5-6 下品な質問

 ライヒス鉄道、ゲルマン帝国の鉄道網3分の1を掌握する国営鉄道である。

 現在、この鉄道が保有する列車全て、いや、全世界の列車全てが似たような形をしている。

 先頭の牽引車は外見が蒸気機関車と酷似しているが、煙突が無い。というのも、この世界に蒸気機関の概念が無く、代わりに(魔導機関)が浸透しているからだ。

 (疑似魔方陣)を使用し、魔法エネルギーを運動エネルギーに変換して車輪を動かすこの世界の列車は、石炭を使わず、魔力が秘められた石、魔石を使うので、煙が出ない。

 この世界の列車は、蒸気機関車ではなく魔導機関車なのである。




 エルヴィンが現在乗る列車は12両編成で、一番前が牽引車、次から7両が客車、最後の4両が貨物車である。


 エルヴィン達は現在、4両目の、進行方向を見て中央左側の席に、向かい合って座っており、右側の席の窓側からエルヴィンとアンナが、左側の窓側にルートヴィッヒが座り、荷物は席の上、天井下の棚に置いている。


 そして、アンナは、さっきのエルヴィンによる褒め言葉の数々が未だ頭を反復し、恥ずかしさのあまり、エルヴィンから離れて通路側に寄りながら顔を彼から逸らしていた。



「アンナさん……どうしたの? もしかして知らぬ間に、私が何かしちゃったかな?」


「…………」



 まだ顔を逸らし続けるアンナに、エルヴィンは少し滅入り始め、事情を知るルートヴィッヒは、面白可笑しそうに笑みを浮かべ、2人を観察していた。



「アンナ……?」



 エルヴィンの声色に罪悪感が混じり始めると、それに気付いたアンナは、流石に心が痛み、吐息をこぼして、気持ちを切り替えた。



「エルヴィン……大丈夫です。貴方に非はありません」



 アンナはエルヴィンにシッカリと視線を向けながらハッキリとそう告げた。


 しかし、エルヴィンは次に首を傾げる。



「私の所為じゃないなら、何で君は私を遠ざけていたんだい?」


「そ、それは……何と良いますか……その…………」



 モジモジして言いよどむアンナ。ルートヴィッヒは「告白するチャンスじゃないのか?」と思い、先程より食い付いた様子で2人を眺め、そして、そんな中で、アンナは遂に告げた。



「……私の問題です……エルヴィンには関係ありません…………」


「そうか……何か、すまない…………」



 エルヴィンから目を逸らしながらヘタレ振りを発揮したアンナ。それに、ルートヴィッヒは車窓の外を眺めながら、口をへの字にする。



「やっぱり、ヘタレ森人エルフだ…………」



 2人に聞こえる声量で呟いた言葉に、意味の分からないエルヴィンは首をまた傾げ、意味が分かるアンナは。言い返す事も出来ず、少し悔しそうに、落ち込む様に、俯くのだった。


 アンナさえ告白すれば2人はくっ付くだろうと読むルートヴィッヒは、やれやれと思いながら吐息を吐くと、視線をエルヴィンへと向けた。



「エルヴィン、巨乳の美女と貧乳の美女、どっちが好きだ?」



 かなり下品な質問に、エルヴィンは目を細めた。



「何だ、その質問は……」


「いいから答えろよ…………」



 ニヤニヤと笑みを浮かべるルートヴィッヒに呆れつつ、まあ女子が居る前では無理だと、断ろうとしたエルヴィンだったが、隣に居るアンナが、懇願する様な瞳で、質問の答えに興味津々なのに気付いた。



「アンナさん……? 何で君の方が答えを知りたがっているのかな?」


「そそそっ、それは、ですね……それは…………」



 またも言いよどむアンナ。それにルートヴィッヒは、また呆れながらも助け船を出した。



「で? 早く答えてくださいよ! 御領主殿」



 急にかし出したルートヴィッヒに、エルヴィンは少し戸惑いつつ、アンナが何故か隣で答えを待っているので断る口実も失い、吐息を吐くと、渋々、答えた。



「わからない」


「ん? わからない? どういう事だ?」


「どちらにしても、女性本人の姿に合っているかどうかだと思う。女性を魅力的にさせるんだったら、どちらでも良いんじゃないかな?」



 エルヴィンから直に聞かされた事、胸の大きさだけでは人を判断しないと、想い人から直に告げられ、アンナは安堵の吐息をこぼした。


 しかし、聞いた本人であるルートヴィッヒは、期待外れと言わんばかりにふて腐る。



「下らん……実につまらん答えだ…………」



 ルートヴィッヒとしてはどっちの答えでも楽しめた。

 大きいのが好きだったら、凹むアンナにザマァと思えるし、小さいのが好きなら、喜ぶアンナに、慰めるように良かったねぇと馬鹿に出来る。

 どちらも出来くなったルートヴィッヒとしては、実につまらぬ答えであったのだ。



「あ〜あっ! なんと退屈な答えを言って下さったものだ……」


「そんなの知らないよ。君を楽しませる為に答えた訳じゃない」


「でも、本当は巨乳か貧乳が好きなんじゃねぇのか?」


「だから、わからないよ……そういう君はどうなんだい?」


「俺はそんなもん関係ねぇ。抱かせてくれる女か美人なら、胸の大きさがどんなでも好きになるね」


「それ……めちゃくちゃクズいよ…………」



 女好きのルートヴィッヒ、彼は見た目で判断もするが、基本、どんな女性でも抱いている。不細工でも、年寄りでも、傷のある者でも。恐らく、そういう所が、彼のモテる理由の1つなのだろう。やはり、クズい事に変わりないが。

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