5-10 武装者達

 鳴り響いた銃声、それは牽引車後ろの客車1両目からであった。

 そして、それに連鎖する形で、次々と各客車で4人ずつ銃や剣を握った武装者達が立ち上がり、銃で天井を撃ち抜いた。



「全員、動くなぁあっ‼︎」



 突き付けられ銃、武装した男達を前に、薄々勘付いていたエルヴィン達を除き、乗客達はパニックを起こす。


 女は悲鳴をあげ、子供は泣き叫び、男は震えながら頭を抱えた。


 そして、エルヴィン達の乗る客車、4人の武装者内の1人が、やはり警戒していたエルヴィン達へと近付き、銃を突き付ける。



「貴様等、軍人だな!」


「そうだね……彼は少し違うけど」


「そうだな! 俺だけ地方軍だ! ついでにこの、胸の残念なエルフは正規軍と地方軍両方に席があるという……」


「ルートヴィッヒ、貴方、余程、死にたいようですね…………」


「おいっ‼︎ 貴様等、状況が分かっているのか‼︎」



 武装者からの叱責を受け、エルヴィン達は黙り込んだ。

 しかし、武器を突きつけられ状況で平然と馬鹿話をした彼等の様子に、それを見ていた乗客達は、少し恐怖心が和らいだのか、パニックが治り、落ち着きを取り戻す。



「チッ、まったく…………」



 武装者はエルヴィン達に不快感を表したが、平静さは保っており、彼等をそれぞれ凝視した。



「お前達、武器を渡せ!」



 そう言われ、アンナは腰の拳銃を渡す。



「おいっ! お前もだ! 懐の拳銃を渡せ!」


「チッ、バレてたか…………」



 ルートヴィッヒも上着の懐に隠していた拳銃を渡した。



「おいっ! お前も武器を……」


「私は持ってない。 なんなら調べるかい?」



 エルヴィンは両手を挙げ、無防備を示すが、武装者は彼を立たせて、隅々まで調べる。



「本当にないなぁ…………いや、棚の上か?」



 武装者は次に天井下の棚を調べ、そして、一振りの剣を見付ける。



「危うく見逃す所だった……貴様、魔術兵か!」


「やれやれ……見付かってしまったか…………」



 肩をすくめ、苦笑を浮かべるエルヴィン。そして、その横でルートヴィッヒは、溢れ出そうな失笑を必死で我慢していた。



「これで貴様等の武器は全部だな……よし、全員、黙って座っておけ! おかしな動きをしたら……わかっているな?」



 武装者は3人を睨み付けた後、奪った武器を持って、仲間の下へと戻って行った。




 取り敢えず、一難去ったエルヴィン達。そして、ルートヴィッヒはこらえていた笑いを微笑に変え、エルヴィンへと視線を向けた。



「お前……俺に拳銃を渡したのは、これが狙いだな?」


「戦闘能力皆無な私を魔術兵と勘違いさせれば、君が動き易くなるし、奇襲や騙し討ちが出来るだろう?」


「性格悪りぃなぁ……しかも、お陰で俺の剣が奪われちまったよ。まぁ……愛剣、鍛冶屋に預けてて、代わりの剣だったから良かったんだがな」


「それでも、どちらにしろ動けない事に変わりはありません。 エルヴィン、どうしますか?」


「それなんだけど……」



 その時、1人の赤ん坊の泣き声が、客車内に響いた。

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