5-14 囚われの貴族

 後方貨物車。オッフェンブルクは【透明化】スキル持ちの男、アルトゥール・マイセンハイムから、新品の市民服を受け取って着替え、伸びた髪を大雑把ながら切り、髭も剃った。



「満足では無いが……粗方何とかなったな」



 オッフェンブルクは無精髭をさすると、苦笑を浮かべた。



「大佐、列車の制圧は完了。牽引車への細工も終わり、後は我々が脱出すれば良いだけです」


「そうだな……後、何分だ?」


「まぁ……40、ぐらいでしょうか……」


「じゃあ、10分前……30分後に脱出だな」



 オッフェンブルクはマイセンハイムの肩を叩くと、床に転がった憲兵の死体を嘆かわしそうに見下ろす。



「まったく汚い国だ……こんなクズ共を憲兵に添えるとは……やはり、滅ぶべき国だろう」


「しかし、大佐が戻れば、我々の止まっていた計画がやっと再開出来ます」


「その時が、この独裁国家最期の日だな」



 ニタリと笑うオッフェンブルクに対して無愛想なマイセンハイムだったが、心の中では帝国が滅ぶ姿に歓喜していた。


 すると、唯一の出入り口、横に開きっぱなしとなったドアで、移動中の列車上からロープが垂れ下がる。

 そして、最初に剣を持った男がロープを伝い降りて来くると、次にエルヴィンが降り、最後に銃を持った男が降りてエルヴィンに銃を突き付けた。


 突然の来訪者達に、オッフェンブルクが眉をひそめると、剣を持った男は彼に敬礼して報告する。



「大佐、列車に偶然乗り合わせていた貴族を連行して参りました!」


「貴族?」



 オッフェンブルクは、余りにもだらしが無いエルヴィンの姿を見て怪訝な顔を示す。



「そいつ本当に貴族か? それらしく見えんが……」


「まぁ……私も同感です。実際、半信半疑で、取り敢えず連れて来ただけですので……大佐の裁量にお任せします」



 押し付けられた形であったが、オッフェンブルクに不快感はなかった。実際、コイツが貴族であった場合、貴重な情報を引き出す絶好の機会であるし、違っても始末すれば済む話だからだ。


 そして、オッフェンブルクはエルヴィンの前に立つと、その顔を睨み付ける。



「貴様、家名は何だ?」


「フライブルクですけど……」


「フライブルク? ……証明出来る物は?」


「胸ポケットに軍の識別証がありますよ?」



 オッフェンブルクは言われた通り、エルヴィンの胸ポケットから識別証を取り出し、そこにエルヴィン・フライブルクと書かれているのが見えた。



「間違いない。コイツは貴族だ!」



 それと同時に、周りから感嘆の声が上がる。



「なるほど……森狐の息子か……これはなかなかの掘り出し物かもしれん」



 オッフェンブルクは愉快そうにニタリと笑み浮かべ、それにエルヴィンは「拷問は勘弁したいなぁ」と、苦笑を浮かべるのだった。

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