5-11 エドガー・オッフェンブルク

 列車後方から3両目の貨物車。そこで、前方からの散発的な銃声を聞いた憲兵達は、銃や剣を構え、非常事態に備えた。



「チッ! 解放のヘブライウイングス・クリンゲの連中か……まさか、仲間1人の為に、危険を犯して襲撃してくるとは…………」



 憲兵隊長は苦々しく舌打ちしながら、前の車両からの襲撃を警戒し、身構える。


 彼等は極秘の輸送がなされている事を隠す為、人が乗れるよう改良はされながらも、貨物車をそのまま利用しており、入り口は横の大きな扉しか無い。

 つまり、その扉から侵入してくる事しか考えられず、憲兵達は扉が開かれた途端に侵入するであろう敵を倒すべく、剣や剣握り締めた。


 しかし、その瞬間、オッフェンブルクがニタリと不気味な笑みを浮かべる。

 それ同時に、突然、憲兵の1人が、首から血飛沫を上げ、大量の吐血と共に絶命した。



「なっ⁉︎」



 突然の死、前触れ無き死、原因不明の死、まるで悪魔の呪いが発動したが如く仲間が死んだ光景に、寒気と共に、彼等は唖然と立ち尽くす。



「どう、なっているんだ……?」


「魔法? いや、そんな魔法がある訳……」



 武器を持つ手を震わせながら、頭が追い付かず、棒立ちする憲兵達。


 そして、またも仲間の1人が突然、絶命した。今度は首を飛ばして。


 次々に仲間が謎のまま、突然、死んで行く。


 血反吐を吐き、首を飛ばして、血飛沫を上げ、絶命する。


 理解の及ばぬ惨状、理解し難い現状、それに憲兵達の恐怖はジワジワと蓄積し、仲間が半分にまで減った途端に、決壊した。



「誰か、助けてくれぇえっ‼︎」


「死ぬのは嫌だぁあっ‼︎」


「開けろ‼︎ ここを開けろぉおっ‼︎」



 残った憲兵全員が唯一の入り口へと群がり、扉を叩いては、無理こじ開けようと、鍵に手を掛け、扉を開けた。



「退けぇえっ‼︎」



 そして、部下達を差し置き、我先にと前に出て、謎の死が送られる地獄から抜け出そうて、走行する列車から飛び降りおうと、部下達をかき分け、憲兵隊長が躍り出た。



「上官である俺が先だぁあっ‼︎」



 我先にと逃げようとする上官に、部下達も我先にと上官を抑え、仲間を抑え、かき分け、掴み、突き飛ばした。



「させるかぁあっ‼︎」


「俺が先だぁあっ‼︎」


「こんなとこで死んでたまるかぁあっ‼︎」



 他者を押し退け、自分だけは助かろうとする愚かしい光景。そんな間も1人、また1人と謎の死が襲っていき、1分も経たぬ内に貨物内は真っ赤に塗装された。たった2人を残して。



「死にたくない……俺はまだ死にたくない…………」



 唯一憲兵で生き残された憲兵隊長は、震えながら、腰を抜かし、地面に尻餅を付いていた。


 そんな滑稽極まる様子に、椅子に括り付けられたままのオッフェンブルクは、狂った様に高笑いし、馬鹿にする笑みを浮かべる。



「笑えるなぁあっ‼︎ 俺を見下していた奴が、子犬の様に震えてやがる‼︎」



 大笑いするオッフェンブルクに、憲兵隊長は震えながら怪訝な顔をし、ヒステリックに喚く。



「何を笑っとるんだ貴様ぁあっ‼︎ 貴様も死ぬかもしれねぇんだぞ‼︎」


「ひゃっははっ‼︎ そんな事態、あり得ねぇよ‼︎」



 オッフェンブルクは髭に囲まれた口をニタリと不気味に歪め、伸びた髪から狩り人の如き目を覗かせた。



「だって、これをやってのは俺達だからなぁ…………‼︎」



 その時、オッフェンブルクの背後から薄っすらと人の輪郭が現れ、そして、そのまま人の姿になった。

 何も無い場所から、血がこびり付いた剣を片手に、1人の男が現れたのだ。



「大佐、遅れて申し訳ありません」


「いや、構わん! 俺が此処に運ばるのに乗じて乗り込んでも、人気の無い地点に列車が着くまで動けんだろうからな」


「はい……現在、森に入っており、それを他の者が暴れ、知らせる手筈でした」



 突然現れた男、それに頭が追い付かなかった憲兵隊長だったが、それにより全ての合点がいった。



「部下達を殺したのはソイツか‼︎」


「ああ、その通りだ! コイツは【透明化】のスキル持ちで、透明になった状態で貴様等を1人ずつ血祭りにあげた訳だ!」



 オッフェンブルクは【透明化】スキル持ちの男に手錠を斬って貰い、椅子から解放され、背筋を伸ばした。



「やっと解放された! 座りっぱなしは辛いねぇ……」



 オッフェンブルクは肩を回した後、生き残った震える憲兵隊長に目を向ける。



「さて…………」


「貴様、殺すのか……この俺を殺すのか…………?」


「当たり前だろう? 散々、俺を痛め付けて楽しんだ奴だぞ? 殺すだろう」



 オッフェンブルクは憲兵の死体から小銃を拾うと、憲兵隊長に近寄っていく。



「待て……待って下さい! 俺が悪かった……憲兵隊について話せるだけの情報は話そう……だから、殺さないでくれぇえっ‼︎」


「そうだなぁ……殺すのは不味いか」



 その言葉に、憲兵隊長は安堵し、肩を撫で下ろした。


 しかし、次の瞬間、彼の頭に強烈な激痛が走った。オッフェンブルクによって、頭蓋に小銃が叩き付けられたのだ。



「ど、どういうことだ……⁈ 殺さないんじゃ無かったのか……⁈」


「誰もそんな事は言って無いぞ? 俺は、殺すのは不味いか、と言ったんだぞ? 何せ…………」



 オッフェンブルクはまあもニタリと不気味な笑みを浮かべ、憲兵隊長を獲物を見る瞳と共に見下ろした。



「沢山なぶらないと、俺の気が治らないからなぁ…………」



 そして、憲兵隊長はオッフェンブルクによる暴力の応酬にさらされた。

 自分がした何十倍もの力で、回数で、小銃で殴られ、最期は頭蓋が陥没し、絶命した。

 見るも無残な姿と成り果てて。

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