5-16 主人抜き

 エルヴィン救出の為、動き出したルートヴィッヒとアンナは、客車2両目と1両目の武装者達を次々と制圧し、牽引車まで来ていた。


 ルートヴィッヒは別の車両に乗り移った瞬間、敵が騒ぐ前に、脚力強化で車両内を疾走し、通り過ぎざまに武装者達を斬り、戦闘不能にしてった。そして、牽引車に居た武装者2人も、アッサリと倒してのけたのだ。



「ふぅ……意外に手こずっちまった」


「何を言いますか……私抜きで3両全部1人で制圧してのけたじゃないですか。実は、エルヴィンが連れて行かれる時も、簡単に制圧できたんじゃないですか?」


「あん時は別だ! 座った状態から立ち上がるまでの時間に、敵は一発撃ってた。そして、それを聞いてゾロゾロと敵の援軍がやって来ちまう。俺達は全滅だったぞ? そんな事もわからねぇのか?」


「わかってますよ……言ってみただけです」



 少し焦っている様子のアンナ。やはり、エルヴィンの事が心配で仕方ないらしい。



「アンナ、そんな心配すんなよ。アイツはああ見えて悪運は強ぇ。簡単には死なねぇし、ここまではアイツの思惑通りだぜ? 多分……」



 アンナは一瞬、ルートヴィッヒに視線を向けると、吐息を吐いて気持ちを整える。



「そうですね……多分、大丈夫でしょう。慌てても仕方ありません」


「あはは、そうだ! あんま神経質過ぎると、ストレスによる消化不良で、ただでさえ小さい胸に栄養が回らねぇぞ?」


「貴方……とことん死にたいようですね…………」



 アンナは軽い殺意混じりの視線をルートヴィッヒに向け、ルートヴィッヒは顔を青ざめて、少し後ずさる。



「毎回、殺気だすなんて卑怯だぞ‼︎ でも、本当に、すいませんでした…………」



 ルートヴィッヒは内心「暴力女め‼︎」と思いながらも、面倒ごとは御免なのと、アンナの殺気がマジで怖いので、取り敢えず謝った。




 いつも通りの会話を終え、アンナが落ち着いた所で、2人は真剣な表情へと戻り、運転機器に視線を向けた。



「さて……」


「どうしましょう、これ……」



 2人が視線を向けた先には、燃料となる魔石を入れる搬入口があった。そして、そこには、魔石が中から溢れる程に詰め込まれていたのだ。



「こんだけ入れちまったら、魔力過多で牽引車、爆発するぞ」


「でも、爆発しないのは、何か細工をしたのでしょうね」



 アンナは床から魔導師が使う杖を拾った。牽引車を占拠していた武装者の1人が持っていたものである。



「まさか、貴重な魔術師まで居るとはなぁ……そんだけ囚人が重要人物だって事だが……組織の幹部か何かだったのか?」


「どちらにしても、数分後に爆破してしまいます。何とかしないと……」


「車掌が居たら、また違ったんだろうがなぁ…………」



 2人は床に横たわる死体へと目を向けた。


 そこには、喉を掻っ切られ、流血仕切った車掌の屍が転がっていた。



「酷い事しやがる……」


「ここまでして、彼等は自分達の行いを正義だと言えるんでしょうか?」


「言えるんだからやるんだろうよ。惨たらしい殺しは大抵、正義を掲げて行われるもんだ」



 ルートヴィッヒは肩をすくめた。



「どうするかなぁ……魔石全部取り出すのは無理があるしなぁ……」


「しかし、このまま行けば爆発を起こして、私達も含めて乗客全員が死にます」


「幸い、このレールの先は当分、人気の無い場所だ。爆発しても、列車以外に被害は被らねぇが……」



 周りに被害が被らないのは結構だったが、問題なのは火中に入る自分達である。

 牽引車爆発まで時間もなく、その時には間違いなく身体強化をしたルートヴィッヒであっても死ぬだろう。

 それを回避しなければ、自分達にはあまり意味が無かったのだ。



「どうやって解決しようかねぇ……最も、しかねぇんだがな」


「しかし、やれますかね?」


「罠があるかもしれんし、走行中では難しい。下手に止めると、エネルギー消費が減る分、即、爆発するかもしれねぇ。……しっかし、まっ、やるっきゃねぇだろう!」



 ルートヴィッヒは剣を肩に乗せ、ニッと笑みを浮かべると、アンナも僅かながら冷笑混じりの苦笑を浮かべるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る