等の正体を見事に当てて見せたのだ。


 周りがエルヴィンの冴えに凍りつき、恐怖する。


 しかし、オッフェンブルクは、それに感嘆し、笑いをこぼした。



「帝国にも、なかなかどうして有能な奴が居るじゃないか‼︎」



 高笑いし、エルヴィンを讃えるオッフェンブルク。そして、彼はポツポツと語り出す。



「貴様の言う通り、俺達は共和国の諜報員だ。残念ながら部隊と本名は明かせないが、当てた御褒美に、俺が救出された目的を教えてやろう!」


「いや、なんとなく分かる。君は"ヒルデブラントの地図"を、捕まった時、既に手に入れていたのだろう?」



 その指摘にまたも背後の2人は凍り付き、的を射ていたらしいが、オッフェンブルクはまたも高笑いする。



「いや〜っ! 貴官は本当に優秀だな! 同じ共和国人じゃないのが残念だ!」


「お褒めに預かり光栄だね……しかし、地図を何処に隠し持っているかは分からなかった。いや、別の場所に隠したのかな?」


「あははは、それは流石に分からなかったか……」



 すると、オッフェンブルクはまるで楽しむかのような笑みを浮かべながら、人差し指で自分の頭を突いた。



「ここだ、ここにヒルデブラントの地図がある」


「記憶してるって事かい? しかし、そんな短時間で要塞の全容を記憶するなど不可能だ」


「いいや、俺には出来る。なにせ、【完全記憶】のスキルを持っているからな!」



 スキル【完全記憶】は、スキル発動中に見た、聞いた、感じたもの全て脳に記憶し、簡単に記憶領域から、その記憶を取り出せる、という能力である。



「なるほど……【完全記憶】のスキルを持つ君は、帝国軍に潜入し、ヒルデブラント要塞配属となる。そして、要塞地図を見付け、記憶し、共和国本国へと送る、という算段だったのか……」


「その通りだ! だから、奪われたと帝国軍に思わせたくはなかった。奪われたと思わずに油断した所を、地図を使い攻略したいからな」


「それを察知される可能性を少しでも減らす為、乗客を皆殺しという訳か……なんと、まぁ…………」



 エルヴィンは苦笑した。先程から飄々ひょうひょうと言葉を返す彼だったが、今も怒りを表す様子は微塵も見受けられなかった。

 心優しいエルヴィンが、無辜な民を皆殺しにしようとするオッフェンブルク達に怒りが湧かないのは、少しおかしい。


 しかし、そんなエルヴィンの様子をオッフェンブルクは気に入ったらしく、ある提案を告げ始める。



「貴様……共和国に亡命しないか?」



 この時、エルヴィンはようやく笑みが崩され、面食らいながら意外な誘いに驚きを露わにするのだった。

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