5-15 尋問

 椅子に括り付けられたエルヴィン。それを、連行した2人の武装者が背後で監視し、オッフェンブルクが正面に立って、彼を見下ろしていた。



「さて……色々と聞かせて貰おうか…………」



 オッフェンブルクはニタリと不気味に笑うと、場合によっては拷問する気満々で、エルヴィンに対し尋問を始める。


 すると、エルヴィンは呆気なく、サラサラと帝国の黒い事情を話し出した。


 暗殺、謀殺、賄賂、暗躍などなど。帝国が表沙汰にしたくないたぐいの物をすんなりと話してのけたのだ。


 あまりにもやり甲斐のない、簡単過ぎる尋問に、敵である武装者が呆れる程である。



「私の知る帝国の内情はこれくらいかなぁ……」


「貴様……本当に、帝国貴族なのか? しかも、軍にも所属している。それにしては明らかに忠誠心が無さすぎるぞ」



 平然とした態度のエルヴィンに、オッフェンブルクは、溜め息を漏らしながら、頭を抱えた。



「こんなにやり甲斐のない尋問は初めてだ……敵ながら呆れしかない」


「しかし、私が喋らないと、君達、私を拷問するよね?」


「当たり前だ、敵だからな」


「だったら、痛いのは嫌だし、喋るしかないよ……」


「話したら、帝国の不利になるだろう。祖国が危険に晒される事になるが、忠誠心は痛まないのか?」


「生憎、私は身の危険を甘んじて見逃す程、帝国に忠誠心はない。それに……帝国貴族は自分の事しか考えていない人が多いから、大抵は私のような対応をすると思うよ?」


「なんとまぁ……愚かしいな……」



 国に貢献すべき権力者たる貴族が、己が欲にしか眼中にない帝国の現状。それこそが帝国腐敗の元凶であり、それを改めて実感したオッフェンブルクは、帝国打倒の決意を新たにするのだった。



「やはり、我々の考えは正しいようだ。それを改めて明確に出来た。貴様に感謝せねばな」


「それは何より……それよりも、早く縄を解いて解放してくれると有り難いんだけど…………」



 エルヴィンがそう呟いた瞬間、オッフェンブルクを含め、背後の2人も笑いをこぼす。



「残念だが解放はされん。貴様には此処でもらう」



 衝撃の事実を突き付けられたエルヴィン。しかし、彼は尚も平静を保ち、苦笑する。



「それは、私が貴族だからかい?」


「それもあるが……今回、我々は目撃者を残したくないのでね」


「つまり……"列車の乗客、全員を殺す気"なんだね?」


「その通りだ!」



 迷い無く自信に満ちた解答。列車内に居る者のほとんどは罪無き一般市民で、子供も居る。それを平然と殺すと、オッフェンブルク達は言ってのけたのである。



「今回の目的は俺を救出する事だ。しかし……それを帝国軍に悟られるのは厄介なのだ。だから、目撃者を含め、証拠を隠滅せねばならない」


「目撃者ごと、列車を爆破するつもりかい?」


「察しが良いなぁ……そうだ、だから牽引車に細工をしておいたのさ」



 オッフェンブルクはまたニタリと笑みを浮かべた。

 今からやろうとしている非人道性を前にしながら、彼等には罪悪感すらない。それ等をあるものが蓋をして隠していたのだ。



「"民主主義を奉ずる"、そのの為に、罪無き民まで殺すのか…………」


「必要な犠牲だ。後の数百年、帝国に苦しめられる民を思えば、この犠牲は微々たるものだ」



 正義、確かに聞こえの良い言葉だが、それが生む物には悪もある。正義の為の人殺しが正にそれだ。

 人類史において、自分を悪だと思って人殺しをした人間は居ない。悪だと自負していても、それを真意では正義だと思って人殺しをしているからだ。

 正義とは悪と表裏一体であり、悪業を綺麗に見せるフィルターになる場合が多く存在する。



「なるほど……君達は、自分達の悪業が、正義のフィルターで、善行に見えているのか」


「ふんっ、何とでも言うが良い。帝国打倒は正義の行いであり、それに至るまでの罪は、目をつむるべき行いだ、必要悪なのだ。貴様のように、己が利益しか考えぬ愚者には分かるまい」



 オッフェンブルクは憐れむように、馬鹿にするように、己が信念に浸るように、笑みを浮かべるのだった。

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