5-13 頼もしい2人

 エルヴィンが連れ去られた後、アンナは後悔する様に暗く俯いた。



「エルヴィン…………」



 想い人が命の危険に晒される。それが気が気でなく、アンナは今にも助け出したい気持ちで一杯だったのだ。



「アンナ……落ち着けよ?」


「分かってます……ここで下手に動いたら、それこそエルヴィンが危険に晒されます」



 恐らく、相当、精神的にまいっているだろうアンナだったが、冷静さは保たれている様だった。



「しかし、どうしますか?」



 気持ちを取り直し、ルートヴィッヒに尋ねたアンナ。


 すると、彼は不敵な笑みを浮かべる。



「それなんだがな? もう、エルヴィンの策は始まってるぜ?」



 ルートヴィッヒの言葉に怪訝な顔をしたアンナだったが、直ぐにハッとその意味を理解して、客車内を見渡した。



「そうか……そういう事ですか…………」


「エルヴィンの奴、とんでもねぇな! 列車に武装組織が乗ってると知った時点で、既に策を練ってやがった」



 ルートヴィッヒはエルヴィンに寒気を覚えてしまった。

 現在、客車に武装者は2人だけであり、それがエルヴィンによって仕組まれたものだったからだ。


 ルートヴィッヒを通常兵と思わせ、エルヴィンを魔術兵と思わせる。それにより、エルヴィンが連行される際、彼に2人の監視が付き、客車は手薄になる。


 つまり、この客車を制圧するのに、ルートヴィッヒとアンナは、1人ずつ武装者の相手にするだけで良くなったのだ。



「せっかく、奴が作り出してくれたチャンスだ! 活かさねぇとな!」


「はい……貴方がしくじらなければ、ですが……」


「それはコッチの台詞だクソエルフ!」



 悪態を付き合いながら、2人は互いに微笑を向けた。


 そして、敵を油断させる為、ルートヴィッヒは、アンナの胸ぐらを掴むと、空いた手を拳にして握り締める。



「このクソエルフっ‼︎ お前の所為でこんな事態に巻き込まれたんだろうがぁあっ‼︎」


「それはコッチの台詞です! 貴方が遅刻なんてしなければ、もっと早い列車に乗れてたんですよ?」


「俺の所為だって言いてぇのか‼︎」


「違うんですか?」



 口論を始めた2人、それを見かねた武装者の1人、剣を持った男が2人に近付き、剣を突き付けた。



「貴様等、何してる! 死にたいのか‼︎」



 その瞬間、2人の目が一瞬ギラリと光ると、ルートヴィッヒが身体強化を発動。油断していた武装者の身体強化発動は遅れ、人の腕力の数倍のパンチが腹部を襲った。



「き、貴様が……魔術兵……だった、のか…………」



 武装者は激痛で気絶し、地面に倒れると、ルートヴィッヒは手を払い、もう1人の武装者に視線を向ける。

 その先では既に、アンナが武装者をうつ伏せにつくばらせて上から抑えており、その首に強烈な一撃を加えて気絶させる所だった。



「アンナ….…やっぱりお前、暴力に関してはスゲェな!」


「それ、褒めているように見せかけて、馬鹿にしてますよね?」


「あはは、バレたか。しかし、お前だって、さっきの演技で、マジの不満口走ってただろう!」


「当然です。貴方が遅刻さえしなければ、こんな事態に巻き込まれずに済んだのは事実ですから」


「まったく……本当にお前は、俺に対して棘があるな」



 ルートヴィッヒは肩をすくめ、苦笑を浮かべると、武装者から剣を拾い、刀身を確認して、鞘に収め、鞘ごと腰のベルトに刺した。



「さて……」



 アンナは武装者から銃を拾い、男のポケットから弾を取り自分のポケットに入れ、銃内の残弾数と扱い方や形状を確認した。



「では……」



 そして2人は、闘志に満ちた眼差しで、同じ意思をもって、歩みを進める。



「「我等が親友を救うとしますかね(しましょう)‼︎」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る