5-9 不穏な気配

 貨物車に居る謎の存在をスキルで観察し続けていたルートヴィッヒ。すると、自分達が居る客車にも、妙な気配を感じ取り、今度はアンナも分かったらしく、眉をしかめた。



「アンナ……気付いたか?」


「ええ……3人、ですね……」


「いや、残念ながら4人だ」



 真剣な顔付きで話を始めた2人に、状況が読み込めていないエルヴィンは、首を傾げた。



「2人共、何の話をしてるんだい?」


「この客車に、妙な奴が4人居る」


「彼等、全員が軍人か、元軍人の様で……しかも、細長い物が入った袋を持っています。まるで、銃が入っているような…………」


「それは穏やかじゃないね…………」



 流石にここまで聞いて、異常さに気付かず、危機感も感じないエルヴィンではない。


 囚人が乗った列車、しかも、組織に属していた囚人である。それを組織が奪還しに来たと考えれば、その不審な者達の説明が付いてしまうのだ。



「しかし、確証がないね……確かに4人も、銃を持つ気配がある者達が居るのは不審だけど、危険だと言う確固たる証拠がない。しかも……」


「もし、それを無視して我々が制圧しても、初手で2人が限界。残りの2人が他の乗客を人質にする可能性があります」


「更に悪い事がある。間違いなく、他の車両にも奴等みたいのが居るぞ!」



 ルートヴィッヒの【探知】スキルを使わずとも、それぐらいの予測は出来た。客車1つに4人も居るのであれば、他の車両に4人ずつ配置させる余裕があると考えられ、実際やっているだろう。

 客車7両に4人ずつ、計28人の解放のへブライウイングス・クリンゲメンバーが乗り込んでいる可能性が高いのだ。



「俺とアンナだけで、それだけ制圧するのは不可能じゃねぇが ……俺達、今、軍服着てっからなぁ……お陰で、彼方あちらさんに警戒されちまってる」


「しかも、貴方……剣は?」


「上の棚。こんな事態想定してなかったからなぁ……下手に取ろうと立ち上がるのは不味いしな。……まぁ、これでも、エルヴィンさえ戦えたら、何とかなったかも知れないがな」


「嫌味を言わないでくれよ……私も今、ヒシヒシと感じてるんだから…………」



 エルヴィンは苦笑を浮かべ、ルートヴィッヒも苦笑を浮かべながら、3人はどうするかを考えた。


 下手に動けば乗客に危険が及ぶが、このまま動かずとも乗客か危険に晒される。

 半ば積んだ状態であるが、考えた方が良いだろう。


 考え、対策を固めていく中、エルヴィンはふと、不穏な4人の死角となる形で腰から拳銃を抜くと、グリップをルートヴィッヒに向けた。



「ルートヴィッヒ、これを君に預けるよ」


「おいおい……それ護身用だろうが! 魔術も使えないお前が持ってなきゃならんだろう!」


「どうせ、私の射撃じゃ紛れ当たりが良い所だし……君が持っていた方が何かと都合が良い」


「……そうか……何か策があるんだな?」


「策……というより、保険だね」


「わかった……持っとくよ」



 ルートヴィッヒはエルヴィンから銃を受け取ると、上着の懐へと忍ばせた。


 そして、それと時を同じくして、他の車両にて銃声が鳴り響く。

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